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江戸攻防戦、彰義隊の戦いを通して明治維新を問い直す

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江戸のいちばん長い日 彰義隊始末記歴史家の安藤優一郎さんの歴史読み物、『江戸のいちばん長い日 彰義隊始末記』が文春新書から刊行されました。

安藤優一郎さんは、『西郷どんの真実』『「絶体絶命」の明治維新』『徳川慶喜と渋沢栄一』など、幕末維新に関する歴史読み物を多数著作されている歴史家です。

 彰義隊の名は、幕末に登場する白虎隊や奇兵隊そして新選組に比べると知名度ははるかに低い。映画やドラマで映像化されることもあまりない。一日もかからずに終わってしまった戦いであることも知名度の低さの理由だろう。
 しかし、その歴史的な意義は限りなく大きかった。
 
 (略)
 
 彰義隊の戦いとは戊辰戦争における関ヶ原の戦いと言ってもよいぐらいだ。戊辰戦争の最大のテーマは江戸をめぐる攻防戦にあった。
 しかし、いま一般的に語られている明治維新では、そうした視点が欠けているのではないだろうか。

(『江戸のいちばん長い日 彰義隊始末記』「プロローグ」P.10より)

タイトルの「いちばん長い日」から、半藤一利さんの『日本のいちばん長い日』を想起しました。
『日本のいちばん長い日』は、御前会議において降伏を決定した昭和二十年(1945年)八月月十四日の正午から、国民に対してラジオ(日本放送協会)の玉音放送を通じてポツダム宣言の受諾を知らせる八月十五日正午までの二十四時間を描いたノンフィクション書です。

同書も、第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦を描いた映画『史上最大の作戦』の原題The Longest Dayから取られたそうです。

本書『江戸のいちばん長い日 彰義隊始末記』では、彰義隊の戦い(上野戦争)が勃発して一日もかからずに終わってしまった、慶応四年(1868年)五月十五日を、「江戸のいちばん長い日」と言っています。

それは、徳川家康の江戸開府以降、江戸の「攻防戦」がなかったこと、新政府が徳川から江戸を取り上げて、東京遷都への道が一気には引かれていったことから、江戸の歴史の中でも特筆すべき重要な一日ということができます。

 各口から境内に突入した東征軍は、彰義隊を追って寛永寺の堂塔伽藍の数々に火を放つ。徳川家の菩提寺として栄耀栄華を極めた建物が焼け落ちていく。輪王寺宮のいた本坊も例外ではなかった。
 名実ともに、幕府の滅亡を告げる紅蓮の炎だった。江戸城の身代わりになったのかもしれない。

(『江戸のいちばん長い日 彰義隊始末記』「第五章 彰義隊、最後の日 ~戊辰戦争の天王山」P.170より)

 新政府が彰義隊を位置にで壊滅させたことで徳川家は牙を抜かれ、戦いの約十日後に、新政府は徳川家の駿河移封を明らかにしています。

本書では、彰義隊の結成から、その戦い、明治後の隊士たちの奔走までを赤らかにして、明治維新百五十年を迎えるに際し、薩摩・長州藩が主役に描かれる明治維新の歴史の裏に隠れた彰義隊の戦いの真実を問い直しています。

さて、著者が触れたように彰義隊を描いた映画やドラマ作品が少ないように、時代小説も多くありません。

上野寛永寺山主・輪王寺宮能久親王を中心に描いた、吉村昭さんの『彰義隊』と杉浦日向子さんの漫画『合葬』。彰義隊の戦いのシーンは少ないですが、北原亞以子さんの『まんがら茂平次』や松井今朝子さんの『幕末あどれさん』が印象に残ります。

◎書誌データ
『江戸のいちばん長い日 彰義隊始末記』
著者:安藤優一郎

出版:文藝春秋・文春新書
第1刷発行:2018年4月20日
860円+税
235ページ

●目次
プロローグ 河井継之助が目指したもの
第一章 徳川慶喜、江戸へ逃げ帰る ~戊辰戦争のはじまる
一、朝敵に転落した徳川家
二、慶喜、寛永寺に入る
第三章 彰義隊結成 ~江戸に迫る新政府軍
一、彰義隊の誕生
二、開戦迫る江戸
第三章 薄氷の江戸城無血開城 ~新政府軍参謀・西郷隆盛の苦衷
一、彰義隊、寛永寺へ
二、新政府の最後通牒
三、彰義隊の分裂
第四章 江戸で孤立する新政府 ~高まる彰義隊の人気
一、彰義隊人気の背景
二、江戸城の返還を求めた徳川家
三、西郷に向けられた不満
四、江戸城返還せず
第五章 彰義隊、最期の日 ~戊辰戦争の天王山
一、江戸のいちばん長い日
二、彰義隊の潰走
三、戦場の風景
四、敗残兵の行方
第六章 明治を生きた彰義隊士 ~上野公園の西郷銅像
一、徳川家、駿河移封
二、明治期の彰義隊士
三、上野公園の誕生と西郷銅像の建設
四、彰義隊の鎮魂
エピローグ
参考文献

■Amazon.co.jp
『江戸のいちばん長い日 彰義隊始末記』(安藤優一郎・文春新書)

『決定版 日本のいちばん長い日』(半藤一利・文春新書)
『彰義隊』(吉村昭・新潮文庫)
『合葬』(杉浦日向子・ちくま文庫)
『まんがら茂平次』(北原亞以子・新潮文庫)
『幕末あどれさん』(松井今朝子・幻冬舎時代小説文庫)

歴史家 安藤優一郎 オフィシャルサイト