150年前の咸臨丸渡米の航海を描く時代小説

植松三十里(うえまつみどり)さんの『咸臨丸、サンフランシスコにて』を読みました。本書は、第27回歴史文学賞受賞作『桑港にて』を大幅に改稿して改題し、書き下ろし作品「咸臨丸のかたりべ」を加えて文庫化したものです。

2010年、今年は咸臨丸渡米150年にあたります。咸臨丸の渡米というとを描いた時代小説では、航海長として乗り組んだ小野友五郎の生涯を描いた、鳴海風さんの『怒濤逆巻くも』が思い出されます。

怒濤逆巻くも (新人物文庫 な 2-2)

怒濤逆巻くも (新人物文庫 な 2-2)

勝海舟や中浜万次郎(ジョン万次郎)、福沢諭吉のことが有名ですが、ほかの乗組員についてはあまり知られていないのが残念です。そんな中で、日本人水夫たちのことを描いた本書はとても興味深いです。また、緻密な資料調べで、サンフランシスコ滞在中の水夫たちの様子が生き生きと描かれていたのが印象的です。

咸臨丸の記録を丹念に掘り起こし、第一級資料『幕末軍艦咸臨丸』をまとめた市井の研究家・文倉平次郎の半生を描いた併載の「咸臨丸のかたりべ」も秀逸。アメリカで帰国のあてのないまま、7年間居住した経験をもつ著者らしい、文倉の心理描写が見事。

海外留学をする人に、ぜひ、この本を読んでほしいと思います。海外での心構えや励まされることなど、渡航前のオリエンテーションになるような貴重なアドバイスになります。

■安政七年、条約批准のため遣米使節団が江戸湾を出航した。勝海舟が艦長を務める「咸臨丸」には、総勢105人が乗船し、うち68人が水夫だった。瀬戸内海の塩飽諸島出身の吉松たち日本人水夫が乗り組むが、悪天候に悩まされ、不衛生な船室内で熱病も蔓延する。アメリカ人水夫との対立、士官・中浜万次郎への反発など不穏な空気の中、果敢に太平洋横断に挑んだ彼らを思わぬ運命が待ち受けていた。

●目次

咸臨丸、サンフランシスコにて

咸臨丸のかたりべ

文庫版あとがき

解説 縄田一男

『咸臨丸、サンフランシスコにて』

植松三十里・著

角川書店

角川文庫

293ページ

平成二十二年四月二十五日 初刷発行

カバーイラスト:浅野隆広

カバーデザイン:大武尚貴(角川書店装丁室)

時代:「咸臨丸、サンフランシスコにて」安政七年(1860)。「咸臨丸のかたりべ」明治三十三年。

場所:「咸臨丸、サンフランシスコにて」太平洋上、箱館、築地軍艦操練所、築地南小田原町、サンフランシスコ。「咸臨丸のかたりべ」サンフランシスコ、日本橋、霞ヶ関、西ヶ原、三田、鈴ヶ森。