文春文庫期待の新人時代小説家、登場

文春文庫が自信を持って送り出す大型新人、八木忠純(やぎただすみ)さんの『喬四郎 孤剣ノ望郷 蜘蛛の巣店(きょうしろうこけんのぼうきょう くものすだな)』を読んだ。

蜘蛛の巣店―喬四郎 孤剣ノ望郷 (文春文庫)

蜘蛛の巣店―喬四郎 孤剣ノ望郷 (文春文庫)

文春文庫が新たに「書き下ろし時代小説」シリーズをスタートし、その第一弾として、新人の八木さんを発掘して抜擢した。しかも、新聞広告を見ると、北方謙三さんや諸田玲子さん、林真理子さんを抑えて、一番手の扱いにしている。並々ならぬ力の入り方だ。

『蜘蛛の巣店』を読み始めてすぐに、新人離れしたツボを押さえた巧みなストーリー展開で物語の世界に引き込まれた。

摂州上和田藩藩主・東条和泉守に仕えていた有馬喬四郎は、御国家老・東条兵庫に父を謀殺されたために脱藩し、江戸の長屋に身を潜めて復讐を誓う。が、友人宅で酒を飲んだ帰りに、刺客に襲われて三十六針を縫う大怪我を負って、高砂町の“蜘蛛の巣店”と呼ばれる長屋に運び込まれる。

蜘蛛の巣店は、七十七所帯が暮らす大きな長屋だったが、掏摸、かっぱらい、破落戸、地廻り、売女、小便組などが巣くっていて、うっかり中に入ろうものなら身ぐるみを剥がれる、岡っ引でさえ立ち寄るのを敬遠するというとんでもないところだった。一命を取り止めたものの借金をこしらえた、喬四郎は、よろず請負師の源七から怪しい仕事を紹介される…。

主人公の喬四郎は、油断から冒頭で大怪我を負うが、剣は中西派一刀流、柔術は関口流柔を修めた若者である。藩の重役の家に生まれながらも、江戸の市井に溶け込み、悪党たちと渡り合う柔軟性をも備えている。裏長屋に暮らしながら、貧しい子どもたちに手習いを教えたりする魅力的なヒーローだ。

前途有望な主人公が御家騒動に巻き込まれて脱藩し、浪人者として怪しい仕事で日銭を稼ぎながらも宿願を果たすべく日々を懸命に生きる。藤沢周平さんの『用心棒日月抄』から佐伯泰英さんの『密命』『居眠り磐音』シリーズにつながる、時代小説の黄金パターンを踏襲している。

作者のプロフィールを見ると、「生来の歴史好き、読書好きが高じて時代小説の執筆を志す。本業のかたわら書き溜めた「喬四郎シリーズ」が、初の著作となる。」と記されているだけで、生年や出身地も不明である。

しかしながら、上和田藩は架空の藩であるが、時代背景などディテールの確かさと、キャラクターのユニークさ、物語構成の巧みさなど、安定していて新人離れしている。シリーズ化を想定したスケール感、広がりも十分であり、続きが早く読みたくなる面白い時代小説の登場だ。

これだけ面白くて上質な書き下ろし作品ということは、優秀な編集者が付いているんだろうなあ。

喬四郎 孤剣ノ望郷 蜘蛛の巣店

●目次

一、三十六針の金瘡
二、必殺、関口流鬼拳
三、血に飢えた狼
四、十三夜の寒月
五、瞼の千鶴
六、故郷遥かなり

時代:明記されず
場所:富沢町、高砂町、浜町堀小川橋、八名川町、浅草花川戸町、新和泉町、狸穴坂、仙台坂、備前町、麻布竜土町、内桜田御門前
装画:宇野信哉
装丁:関口信介

コメント

  1. 齊藤 隆志 より:

    喬四郎シリーズの第3作を読んで驚愕しました。佐藤雅美の物まね以外の何者でもないからです。こんなものが出版されているのは大変嘆かわしい。著作権に違反するようなことはないが、物まねであることにかわりはない。