藤沢さんが描く、小日向の風景

藤沢周平さんの『橋ものがたり』を読み終えた。十数年前に読んだときよりも、市井の男女の恋模様を面白く感じた。初読のときも面白いと思ったものだが、市井小説の真髄に触れた思いがする。自分がそれなりに年を重ねたせいかもしれない。

「小さな橋で」という短編が収録されている。作品の舞台は時代小説では珍しい、小日向である。

「原っぱに行こうよ」
(中略)
…原っぱというのは、崇伝寺の後にひろがる雑木林と葭の茂る湿地のことである。寺の境内からこの原っぱにかけての一帯は、町の子供たちの遊び場所だが、日暮れになると淋しくなる。
(「小さな橋で」『橋ものがたり』P.162より)

主人公の少年広次は仲間の子どもたちと、崇伝寺の裏に広がる原っぱに、行々子(ヨシキリ)の巣をのぞきにいくことを楽しみにしていた。江戸切絵図を見ると、崇伝寺は関口水道町にあり、近くには『江戸名所図会』に描かれた目白下大洗堰や目白不動があった。ちなみに物語に描かれた小さな橋は神田上水に架かる橋のように思われる。

橋ものがたり 新装版

iPad日本版で読みたいものは?

昨日予約していたiPadが会社に届き、週末家に持ち帰って、iPadアプリのインストールをしたり、あちこち触ったりしている。その前に、アメリカで発売されていたiPadをいじっていたので、最初のときより感動は薄い。

マスコミでの報道を見ていると、電子書籍端末としての機能を取り上げていることが多いが、App Storeで、電子書籍のiPadアプリをいろいろ見ていたが、現時点では無料で楽しめるものはまだまだ少ない。

とりあえず、700円のi文庫HDをインストールして、青空文庫の三田村鳶魚の「話に聞いた近藤勇」を読んでみた。青空文庫(著作権切れ)ほど古くなくて、品切れや絶版になり、書店で手に入らなくなった時代小説がiPadで気軽に読めるようになるとうれしいと思う。

つましい生活の中で、ささやかな幸せがある

藤沢周平さんの『橋ものがたり』を読み直している。タイトルどおりに江戸の橋を舞台にした10の短編を収録。十年以上前に一度読んでいるはずなのだが、ストーリーをすっかり忘れていて、初読のようなワクワク感を抱きながらページを繰っている。

「五年経ったら、二人でまた会おう」

幸助とお蝶の交わした約束。しかし、若い二人にとって、五年は平穏な月日ではなかった。それぞれが抱える不安と後悔、そして相手を思う強い気持ち。約束の場所は萬年橋。映画のワンシーンのよう。一話目で、いきなり涙腺が開いてしまった。

それぞれの話では、市井の普通の人(中には借金のために男と寝ることを強いられる女も含まれるが)が主人公。現在の境遇を愚痴ることもなく、それぞれが誠実に真摯に生きている。そんなつましい生活の中で、本当にささやかなことに生きる喜びを見出したり、人を思いやったりする姿が感動的。

忙しい生活の中で失くしてしまったものを気づかせてくれる。心の癒しになる作品集だ。

橋ものがたり 新装版

5年前の「ほぼ日刊時代小説」を読みながら

空いている時間を使って、iPadで読める電子出版コンテンツづくりを行っています。

まずは、過去の「ほぼ日刊時代小説」のブログエントリーをもとに電子出版用のデータづくりを進めています。編集作業をしながら、「ほぼ日刊時代小説」を始めた当初のエントリーを読んでいると、エントリーを書いたころのことが鮮やかに思い出されて懐かしくなります。

何よりも驚くのは「ほぼ日刊」の言葉通りに毎日ブログを書いていたことです。我ながら実にマメに、そのとき読んでいた本のことを書いていました。

さて、今は、調べものを兼ねて、藤沢周平さんの『橋ものがたり』を読んでいます。この作品で登場する橋の場所を確認しつつ。

「約束」萬年橋。「小ぬか雨」親爺橋、荒布橋。「思い違い」両国橋、山城橋。「赤い夕日」永代橋。「小さな橋で」町外れの小さな橋。「氷雨降る」大川橋。「殺すな」永代橋。「まぼろしの橋」笄橋、鳥越橋。「吹く風は秋」猿江橋、弥勒寺橋、両国橋。「川霧」新大橋、永代橋。

橋ものがたり (新潮文庫)

相馬大作事件に材を得た宇江佐作品

会社のデスクの中を整理していたら、宇江佐真理さんの『三日月が円くなるまで』が見つかった。文庫の新刊で発売されたときに購入し、そのまま埋蔵された本。パラパラとめくっているうちに、ユーモアがある温かさの中に凛とした美しさがある宇江佐ワールドに引きずり込まれていった。

主人公の刑部小十郎は仙石家の藩士の嫡男で、故あって藩の長屋を飛び出して市中の古道具屋の家作に暮らすことになる。そこで、町場の暮らしの中でさまざまな経験をして成長していくのだが…。

主人公の仙石藩は陸奥の南部藩が、仙石藩とライバル関係にある島北藩は津軽藩がそれぞれモデルになっている。そして、物語では、相馬大作による「檜山騒動」がモチーフとして描かれているのが興味深く面白い。

三日月が円くなるまで 小十郎始末記 (角川文庫)