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亡夫を思い続ける女と、秘かに慕う若侍を描く市井捕物小説

祥五郎想い文(一) 孫帰る片岡麻紗子さんの文庫書き下ろし時代小説、『祥五郎想い文(一) 孫帰る』が歴史行路文芸文庫からKindle版で刊行されました。

2007年8月に徳間文庫より刊行された『祥五郎想い文 孫帰る』の待望の復刊です。

「歴史行路」は、日本の歴史と文化を物語るウェブサイトで、気鋭の歴史時代作家たちが時代小説や読み物などを寄稿しています。本の装幀などグラフィックデザインを行う、ムシカゴグラフィクスが運営するサイトです。
http://rekishikouro.jp/

『祥五郎想い文(一) 孫帰る』は、その歴史行路がプロデュースする、時代小説文庫作品。

「時代小説SHOW」では、著者の片岡麻紗子さんの『樹下の空蝉』(徳間文庫)を、〈2014年時代小説・文庫書き下ろし部門のベスト10〉第1位に推しました。
片岡さんの作品は絶版扱いになっているものがほとんどで、今回の復刊は貴重な機会で、嬉しく思っています。

剣術の稽古帰り、香江の住む家に立ち寄った祥五郎は、花売りの老女・おくまと知り合う。おくまは、先立たれた娘が残した、二人の孫を養えずに手放した身の上話を語り始めた。木更津の廻船問屋に奉公へやった孫の一人とは、十年経ったら江戸へ戻ってきて、一緒に暮らそうと約束していた……。(第二話 孫帰る)

表題作の「孫帰る」ほか、連作形式の全4話を収録した市井時代小説集。

主人公の滝沢祥五郎は、丹波志川藩葺谷家の藩士の弟。冷や飯食いのため、剣術道場の代稽古と艶書書きで小遣いを稼いでいます。

堀田香江は、祥五郎と兄・主馬と幼馴染みで、志川藩士の夫の左門を亡くし、ひとり江戸で暮らしています。

第一話の「源平店の殺し」で、水茶屋勤めのおあきが、源平店の自宅で飲んだくれていた義父の作蔵に身売りをさせられそうになる場面から、物語は始まります。抱えていた徳利で作蔵のこめかみを殴って、逃げてきたおあきを香江は一晩家に泊めました。

ところが、祥五郎に送られておあきが源平店に戻ると、作蔵は胸を刺されて死んでいました。同心と岡っ引きが出張っていて、おあきは疑われます……。

 ようやく雨の峠を越えようかという頃、不意に青白い稲光が目を眩ませ、地が揺れるほどの音が響いた。
 香江が小さく叫び、祥五郎の腕に取りすがった。
 体の震えが香江の指先から伝わって、考えるより先に手が動いた。もう一方の手で、祥五郎は香江の肩を抱きとめていた。腕の中で震える柔らかな体が愛おしく、思わず、手に力をこめた。
 尾をひくような雷鳴が続いた。地を這ってきた轟きが、抱き合ったなりの祥五郎と香江に同じ響きを与えていく。

(『祥五郎想い文(一) 孫帰る』位置No.5318より)

捕物スタイルで周囲で起こった事件を解決していく謎解きをストーリーラインにしながらも、非業の死を遂げた夫を思い続ける若後家(未亡人)・香江へ秘かに恋慕の情を持つ祥五郎の心情が丹念に描かれていきます。

二人の微かな恋情に、抑制の利いた好ましさとじれったさともどかしさが味わえて、藤沢周平さんの佳編を想起させます。過不足ないストーリー構成、読み味の良さが魅力です。

「祥五郎想い文」シリーズは他に2作あるようなので、続編の刊行が待たれます。

サムネール:ムシカゴグラフィクス

◎書誌データ
『祥五郎想い文(一) 孫帰る』
著者:片岡麻紗子
出版:歴史行路・歴史行路文芸文庫
発行所:株式会社ムシカゴグラフィクス
発行:2018年3月15日
551円

●目次
源平店の殺し
孫帰る
稀代の錺り師
待つ女

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『祥五郎想い文(一) 孫帰る』(片岡麻紗子・歴史行路文芸文庫)Kindle版
『樹下の空蝉』(片岡麻紗子・徳間文庫)

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