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借財発覚! 高岡藩一万石、またもや崖っぷちに

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おれは一万石 紫の夢千野隆司さんの人気シリーズ「おれの一万石」の第3作、『おれは一万石 紫の夢』が双葉文庫から刊行されました。

美濃今尾藩三万石竹腰勝起の次男として生まれて、高岡藩一万石の井上家に婿養子入りして藩主の世子となった正紀は、新たな危難に見舞われます。

正紀に恨みと憎しみをもつ、戸川屋より、百二十七両におよぶ借金の返済を求められます。
堤の補修をするための杭二千本を用立てることができなかった高岡藩の財政では、借財は容易に返済できるものではありません。

高岡藩に、廻船問屋戸川屋から借金百二十七両の返済を求める書状が届いた、戸川屋の娘は、元国家老園田頼母の妻女だ。頼母は正紀暗殺を企てたとして腹を詰めている。復讐のにおいがするが、江戸家老佐名木源三郎の調べでは、借金は高岡藩としてなした正式なものであるという。
同じころ、日本橋北新堀町の下り塩仲買問屋の下り醤油七十石を運んでいた、酉猪丸が海上で覆面の浪人者や人足らに襲われて、荷を強奪される事件が起こった……。

多額の借財に頭を悩ます正紀に、妻の京は龍野藩当主の脇坂安董(わきさかやすただ)に面談するように勧めます。

 膳には、淡口醤油を用いた鯛の煮物も添えられている。正紀は龍野の醤油について、話を聞かせてほしいと依頼した。
「そうか、嬉しいことを聞いてくれるではないか。そもそも龍野醤油は、初代藩主安政様が信州から龍野に入封した寛文十二年(一六七二)から始まるぞ。土地には円尾という酒や味噌を醸造する家があってな、始めは醤油を拵えてはいなかった」
「安政様が、お勧めになったのでしょうか」
「円尾家の者と相談したのであろうな。そもそも龍野は、醤油造りには適した土地であった」
(『おれは一万石 紫の夢』P.94より)

脇坂家は淡口醤油が京や大坂で売れに売れて内福豊かであるとか。

第1作では利根川の氾濫と米作り、第2作では利根川の水運と塩がモチーフになっていましたが、第3作の本書では、この淡口醤油が物語のモチーフになっていて、タイトルの「紫」も醤油の色からとられています。

窮地に陥った正紀が、淡口醤油に藩の借財返済を託し、奔走していくところが読みどころのひとつです。

さて、作中で、安董は、正紀と一つ違いの二十歳で子供の頃に一緒に遊んだ仲として描かれています。
才気煥発で、後に寺社奉行、老中を務めます。
寺社奉行のときに、大奥女中を巻き込んだ女犯スキャンダル事件である、「谷中延命院一件」を裁いたことで知られます。

「谷中延命院一件」を描いた時代小説では、松本清張さんの『かげろう絵図』や、植松三十里さんの『大奥延命院醜聞 美僧の寺』があります。

◎書誌データ
『おれは一万石 紫の夢』
著者:千野隆司
双葉社・双葉文庫
第1刷:2018年2月18日
ISBN978-4-575-66872-8
本体611円+税

カバーデザイン:重原隆
カバーイラスト:松山ゆう
293ページ

●目次
第一章 消えた船
第二章 淡口の味
第三章 二人の男
第四章 四斗の樽
第五章 闇の川面
第六章 お墨付き

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『おれは一万石』(千野隆司・双葉文庫)第1作
『おれは一万石 塩の道』(千野隆司・双葉文庫)第2作
『おれは一万石 紫の夢』(千野隆司・双葉文庫)第3作

『かげろう絵図 上』(松本清張・文春文庫)
『大奥延命院醜聞 美僧の寺』(植松三十里・集英社文庫)