信長燃ゆ 上・下

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信長燃ゆ 上信長燃ゆ 上・下
(のぶながもゆ・じょう・げ)
安部龍太郎
(あべりゅうたろう)
[戦国]
★★★★☆☆☆

天皇や公家との関係から新しい視点から信長を骨太に描く歴史時代小説。

史実としての結末がわかっていることが多いために、今まで歴史(時代)小説を苦手にしていた。歴史小説で描かれる題材として、どうもすっきりしないことの一つに本能寺の変がある。後の為政者である、勝ち組の秀吉(あるいは家康)側からの視点から事件を説明しようとしているからかもしれない。また、江戸時代に庶民向けの筋書きが作られたのも原因か。いずれにしても明智光秀のいじめによる怨恨説(そういえば赤穂事件も怨恨説で片付けられることが多い)というのは、戦国という特殊な時代を考えても卑小な感じがする。

安部さんの『信長燃ゆ』はステレオタイプを打破して、新しい歴史観を展開することで、もやもや感を払拭してくれた。「天下布武」をスローガンに武力を背景に世を変革してゆく織田信長。彼がどうしても乗り越えなければならないものとして、帝と朝廷の権威があった。信長が取り組んだもうひとつの天下統一の闘いにスポットを当て、物語は進む。信長と朝廷の融和と対立を描いた作品としては、同じ作者で、若き日の信長を描いた『神々に告ぐ』(角川文庫)が思い出される。

前作は、本能寺の変より二十三年前、信長と近衛前久(このえさきひさ。当時は前嗣と名乗っていた)が初めて出会ったころの話で、近衛前嗣が主人公になっている。今回は「たわけの清麿」という信長の元小姓が話し手のスタイルをとりながらも、信長と近衛前久を主人公に二人の葛藤を軸にしながらも、正親町天皇の嫡男・誠仁親王(さねひとしんのう)の寵愛を受ける勧修寺晴子(かじゅうじはれこ)の存在がロマンを与えて、読書欲をそそる。明智光秀や秀吉、前久の嫡男信基(後の信尹)などのキャラクターがしっかり立っていて、信長に恨みを抱く忍者・風の甚助が登場したりと、細部まで楽しませてくれる傑作時代小説である。

物語●物語は、本能寺の変の三十五年後に、かつて織田信長の小姓として近侍していた「たわけの清麿」が、さるやんごとなきお方から、本能寺の変について書き残してほしいと依頼されたことから始まる。その変には朝廷も深く関わっていたが、明智光秀が敗死すると後難を怖れてすべての証拠を隠滅し責任追及をまぬがれたが、このままでは事の真相がうやむやになってしまう。禁中や公家に残された当時の文書を自由に使っていいから、今のうちに分かるだけのことを書き留めてほしい。そんな申し出だった。

天正九年の年が明け、安土城の織田信長は、新年の到来を祝って馬揃えを行うつもりでいたが、雨のために不本意ながら中止した。この無念を晴らすために、馬揃え以上に派手な催しとして、「左義長(さぎちょう)」と呼ばれる小正月の祝うめでたい行事を行うことになった…。(上巻)

天正十年二月、信長は、一門衆や重臣たちを安土城に集めて武田氏を滅亡させるため、出陣の下知をした。伊那口より信忠の軍勢五万、飛騨口より金森長近の手勢三千、駿河口より徳川家康の軍勢三万、関東口より北条氏政の軍勢三万、信長が七万余騎を率いて出馬と、総勢十八万三千余が精強を誇る武田騎馬軍団に向かうことに…。(下巻)

目次■序章 阿弥陀寺の花/第一章 左義長/第二章 都からの使者/第三章 馬揃え/第四章 晴れの日/第五章 公武相剋/第六章 父と子/第七章 天正伊賀の乱/第八章 余が神である(以上、上巻)第九章 武田氏滅亡/第十章 命なりけり/第十一章 恵林寺焼き討ち/第十二章 富士遊覧/第十三章 三職推任/第十四章 華麗なる罠/第十五章 ときは今/第十六章 見果てぬ夢/あとがきにかえて/解説 小和田哲男(以上、下巻)

デザイン:新潮社装幀室
解説:小和田哲男
時代:本能寺の変の三十五年後の桜の頃。天正九年(1581)元旦。
場所:京・蓮台野の阿弥陀寺、本能寺、安土城下、安土城本丸御殿、琵琶湖、吉田神社、二条御所、南蛮寺、土御門通り、桑実寺、伊賀・比自山ほか
(新潮文庫・上巻667円・04/10/01第1刷・481P/下巻743円・04/10/01第1刷・555P)
購入日:04/10/05
読破日:04/11/21

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