『深川青春捕物控(三) 黒い血』|東圭一|時代小説文庫
第13回日本歴史時代作家協会賞新人賞を受賞した気鋭の時代小説家、東圭一(あずま・けいいち)さんの最新作、『深川青春捕物控(三) 黒い血』(角川春樹事務所・時代小説文庫)を紹介します。
本作は、深川堀川町の御用聞きの親分・勝次郎のもとで手先として働く、雄太・三吉・茂二という三人の若者の活躍と成長を描いた、青春捕物小説シリーズの第三弾です。
あらすじ
近ごろ、同心と御用聞きに成りすました二人組が、奉公先の息子が見世の金を使い込んだと脅して、その親から金を巻き上げる手口が横行していました。しかも、その際に名乗っていたのは、北町奉行所の同心・高柳新之助の名だというのです。
その新之助の異母弟で、深川を縄張りとする岡っ引き・勝次郎のもとで手先として働く雄太は、兄の汚名をそそぐため、犯人を追います。その過程で、無辜の江戸の民の心に巧みに入り込み、操ろうとする悪の一党の姿が浮かび上がってきて……。若き三人の正義感が熱い、王道捕物帳の第三弾です。
(カバー裏の説明文より抜粋・編集)
ここに注目!
本シリーズの第一の注目ポイントは、捕物を担う三人の若者――いずれも二十歳前後という設定の秀逸さにあります。
雄太は、漁師町・蛤町で小料理屋を営む母と暮らす青年です。異母兄の高柳新之助は北町奉行所の定廻り同心で、雄太はその小太刀の腕と勘の良さを買われて手先となっています。
三吉は、子どもの頃から雄太の相棒で、漁師の家の三男。六尺近い体格で、漁で鍛えた船漕ぎの腕を見込まれ、勝次郎の川舟の船頭役を務めます。
茂二は、雄太と小太刀の道場で知り合った薬種問屋の次男。読本書きを志しており、近年の瓦版の内容はすべて頭に入っているという博識ぶり。捕物の現場を体験したいと願い、勝次郎の手先となりました。
それぞれの若者が個々の持ち味を生かしながら探索を行い、協力して犯人を追いつめていく姿が、本シリーズの大きな魅力となっています。
次に注目したいのは、シリーズのマドンナ的存在・かよの存在です。彼女は勝次郎の娘で、家業の髪結いを手伝いながら、犬のタロや三羽の鳩を巧みに手なずける動物好き。そんな彼女が、三人組の捕物に深く関わってくることで、物語は青春群像劇としての面白みを増しています。
さらにシリーズを通して読者の関心を引きつけるのが、未解決の二つの謎の存在です。
第一の謎は、新之助と雄太の父であり、元・北町奉行所定廻り同心であった高柳右兵衛の死の真相です。第2巻『家族の形』で一応の決着はついたものの、公儀の追及は黒幕にまでは及ばず、いわゆる“トカゲの尻尾切り”のようにすっきりしない結末でした。
第二の謎は、世間への恨みを募らせた者たちの心の闇に付け込み、素人に悪事の手引きをして仲間を増やしていく、正体不明の集団「卍の一党」の存在です。
今回は、北町同心・高柳新之助に成りすました犯人が、奉公先の息子の不始末をネタに金を脅し取るという事件が発生しました。そしてその犯人の長屋からは、「卍」の朱印が押された布切れが発見されます。
果たして今回は、雄太たちは「卍の一党」の正体に迫る手がかりをつかむことができるのでしょうか。
今回取り上げた本
書誌情報
深川青春捕物控(三) 黒い血
東圭一
角川春樹事務所・時代小説文庫
2025年7月18日第一刷発行
装画:浅野隆広
装幀:五十嵐徹(芦澤泰偉)
目次
第一話 美人局
第二話 脚立釣り
第三話 同心かたり
第四話 黒い血
本文248ページ
書き下ろし

