インプレッション:「野望と夏草」

演劇「野望と夏草」約10年ぶりぐらいの観劇だった。最後に観たものは鴻上尚史さん演出のものだったと思う。というわけで、新国立劇場(東京・初台)も初めて。隣接するオペラシティタワーには、仕事で何回か訪れたことはあったのが…。折りからのクリスマス・イルミネーションのせいもあり、ロマンティックなたたずまいのある建造物で、演劇を観る雰囲気を盛り上げてくれる。

『野望と夏草』は、平安後期に君臨した後白河帝と平清盛の相克をダイナミックに描く歴史劇。作者の山崎正和さんは、『世阿彌』で、岸田國士戯曲賞(新劇界の直木賞に相当する)を受賞し、劇作家、評論家、大学教授として活躍されている。大学生の頃に、山崎さんの本を読んだ記憶があるのだが、題名を失念した。今回は、1970年の劇団雲の初演以来、30年ぶりの久々の上演だという。初演では、芥川比呂志さんが後白河帝を、小池朝雄(刑事コロンボの声優)さんが平清盛に扮し、山崎努さんや岸田今日子さん、北村総一郎さんらが登場したという。

ものがたり
平安後期、白河帝を皮切りに、引退した先帝が政治の実権を握る院政が行われていた。1156年、藤原信西、平清盛、源義朝らが、後白河帝による親政を旗印に、崇徳上皇の院政に対して反乱を起こす(保元の乱)。後白河帝側の勝利に終わるが、同時に血族が敵味方に分かれた戦いでもあった。この乱後、藤原信西が政事の中心になるが、同時に武士の力も強まっていく。後白河帝は早々に譲位し、院政を始めるが…。 
キャスト
津嘉山正種(つかやままさね):後白河帝
井上純一(いのうえじゅんいち):源義朝
たかお鷹(たかおたか):九郎
清郷流号(きよさとりゅうごう):徳大寺
青山良吉(あおやまりょうきち):崇徳上皇
尾崎右宗(おざきうそう):二条天皇
金久美子(きむくみじゃ):平時子
高橋紀恵(たかはしのりえ):阿波内侍
内野聖陽(うちのまさあき):平清盛
三木敏彦(みきとしひこ):藤原信西
村田則男(むらたのりお):源為義
松野健一(まつのけんいち):平忠正
鷲生功(わしゅういさお):堅田三郎
竹下明子(たけしたあきこ):いち
弥生みつき(やよいみつき):平徳子(建礼門院)

12月12日(土)の夜の部(ソワレ)を観た。2階の一番後ろの席で、ちょうど舞台関係者が観るような場所で、リラックスできた。小劇場でしかも前後の席に段差があるために、どの席からもよく見えるようになっていた。上演中に非常口の電光表示が消えるのもよかった。

『ふたりっ子』や『ラブ・ジェネレーション』などTVドラマで活躍する若手俳優の内野聖陽さんが主演ということで、女性の観客が目立った。劇場で芝居を観る層というと、小劇場を除いては比較的年配の方が多いように思われる。入場したばかりのときには、久々ということもあり、ちょっと戸惑った。

芝居が始まると、もう、舞台に目と耳が釘付けになってしまった。保元の乱で敗れ、 縛につく平忠正役の松野さんの口説の確かさ。今までの平清盛像を覆す、若々しい内野さんの熱演。そして、後白河帝のしたたかな人間性を巧みに演じ、舞台の成否の鍵を握る津嘉山さん。この人の演技が生で観れただけでも、入場料を払う価値はある。

意外な(?)収穫といえば、今様(平安時代の流行歌といったところか)の芸人・九郎役のたかお鷹さんの声の良さだ。シェイクスピア劇の阿呆役のように、硬質化しがちな劇にアクセントを加える働きと、その歌と踊りで舞台を明るくしている。その存在は、混乱の世を生き抜く庶民の象徴といったところか個人的には、昔、よく観た「夢の遊眠社」の主要メンバーの竹下明子さんが今様芸人・九郎の相方を務め、軽快な演技をしていたのがとてもうれしかった。

新国立劇場では、1999年1月11日(月)~26日(火)より、『新・雨月物語』を上演する。江戸後期に書かれた上田秋成の短編集を題材に、川口松太郎が創り上げた小説で、溝口健二が映画化したことで知られる作品だ。気鋭の劇作家・鐘下辰男が新感覚で大胆に脚色し、風間杜夫、石田ひかり、常田富士男らが主演する。戦国時代の大和国吉野が舞台ということで、楽しみにしたい。

演劇「野望と夏草」

1998年12月2日(水)~12月20日(日)
新国立劇場小劇場 [THE PIT]

作:山崎正和
演出:西川信廣

(1998/12/16)

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