「2017年7月の新刊 上」をアップ

女帝の密偵 雅や京ノ介2017年7月1日から7月10日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2017年7月の新刊 上」を掲載しました。

今回は徳間文庫に注目しています。

麻倉一矢さんの『女帝の密偵 雅や京ノ介』は、主人公がユニークで、設定もスケール感もある、魅力的な新シリーズの開幕です。

深川の町外れ、〈鬼灯長屋〉に、奇妙な看板がかかった。〈雅(みやび)や――よろず、みやびごと伝授〉。立花、茶の湯、書道、蹴鞠、和歌、源氏物語などを教えるというのだが、およそ裏長屋にはふさわしからぬ習い事。
この私塾を開いた浪人者・京ノ介は、女帝陛下の密命を帯びていた。京ノ介に襲いかかる朝廷転覆の策謀の裏には意外な黒幕が……。


伊東潤さんの『野望の憑依者』は、南北朝を代表するヒールの高師直を主人公にしたピカレスク小説です。

鈴木英治さんの新シリーズ第1作、『謀 明屋敷番秘録』や、かつての人気シリーズが再開となる、鳥羽亮さんの『新まろほし銀次捕物帳』など、食指の動く作品が刊行されます。

■Amazon.co.jp
『女帝の密偵 雅や京ノ介』(麻倉一矢)
『野望の憑依者』(伊東潤)
『謀 明屋敷番秘録』(鈴木英治)
『新まろほし銀次捕物帳』(鳥羽亮)

→2017年7月の新刊 上

ペット、縁談、幽霊騒ぎ…、今日も泣き虫先生は大忙し

手習い所 純情控帳 泣き虫先生、幽霊を退治する誉田龍一(ほんだりゅういち)さんの文庫書き下ろし時代小説、『手習い所 純情控帳 泣き虫先生、幽霊を退治する』が双葉文庫より刊行されました。
ちょっとしたことにすぐ感動して涙を見せることから、「泣き虫先生」と呼ばれる、手習い所の新米・師匠の三好小次郎が活躍する人情時代シリーズ第2作です。

本所石原町の「刀林寺」住職・諾庵に請われるまま手習い所「長楽堂」の先生になった小次郎。武士なのに涙もろくて、子供たちから「泣き虫先生」と呼ばれてすっかり人気者になった。
小次郎同様に、諾庵を頼り長崎から江戸へ上がってきて、寺の持ち物である小さな家を借りて住んでいる、動物専門の医者・お蘭。そのお蘭が虐待に遭って怪我をしている子犬を助けた。諾庵のかつての教え子であり、長楽堂に出入りをする南町奉行所同心・小山鉄五郎によると、本所、深川界隈では動物いじめが多いという。
そんな中で高価な飼い犬・狆の飼い主である、大店のおかみさんから愛犬がかどわかしに遭い、小次郎らが行方を追うことになった……。


一話完結の連作形式で、今巻では、ペットの虐待事件、長楽堂のマドンナであるお近の縁談話、子供たちのいじめと恐喝事件、幽霊騒ぎと、小次郎の周りで事件が次々と起こり、大忙しです。

小次郎は、持ち前の明晰な頭脳と洞察力で事件の真相に迫りますが、ユニークな武器は「涙」です。ちょっとしたことにすぐに感動して、涙を流すことで、事件の鍵を握る人物の心を動かし、解決の糸口となる言動を引き出します。

「塵劫記(じんこうき)なんかよりも、『商売往来』を教えて欲しいんだがな……」
 塵劫記は和算の書であり、商売往来は商人が使う言葉の読み書きと意味を教えるための書物である。
(『手習い所 純情控帳 泣き虫先生、幽霊を退治する』P.10より)


先生としては、『塵劫記』が一番得意で、子供たちは読み書きだけでなく、算術が必要と説きます。

本書の中で、一斗(約18リットル、十升)桶にいっぱい入った油を、七升と三升の枡を使って、一斗桶と七升枡に、それぞれ五升ずつ分けるにはどうするかという、『塵劫記』からの問題を子供たちに出題します。
「油分け算」と呼ばれるよく知られた和算の問題です。

ほかにどんな和算の問題を取り上げているのか興味を持ち、『塵劫記』が岩波文庫から出ていることを知り、入手することにしました。

小次郎の涙だけでなく、物語全編を通して、子供たちをはじめ登場人物たちのユーモラスなやり取りが楽しい人情時代シリーズです。

■Amazon.co.jp
『手習い所 純情控帳 泣き虫先生、江戸にあらわる』(第1作)
『手習い所 純情控帳 泣き虫先生、幽霊を退治する』(第2作)
『塵劫記』(吉田光由著・岩波文庫)


「2017年6月の新刊 下」をアップ

かたづの!2017年6月21日から6月30日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2017年6月の新刊 下」を掲載しました。

今月の集英社文庫が何とも楽しみです。

中島京子さんの『かたづの!』が遂に文庫化されます。

慶長五年(1600年)、角を一本しか持たない羚羊が、八戸南部氏20代当主である直政の妻・袮々と出会う。羚羊は彼女に惹かれ、両者は友情を育む。やがて羚羊は寿命で息を引き取ったものの意識は残り、祢々を手助けする一本の角――南部の秘宝・片角となる。
平穏な生活を襲った、城主である夫と幼い嫡男の不審死。その影には、叔父である 南部藩主・利直の謀略が絡んでいた……。


第28回柴田錬三郎賞、第4回歴史時代作家クラブ賞作品賞など、単行本として刊行された2014年に数々の賞を受賞。『小さいおうち』の作者が挑む初の時代小説です。

北方謙三さんの『岳飛伝 8 龍蟠の章』は、来るべき戦いを控えて平穏な日々が……。

『時代小説 ザ・ベスト2017』は、青山文平さん、植松三十里さん、谷津矢車さん、吉川永青さんら今、勢いのある時代小説家12人の短編を収録しています。

■Amazon.co.jp
『かたづの!』(中島京子)
『岳飛伝 8 龍蟠の章』(北方謙三)
『時代小説 ザ・ベスト2017』(日本文藝家協会)

→2017年6月の新刊 下


六代将軍家宣の実弟松平清武が、享保の改革を助ける

将軍を蹴った男 松平清武江戸改革記誉田龍一(ほんだりゅういち)さんの文庫書き下ろし時代小説、『将軍を蹴った男 松平清武江戸改革記』がコスミック・時代文庫から刊行されました。
三代将軍家光の孫にして六代家宣の実弟という血筋で、七代将軍家継が危篤に陥った折、八代将軍の第一候補でありながら、権利をあっさりと放棄した、上州館林藩主松平清武。その清武を主人公にしたシリーズ第2弾です。

松平清武は、次代将軍就任を懇請されながら、庶民の目線第一という姿勢を頑なに貫き通し、長屋住まいを続けていたのである。
そんな人柄と才を見抜いたのは、八代将軍となった吉宗であった。清武は南町奉行の任に就くことになる大岡越前守忠相とともとに、強引に政の補佐役とされ、市中から世直しに尽力。
足高の制や相対済令の制定や小石川養生所の設立など、おなじみの改革を陰から推進していく。享保の悪を斬る正義の剣が新しい世を築いてゆく……。


本シリーズでは、清武が身分を隠して市井に暮らし、庶民が遭遇する事件や出来事、困窮ぶりを将軍吉宗に伝え、世を正すための提言をしていくところが読みどころです。
「享保の改革」として知られる改革の多くに、清武が絡んでいたという設定に興趣を覚えます。

享保の改革は、後に行われた寛政の改革や天保の改革のように、失敗に終わらずに一定の成果を残した要因としては、庶民生活や経済活動に精通した視点が盛り込まれていたように思われてなりません。

改革の裏に、清武のような影の補佐役がいても不思議ではなくリアリティをもって読み進められます。
また、高齢を理由の一つに将軍位を蹴った清武の年齢に似合わぬ、颯爽としたチャンバラシーンからも目が離せません。

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『将軍を蹴った男 松平清武江戸奮闘記』(第1作)
『将軍を蹴った男 松平清武江戸改革記』(第2作)


『文蔵 2017.7』の特集は、「青春小説」の新潮流

『文蔵 2017.7』『文蔵 2017.7』(PHP研究所・PHP文芸文庫)の特集は、友情、恋愛、部活、謎解き…… 「青春小説」の新潮流 です。

特集では、『ヒトリコ』、『屋上のウインドノーツ』の作者・額賀澪(ぬかがみお)さんへのインタビューを収録。ライターの友清哲さんが、「今」という時代を切り取った青春小説9編を紹介します。

時代小説ファンとして注目したいのは、葉室麟さんの『暁天の星』の新連載です。
明治時代に、伊藤博文のもとで、不平等条約の改正に尽力した陸奥宗光を主人公にした時代小説。

幕末から明治にイギリスの外交官として活躍した、アーネスト・サトウが日記に

――陸奥の二度目の夫人、若くてたいへんな美人、すずしい眼とすばらしい眉。

と書き、「鹿鳴館の華」と呼ばれた、宗光の後妻・陸奥亮子も登場します。

陸奥宗光夫人・亮子と鹿鳴館を取り上げた時代小説に、山田風太郎さんの『エドの舞踏会』があります。

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『文蔵 2017.7』(PHP文芸文庫)
『エドの舞踏会―山田風太郎明治小説全集(8)』(山田風太郎・ちくま文庫)

⇒『文蔵』ホームページ