「2017年11月の新刊 中」をアップ

九紋龍 羽州ぼろ鳶組2017年11月11日から11月20日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2017年11月の新刊 中」を掲載しました。

今村翔吾さんの『九紋龍 羽州ぼろ鳶組』が祥伝社文庫より刊行されます。
新庄藩火消・通称〝ぼろ鳶〟組頭・松永源吾が活躍する、痛快火消小説シリーズ。『火喰鳥』『夜哭烏』に続く、第3弾です。

火事を起こし、その隙に皆殺しの押し込みを働く盗賊・千羽一家が江戸に入った。その報を受けた新庄藩火消・通称〝ぼろ鳶〟組頭・松永源吾は火付けを止めるべく奔走する。だが藩主の親戚・戸沢正親が現れ、火消の削減を宣言。
一方現場では九頭の龍を躰に刻み、町火消最強と恐れられる「に組」頭〝九紋龍〟が乱入、大混乱に陥っていた。絶対的な危機に、ぼろ鳶組の命運は!?


手に汗に握る、興奮をして、泣かせてくれる、今、注目のシリーズ最新作の登場。楽しみです。

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『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』(今村翔吾・祥伝社文庫) 第1作
『夜哭烏 羽州ぼろ鳶組』(今村翔吾・祥伝社文庫) 第2作
『九紋龍 羽州ぼろ鳶組』(今村翔吾・祥伝社文庫) 第3作


→2017年11月の新刊 中


吉宗の密命を帯び、将軍名代の巡見使新九郎、信濃路を行く

無双の拝領剣 巡見使新九郎山田剛(やまだたけし)さんの文庫書き下ろし時代小説、『無双の拝領剣 巡見使新九郎』がコスミック・時代文庫より刊行されました。

著者の山田さんは、2011年に第17回歴史群像大賞佳作を受賞して、デビュー。受賞作「刺客――用心棒日和」は、『大江戸旅の用心棒 雪見の刺客』と改題して、学研M文庫から刊行されました。
ほかに、『中町奉行所内与力 かみそり右近』『御花畑役秘帖 返り咲き三左』(いずれも学研M文庫)などの作品があります。

学研M文庫がなくなってから新作の刊行がありませんでした。
江戸の市井を舞台に、空前の旅ブームに沸く天保期のお江戸見物の案内人や江戸時代に一時期だけ存在した中町奉行所などを題材に取り入れながら、人情味豊かな主人公が事件を解決したり、悪を懲らしめたりする、良質な文庫書き下ろし時代小説の書き手として動向が気になっていた作家の一人です。

「新九郎、余の名代になってくれ」――八代将軍吉宗に突如呼び出され、こう告げられたのは、日本橋は浮世小路の風来坊であった。だがこの新九郎、実は旗本寄合席で、北町奉行稲生正武の次男坊という身。家を飛び出し、御用人加納久通の屋敷へ出入りする内、将軍家と昵懇になっていた。吉宗は、人を見る目が長けていると評する新九郎に、「巡見使として諸国を巡り、改革の成果を見て来てくれ」と、懇願したのである。
一命を懸けて上様の力となる、決意した新九郎は江戸を出立。お庭番の川村源右衛門、その娘・篝、三浦左平次の三人の供と中山道の旅人となる。腰に差すは、吉宗から拝領した名刀・小龍景光……。


本書の主人公新九郎の父は、北町奉行稲生正武(いのうまさたけ)。正武は、江島生島事件と天一坊事件の追及に寄与した人物です。天一坊事件というと、同時代に南町奉行を務めた大岡越前守忠相の手柄とされていますが……。

巡見使には、大名を監察する諸国巡見使と、天領および旗本知行地を監察する御料巡見使があります。

「巡見使と申せば、これまでは将軍家代替わりの折に遣わされておられたかと。しかみ、諸国には前以てご通達遊ばれていたのではございませぬか」
「いや、今じゃ。今でなければならぬ、事前の通達も一切せぬ」
 吉宗はきっぱりと言った。
「つまり、隠密の巡見使じゃ」
(『無双の拝領剣 巡見使新九郎』P.31より)


新九郎は、吉宗より、新たに「葵新九郎」の名と「諸国何処なりとも通行勝手」の将軍お墨付きの書付を下されて、中山道の山間部の国々の人々の暮らしぶりを巡見することを命じられます。

その後、新九郎は、第一話では追分宿で中山道に別れを告げ、北国街道に入り、小諸城下に入ります。そこで、病に罹った旅の母子の面倒を看る下級藩士の家族が登場します。
藩士は、見張り番をしていた城の宝蔵のが破られて、桂昌院様から下賜された宝刀を盗まれるという失態を犯して、家禄を三分の一に削られて普請役に回されていました。

新九郎は、人情に厚い藩士の汚名返上と家族を助けるために、宝刀の盗難事件の謎を追います。

新九郎ら一行は、第一話の小諸の後、第二話では上田、第三話では松代と、信濃路の城下町を行きます。
旅情が楽しめて、痛快で読み味の良い正統派の文庫書き下ろし時代小説の誕生です。


■Amazon.co.jp
『無双の拝領剣 巡見使新九郎』(山田剛・コスミック・時代文庫)
『大江戸旅の用心棒 雪見の刺客』(山田剛・学研M文庫・Kindle版)
『中町奉行所内与力 かみそり右近』(山田剛・学研M文庫・Kindle版)
『御花畑役秘帖 返り咲き三左』(山田剛・学研M文庫・Kindle版)


幼馴染みとの恋、初めての大きな仕事。ひたむきに生きる女職人

雪華燃ゆ 上絵師 律の似面絵帖知野みさき(ちのみさき)さんの『雪華燃ゆ 上絵師 律の似面絵帖』が光文社文庫より刊行されました。

着物の上絵描きを職業とする職人・上絵師(うわえし)として独り立ちを目指す若い女性・律(りつ)を主人公に、仕事と恋と事件を描く人気シリーズの第3作です。

上絵師として、初めて着物を手がけることになった律。粋人として名を馳せる雪永が親しい女に贈るものだ。張り切って下描きを仕上げる律だが、なかなか良い返事がもらえない。
そんな中、ある女から金を騙し取ったという男の似面絵を引き受けるのだが……。


江戸の女性たちというと、嫁に行き、子供を産み育てるということがすべて、というような社会の価値観に基づいて、ステレオタイプに描かれることが多いです。

ところが、本書のヒロイン・律は自分の腕で生計(ときには似面絵描きの副業をしながら)を立ています。上絵師という職業に、情熱とプライドを持ちながらも、幼馴染みの涼太との恋も実らせたいと願っています。

若い女性の抱える、仕事と恋の二大テーマをしっかりと描いていることが、このシリーズの大きな魅力の一つです。現代の女性に通じるようなヒロインの律に、共感を抱きながら読み進めることができます。

そして、得意の似面絵描きの副業を通じて、さまざまな事件に関わっていきます。ときには捕物の手伝いもするということで、手に汗握るようなシーンも物語に散りばめらえれています。

 唇が触れて……離れた。
 一尺と間のない涼太と目が合って、律は慌ててうつむいた。
「じゃ……また明日」
「はい」
(『雪華燃ゆ 上絵師 律の似面絵帖』P.7より)


衝撃的なファーストシーンから始まる、律と涼太の恋の行方とともに、二人を取り巻く周囲の人々も物語性豊かに精緻に描かれています。

今回、粋人・雪永が着物を贈る相手として、椿屋敷に住むお千恵という女性が登場します。
痛ましい過去があり、不思議でとらえどころのない存在感を持つ謎の女性・お千恵。初めての大きな仕事に取り組んでいく律は、いかに彼女を理解して、ピッタリの着物を仕上げていくのか、興味を掻き立てられて、一気に読ませます。


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『落ちぬ椿 上絵師 律の似面絵帖』(第1作)
『舞う百日紅 上絵師 律の似面絵帖』(第2作)
『雪華燃ゆ 上絵師 律の似面絵帖』(第3作)


「2017年11月の新刊 上」をアップ

関越えの夜 東海道浮世がたり2017年11月1日から11月10日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2017年11月の新刊 上」を掲載しました。

徳間文庫から、澤田瞳子(さわだとうこ)さんの『関越えの夜 東海道浮世がたり』が文庫になって刊行されます。

両親と兄弟を流行り風邪で亡くし、叔母に育てられている十歳の少女・おさき。箱根山を登る旅人の荷物持ちで生計を立てている彼女は、ここ数日、幾度も見かける若侍が気になっていた。ふつう、旅人は先を急ぐはずだが、誰かを待っているのか?(「関越えの夜」)表題作ほか、品川宿から京都まで、東海道を上るさまざまな人々の喜怒哀楽を描く時代小説集。


東海道を舞台にした時代小説は少なくありませんが、内容はコミカルなものや剣豪もの、捕物小説など、多種多様です。
本書は、東海道を行き交う人々の人間ドラマを描いた連作集で、しかも若手実力派の著者さんということで、とても惹かれます。

表紙のイラストレーションに描かれている白い子犬は物語に登場するのかしら。

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『関越えの夜 東海道浮世がたり』(澤田瞳子・徳間文庫)


→2017年11月の新刊 上


長く切ない恋を成就させた栄三。取次屋ファミリーに新展開

二度の別れ 取次屋栄三(18)岡本さとるさんの『二度の別れ 取次屋栄三(18)』が祥伝社文庫より刊行されました。

手習い道場を営むかたわら、武家と町人の間に入って、時には丸くまた時には強引に収める取次屋商売を営む秋月栄三郎(栄三)が活躍する人気シリーズ。
今巻で18作目。第1作の刊行が2010年12月なので、早いもので8年近くが経過したことになります。

秋月栄三郎の手習い道場に久栄が嫁いできたのを機に、弟子の又平は裏の長屋に引っ越した。やがて生まれる二人の子の成長を見たいがためだった。
ある日、長屋に捨て子が。騒然とする中、又平は満面の笑みで面倒をみると宣言し、赤子の世話を始める。一方、栄三は赤子の親捜しを開始する。すると、栄三も知らなかった又平の切ない恋心が……。


運命的な出会いと別れ、そして再会。

弟・房之助を世に出さんとして苦界に身を沈めた久栄。房之助はその甲斐もあり、異例の引立てで三千石の旗本・永井勘解由の婿養子となりました。久栄も栄三郎の手によって根津の妓楼から受けだされて萩江という名で永井家の奥向きの女中の束ねとなりました。

栄三郎と久栄は、幾多の障害を乗り越えて、長くもじりじりとした恋模様を続けた末に、勘解由の取り計らいもあって遂に結ばれます。

手習い所の手伝い、剣術道場の門人、取次屋の番頭の三つの顔を持っていて、一の子分として、長年栄三郎の身の回りの世話をする又平は、だれよりも二人の恋の成就を喜んでいます。

今回は、その又平に恋の予感が……。

 又平は、懐から取り出した財布をおよしの右手に握らせた。
「又平さん、いけません。わたしはこんなことをしてもらうつもりで、ここまで来たんじゃあないんです。少しくらいなら持ち合わせもありますし……」
 およしは慌てて財布を返そうとしたが、又平はしっかりとそれを押し止めて、
「いいんだよ。色んな男がいる中で、おれに叱られたいと思ってわざわざここまで来ただなんてよう。おれは今とても好い気持ちなんだ。これはそのお礼だよ。ははは、大して入ってねえから案ずることもないさ。情けねえ話だが」
(『二度の別れ 取次屋栄三(18)』P.71より)


人情に厚くて思いやりがあり、笑いに溢れる栄三郎。彼の周りには、その人柄に惹かれて、心温かい人たちが集まります。このシリーズの魅力は、そんな栄三ファミリーともいうべき、栄三郎とその仲間たちの繰り広げる人情劇にあります。

さて、また読書を続けたいと思います。

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『取次屋栄三』(岡本さとる・祥伝社文庫)
『二度の別れ 取次屋栄三(18)』(岡本さとる・祥伝社文庫)