2025年5月刊行のコスミック時代文庫から、伊丹完(いたみ・かん)さんの『将軍隠密役 江戸潜入捜査』と、小杉健治さんの『戸惑い 春待ち同心(五)』の2作品が刊行されました。
『将軍隠密役 江戸潜入捜査』は、「大江戸秘密指令」シリーズ(二見時代小説文庫)で注目を集めた気鋭の作家による新シリーズです。
『戸惑い 春待ち同心(五)』は、旗本の娘・百合と音曲の師匠・おふじの間で揺れ動く同心・井原伊十郎の活躍を描く捕物シリーズの第5弾です。
『将軍隠密役 江戸潜入捜査』
カバーイラスト:加藤木麻莉
あらすじ
「どんな人物にも成りきれる腕を見込んで、隠密廻同心に取り立てたい」――突如、元役者の鯉川銀次郎の前に現れたのは、なんと南町奉行・遠山左衛門尉でした。銀次郎は、弟分の京四郎とともに詐欺まがいの稼ぎで生計を立てる小悪党でしたが、遠山はそれを知ったうえで罰することなく、手下として迎えたいというのです。
役者時代の銀次郎は、二枚目から悪役、女形までこなす器用な役者でした。そんな彼が直参御家人として、新たな密命を背負い、信じられない人物と対面することになります。波乱に満ちた若侍が、江戸の闇に潜む陰謀に挑む、新シリーズの幕開けです。
(カバー裏の説明文より抜粋・編集)
ここに注目!
読みどころの一つは、鯉川銀次郎が遠山左衛門尉と出会う場面ですが、それ以前の彼の半生も非常に魅力的です。
主人公・橋倉新之助は十四歳で母を亡くし、翌年には浪人の父も何者かに殺され、天涯孤独の身に。長屋を追われた十五歳の彼は、亀戸天神の境内で初めて見た宮地芝居の「伊賀越道中双六」に感動し、芝居の座頭・鯉川三五郎に弟子入りを志願します。
物語では、役者としての道を歩む彼の姿が丁寧に描かれ、やがて道を外れ、小悪党となった経緯にも触れられます。
江戸後期・天保時代の風俗や芝居文化が丁寧に描かれており、著者の芸能知識が光る、粋で痛快な時代小説の開幕です。
目次
第一章 小芝居
第二章 役者くずれ
第三章 葵の手札
第四章 極楽往生
2025年5月25日 初版発行
本文277ページ
文庫書き下ろし

『戸惑い 春待ち同心(五)』
カバーイラスト:丹地陽子
あらすじ
江戸市中で大店に押し入り、目撃者を殺害する事件が連続して発生。「怪盗ほたる火」の仕業とされ、北町奉行所には老中から「十日以内に捕まえなければ、奉行職を罷免」との厳命が下されます。定町廻り同心・井原伊十郎もその責任を問われ、縁談中の百合との結婚話も危うくなります。
伊十郎は、この「ほたる火」は偽者で、真の狙いは別にあると睨みますが、上役には取り合ってもらえません。反目する南町奉行所同心・押田敬四郎や、因縁ある「あの男」との協力を得て、真相を追います。
(カバー裏の説明文より抜粋・編集)
ここに注目!
本シリーズの魅力の一つは、井原伊十郎が二人の女性の間で揺れ動く姿です。
一人は、絶世の美女で旗本の娘・百合。縁談相手である彼女に惹かれる一方で、もう一人は、音曲の師匠で妖艶な魅力を持つおふじ。おふじはなぜか積極的に伊十郎に迫りますが、伊十郎は百合への思いから自制しています。
さらに興味深いのは、伊十郎が「ほたる火」の正体を百合かおふじのどちらかではないかと疑い始める点です。事件の目撃証言に基づいて描かれた浮世絵が、おふじに似ており、伊十郎自身が見た姿は百合にも重なっていたのです。
偽の「ほたる火」の正体、そして伊十郎と百合の関係の行方はどうなるのか――。読み応えたっぷりの第5巻です。
目次
第一章 ひと殺し
第二章 偽『ほたる火』
第三章 押込み
第四章 おなごの秘技
第五章 口封じ
2025年5月25日 初版発行
本文294ページ
『戸惑い 独り身同心(五)』(ハルキ文庫、2013年11月刊)を改題し、大幅に加筆修正を加えたもの
