「2018年2月の新刊 中」をアップ

暁天の志 風の市兵衛 弐2018年2月11日から2月20日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2018年2月の新刊 中」を掲載しました。

今回取り上げるのが、祥伝社文庫です。

辻堂魁さんの『暁天の志 風の市兵衛 弐』は、「風の市兵衛 弐」と付いているように、シーズン2の第1作となります。“算盤侍”唐木市兵衛が活躍する大人気シリーズがどのような展開を見せていくか、「風の市兵衛 弐」に妄想が膨らみます。

今村翔吾さんの『鬼煙管 羽州ぼろ鳶組』は、京都を未曾有の大混乱に陥れる火付犯とそれに立ち向かう男たちを描いたシリーズ第4弾です。

火消・羽州ぼろ鳶組の松永源吾と京都西町奉行の長谷川平蔵(鬼平の父、長谷川宣雄のほう)らがどのように、火付犯と戦うか、興味が尽きません。

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『暁天の志 風の市兵衛 弐』(辻堂魁・祥伝社文庫)
『鬼煙管 羽州ぼろ鳶組』(今村翔吾・祥伝社文庫)

→2018年2月の新刊 中



大地震、大火、大雪、御家騒動。藩を守るため戦った小栗美作

雪に咲く村木嵐(むらきらん)さんの『雪に咲く』がPHP文芸文庫から刊行されました。

江戸に幕府が開かれて五十年余り。後に越後高田藩筆頭家老になる小栗美作は、大地震の後処理で手腕を発揮し、藩主・松平光長の信頼を勝ち取る。しかし光長の嫡子が亡くなると藩内は二つに割れ、御家騒動へと発展。そんな高田藩を取り潰そうと幕府は虎視眈々と機会を窺っていた……。


寒波が襲来して、日本海側を中心に雪が続いています。東京でも日陰では先週降った雪が残っていています。雪に打ち克つような本を読みたいと思い、この本を手にしました。

主人公は、越後騒動の中心人物、越後国高田藩の筆頭家老小栗美作(おぐりみまさか)です。
藩主の松平光長は、家康の次男秀康を祖とする越前福井藩の2代藩主松平忠直の子で、忠直が乱行を理由に改易になった翌年に、越後高田26万石が与えられています。
将軍家の兄筋で本来なら将軍を継ぐべき立場にあって、制外(幕府の処罰対象外)の家という意識を強く持っていました。

物語は、慶安三年(1650)、父忠直が配流先で亡くなり、藩主光長に引き取られた三人弟妹(市正、大蔵、お閑)と、美作や同じ家老の嫡男の荻田本繁、片山主水らが御目見をするところから始まります。

その場で、美作は、光長にお閑を妻にほしいと願い出て許されます。
家康の血筋であるお閑と夫婦になったことで、美作のその後の人生が大きく変わっていきます。

「雪国は頑固者が多いと聞く」
 高田は一年の三が一を雪に閉ざされる。そのあいだは土も日差しも見ることができず、他国で何が起きても音さえ届かない。雪のないときでも、江戸までは早飛脚で三日もかかる。
「越後には、およそ頑固者はおりませぬ。ただ辛抱強いだけでごあいます。こたびも必ず、城下はすぐもとに戻ります」
 我を通していては、あの雪は掻けない。高田には降るぼた雪はすぐ根雪になるが、遠くの峰が白く染まりはじめると、来るなら来いと腕が鳴る。見渡すかぎり雪に埋められても、高田では黙々と雪を掻いて春を待つ。
(『雪に咲く』P.80より)


美作は、高田を襲った大地震の復興のために幕府から五万両を借り受けたり、河村瑞賢を招いて行った用水路の開削と新田の開墾、直江津の港の整備を行なったり、藩政で大いに治績を挙げた有能な家老でした。

その一方で、藩主の妹を娶って豪奢な生活をしていたことや、藩士の禄を地方知行制から蔵米制に改めたり、実力本位で家臣を登用したりしたことから、評判を悪くして、重臣たちを中心に「御為方」という反対勢力を藩内につくるようになりました。

藩を守るために次々に降りかかる難題に対峙する美作。同じ家老で朋輩の荻田本繁との友情、制外の家・高田藩を監視する酒井雅楽頭の女間者も絡んで、物語はクライマックスの越後騒動に。

雪の中に見事に咲いて散った花に、不覚にも感動の涙がこぼれました。

◎書誌データ
『雪に咲く』
著者:村木嵐
中央公論新社・PHP文芸文庫
第1版第1刷:2018年1月23日
(単行本『雪に咲く』2013年12月 PHP研究所刊)

装画:ヤマモトマサアキ
装丁:芦澤泰偉
解説:細谷正充

●目次
第一章 銀の雨
第二章 春、東西
第三章 高田大地震
第四章 猫じゃらし
第五章 雁木道
第六章 騒動
第七章 冬ふたたび
第八章 雨の降る

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『雪に咲く』(村木嵐・PHP文芸文庫)



「2018年2月の新刊 上」をアップ

地に巣くう2018年2月1日から2月10日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2018年2月の新刊 上」を掲載しました。

今回取り上げるのが、光文社文庫です。

あさのあつこさんの『地に巣くう』が刊行されます。

剣呑で歪で異様な気配を纏う、北定町廻り同心・木暮信次郎と小間物屋主人・遠野屋清之介。互いの存在に揺さぶられ、激しい情動に疼く二人。突然襲われ怪我をした信次郎は、岡っ引き伊佐治とともに、ひとりの男の死から、二十年前に遡る今は亡き父・右衛門の真実と闇に迫る。同じ同心として生きた父と息子。男は己の父とどう向き合うのか。
(単行本の紹介文より)


傑作捕物小説『弥勒の月』から始まる、「弥勒」シリーズの第6作目です。

北町奉行所定町廻り同心木暮信次郎と、小間物問屋「遠野屋」主人・清之介、因縁ある二人が絡み合うとき、事件が大きく動きます。二人の奇妙な関係から目が離せない、サスペンス時代小説です。

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『弥勒の月』(あさのあつこ・光文社文庫)
『地に巣くう』(あさのあつこ・光文社文庫)

→2018年2月の新刊 上




2017年の時代小説ベスト10・単行本部門を発表

「時代小説SHOW」の2017年時代小説ベスト10の【単行本部門】を発表しました。

守教 上【単行本部門】のベスト10の第1位は、帚木蓬生さんの『守教 上・下』です。

戦国期から幕末の開国まで、イエズス教(キリスト教)の教えを守り抜いた、九州・筑後の小さな村の隠れキリシタン秘史。

宣教、禁教、殉教…、布教の目覚ましい拡大を史実を織り交ぜて描く上巻。一転して下巻ではキリシタン暗黒時代を描きます。密告の恐怖、公開処刑の残虐さ、信仰への迷い、教えを棄てたと偽りながらも信念を曲げない隠れキリシタンたちの姿に、途中で涙が止まらなくなりました。

史実に寄り添いながらも、信仰に命を捧げる人たちを血が通った等身大の人として、しっかりと描いています。私はその教えについて全くの門外漢でしたが、本書を通じて多くのことを知り、深い感銘を覚えました。

7位から10位は、以下の通りです。

7位 『鳳凰の船』 浮穴みみ 双葉社
8位 『遠縁の女』 青山文平 文藝春秋
9位 『煌』 志川節子 徳間書店
10位 『裏関ヶ原』 吉川永青 講談社

です。

2位~6位が気になる方は→こちらをどうぞ。

維新の先駆け、中山忠光と天誅組の四十日間の光跡を描く

志士の峠植松三十里(うえまつみどり)さんの歴史時代小説、『志士の峠』(中公文庫)を紹介します。

文久三年(一八六三)、帝の行幸の先ぶれを命じられた公家・中山忠光は、勤王志士らと大和で挙兵した。五条の代官所を襲撃し新政府樹立を宣言するが、親幕派の公家や薩摩藩などにより一転、朝敵とされ討伐軍を差し向けられる。満身創痍で深き山々を駆ける志士たちの運命は!?


勤王を掲げて挙兵し、明治維新の先駆けとなった幕末の「天誅組」の激闘を描いた歴史長編です。

天誅組の総大将となるのは、尊王攘夷派の公家・中山忠能(なかやまただやす)の七男・忠光(ただみつ)。
忠光の姉の慶子は、禁裏の典侍を務め、帝(孝明天皇)の寵愛も深く、後に明治天皇となる祐宮(さちのみや)を産んでいます。

つまり、明治天皇と忠光は、甥と叔父の関係になります。

 池は風呂敷包みを、自分の背中に斜めがけにした。
「だいいち御前が、こんなのを斜めに担いでたら、まっこと鬼ヶ島に征伐に行く桃太郎のようじゃ」
 吉村が吹き出した。
「そう言うたら、絵双紙に出てくる桃太郎じゃ。さしずめ、わしは犬で、池が猿やな。いや、池は雉か」
 忠光は不満顔で聞いた。
「どこが桃太郎や」
 池が声を大にして、得意げに言う。
「これから鬼退治やのうて、五条の悪代官退治ぜよ」
(『志士の峠』P.19より)


忠光は、土佐脱藩浪士の吉村寅太郎と池内蔵太(いけくらた)らと鬼ヶ島退治感覚で、帝の大和行幸の御先鋒隊の先駆けとして挙兵します。

希望に満ちた若者らしい激烈な行動で、五条代官所を襲撃し、翌日には五条新政府を打ち立てます。
その忠光のもとに都から使者がやってきます。政変が起こり、大和行幸が無期延期となり、資金を提供していた長州藩も都を追われるという。

御先鋒隊の先駆けから一変して朝敵に。忠光らは天誅組に名乗りを変えて、勤王の志の強い地域を目指します。

 忠光は立ち上がると、また隊士たちに語りかけた。
「きっと私は逃げ切って、天誅組の正義を世に知らしめる。私だけやのうて、ひとりでも多く、命を存えてくれ。生き残った者たちで、次こそ挙兵を成功させて、新しい世の中を作ろう。せやから、もう少しの間だけ、誇り高き天誅組の大将を、私に務めさしてくれ」
(『志士の峠』P.262より)


大和の山間部を貫く西熊野街道から東熊野街道を逃走し、天辻峠、伯母峰峠、竹内峠など峠を越えていく志士たち。

歴史の持つ非情さに翻弄されながらも、理想を貫こうと気高く生きる忠光ら天誅組の若者たちの姿に胸が熱くなります。


◎書誌データ
『志士の峠』
著者:植松三十里
中央公論新社・中公文庫
初版発行:2017年12月25日
(単行本『志士の峠』2015年4月 中央公論新社刊)

カバーイラスト:ヤマモトマサアキ
カバーデザイン:中央公論新社デザイン室
解説:細谷正充

●目次
第一章 鐘、鳴り響く
第二章 五条新政府
第三章 天ノ川辻にて
第四章 十津川郷士参上
第五章 高取城夜襲
第六章 白銀岳本陣
第七章 木枯らし吹く
第八章 伯母峰峠越え
第九章 最終決戦の地
第十章 逃走の果てに
解説 細谷正充


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『志士の峠』(植松三十里・中公文庫)