(えどあだうちもよう・えいたいばし、かげろうたつ)
(ちのたかし)
[敵討ち]
★★★★☆
♪倉橋さんの「江戸名所図会」風の装画と、「永代橋」という語感が江戸ファンの心をくすぐる。
作者は、1990年『夜の道行』で、捕物小説としては初めて、第12回小説推理新人賞を受賞した、実力派の新鋭作家。
討つものと討たれるものの心理描写が細やかな仇討短篇集。仇として狙われる側から描かれた「刀傷」「手繰り寄せる朝」「永代橋、陽炎立つ」の3篇と、敵を探す側から描かれた「望郷の風」「らんまん桜の茶屋」「辻斬りの影」の3篇のバランスがよく、いろいろな仇討模様を見ることができる。とくに「永代橋、陽炎立つ」と「らんまん桜の茶屋」が読み味もよく何とも言えない味わいがある。
物語●「刀傷」同僚を惨殺し、越後村松藩を四年前に出奔した原甚四郎は、高利貸しの用心棒を務めていた。仲間と一緒に上野山下の昼下がりの雑踏を歩いていた…。「手繰り寄せる朝」上総弦牧藩老職の息子を斬った浜尾郁之助は、江戸に出て一年半、今は本所林町の裏店で、子ども十人ばかり集めた寺子屋と、竹籠細工造りの内職で生計を立てていた…。「永代橋、陽炎立つ」元常陸府中藩士の藤枝久三郎は、五年前に上司を斬って出奔し、今は豆腐屋として働いていた…。「望郷の風」信濃高島藩士だった父を殺され、仇討の旅に出た原口藤兵衛は、五年におよぶ屈託と苛立ちの中で疲れていた…。「らんまん桜の茶屋」花見客で賑わう小石川護国寺の門前の茶店の前で、仇討騒ぎが起きた…。「辻斬りの影」町人として、看板書きの仕事についている、大貫五郎太は、浜町河岸で、かつえの剣術仲間と十年以上ぶりに再会した…。
目次■刀傷|手繰り寄せる朝|永代橋、陽炎立つ|望郷の風|らんまん桜の茶屋|辻斬りの影|解説 長谷部史親