『闇抜け 密命船侍始末』|仁志耕一郎|新潮文庫
2025年8月21日から8月31日に刊行予定の文庫新刊情報として、「2025年8月下旬の新刊(文庫)」を公開いたしました。
今回、特に注目したいのは、仁志耕一郎(にし・こういちろう)さんによる文庫書き下ろしの歴史小説『闇抜け 密命船侍始末』(新潮文庫)です。
著者は、2012年に『玉兎の望』で第7回小説現代長編新人賞、同じく『無名の虎』で第4回朝日時代小説大賞を受賞しました。また、同2作で、2013年、第2回歴史時代作家クラブ賞の新人賞も受賞しています。以来、作品数は多くありませんが、歴史の面白さに触れられ、主人公がキラリと光る作品を発表している実力派の時代小説家です。
あらすじ
富山藩の下級藩士・金盛連七郎は失業の身。ある日、重臣・寺西左膳から〈抜け荷〉の密命を受け、成功の暁には復職を約束すると告げられます。ご法度と知りながらも、連七郎に選択肢はありません。苛酷な決死行は富山から蝦夷、薩摩を経て再び戻る日本一周。その中で連七郎は、侍以外の人々と初めて出会います。荒くれの船乗り、大商人、そしてアイヌの美しい娘。旅の終わりに胸に去来する感慨とは――。男たちの転機を鮮烈に描いた長編歴史小説です。
(『闇抜け 密命船侍始末』(新潮文庫)Amazon紹介文より抜粋・編集)
ここに注目!
江戸時代、薬売りで全国を回る富山藩と密輸で藩財政を建て直そうとする薩摩藩の関係は、植松三十里さんの『富山売薬薩摩組』(エイトアンドアイ)や宮本輝さんの『潮音』(文藝春秋)などの歴史時代小説でも描かれてきました。
その関係の中心になって抜け荷を実際に行っていたのが富山藩に所属している薬売りたちでした。本書では、富山藩の下級藩士金盛連七郎が藩の重臣から密命を与えられて抜け荷に携わることに。
下級藩士の眼に映った抜け荷の実態と、旅先で出会う人々との交流、そして連七郎自身の成長と挫折。ヤマモトマサアキさんの力感溢れる装画とともに、面白さを予感させる歴史小説です。

今回ご紹介した本
