黄金旅風

黄金旅風

(おうごんりょふう)

飯嶋和一

(いいじまかずいち)
[海洋]
★★★★☆☆☆

寡作ながら、珠玉の名作ばかりという飯嶋さんの最新刊を遅れ馳せながら入手。しかも久しぶりのハードカバー購入でワクワク。

2週間余り、就寝前のひととき、この本を少しずつ読んだ。おおむね気分良く、ときには憤りを持ちながら、またいろいろなことに思いをはせながら、眠りに入った。飯嶋さんの本を読むと、人としていかに生きるべきか考えさせられることが多い。『黄金旅風』も大人のための教養小説でありおとぎ話のようでもある素晴らしい作品である。

この本の主人公は、長崎一の海商・末次平蔵の嫡男でありながら、酒色に溺れて勘当された平左衛門茂貞だ。「放蕩息子」とか「不肖者」として、江戸表の幕閣や対立する平戸のオランダ商人にも知れ渡っていた。しかし、平左衛門は火事や洪水のたびに屋敷を開放し、食糧や衣類の面倒をみたために、長崎の町人の評判は悪くはなかった。

その平左衛門が、長崎奉行として就任した竹中重義らの権力に蹂躙される長崎の人々を見て立ち上がる姿は感動的だ。虎の威を借りていばり、既得権に固執する竹中家臣たちと好対照である。飯嶋さんは、そうした唾棄すべき人を糞侍(ぶさ)と名付けている。

彼と同い年で、ともに長崎のセミナリオに入れられ、放校させられたことがある、「平戸町のお頭」こと、平尾才介も魅力的なキャラクターだ。二人とも既成の価値観に左右されないために悪評を持ちながらも、言動は一貫し、長崎の民の味方である。『雷電本紀』(河出文庫)でも感じたが、飯嶋作品では火事をドラマティックに描いている。

海外派兵と市民生活の安寧など、そのまま現代に通じるテーマを描いていて、共感を持って読むことができた。最近、ようやく企業においてもコンプライアンス(法令遵守)という言葉がようやく重視されるようになってきているが、不正・不実を憎み、あらためて法に誠実であることを思い起こさせる作品でもある。

江戸初期は混沌さがあり、伝奇小説の格好の舞台であるというようなことを直前に書いた。史実としては知っていても、なぜ、鎖国が始まり、中国とオランダ以外との貿易を禁止したのか、今一つしっくりと理解できなかったが、『黄金旅風』を読んでその間の経緯がよくわかりった。一つ勉強になった。

物語●長崎代官末次平蔵政直の所有船が長崎港を出港し、高山国(タカサグン)のタイオワン(台湾安平)に向かった。安平(アンピン)は、オランダ東インド会社の植民地で、ゼーランジャ城が築かれていた。末次船の船長濱田彌兵衛(はまだやひょうえ)は、南蛮船や海外渡航に通じた長崎屈指の船乗りだった。彌兵衛は、先の生糸取引における不当な差し押さえと、支払い済みの十万斤の生糸、鹿皮一万二千斤を持ち帰ることを目的に、台湾長官ピーテル・ノイツと交渉をするが…。

目次■第一章/第二章/第三章/第四章

装幀:ミルキィ・イソベ
編集:菅原朝也
時代:寛永五年(1628)太陽暦四月
場所:長崎、台湾安平、江戸愛宕下、神田橋門、薩摩山川郷、深堀港、摂津峡ほか
(小学館・1,900円・04/04/01第1刷・485P)
購入日:04/05/12
読破日:04/06/13

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