「くらまし屋」の掟と「炙り屋」の矜持がぶつかるとき

『花唄の頃へ くらまし屋稼業 6』|今村翔吾

花唄の頃へ くらまし屋稼業 6今村翔吾さんの文庫書き下ろし時代小説、『花唄の頃へ くらまし屋稼業 6』を紹介します。

本書は、飴細工屋を表稼業をもつ堤平九郎らが、依頼人のために命を賭けて、この世から晦(くら)ませる裏稼業「くらまし屋」の活躍を描く、人気シリーズ第6弾です。

三郎太、蘭次郎、幸四郎、林右衛門の四人は大身旗本の次男、三男。いわゆる部屋住みの身分で、半分無頼の悪仲間であった。ある晩、酒場で盛り上がった帰り道、三郎太が何者かに腹部を深々と刺され、首を掻き切られて殺された。彼は、一刀流の皆伝で剣の達人。いったい誰が、何の目的で!? 自らも狙われるかもしれないと怯えた蘭次郎たちは、各々身を守るために、裏の道を頼るが……。裏稼業の必殺仕事人たちが、己の掟に従い、命を賭けて戦う。続々重版の大人気シリーズ、熱望の第六弾。
(上巻 表紙カバー帯の内容紹介より)

無頼仲間の三郎太と幸四郎が相次いで何者かに殺されたことから、命の危険を感じた、上級旗本の次男・小山蘭次郎が、「くらまし屋」の今回の依頼人です。

蘭次郎は、無頼仲間たちと、酒を呑んで喧嘩をしたり、賭場に出入りしたり、小遣い稼ぎにちょっとした荒事をしたりと半分無頼、半分堅気の生活を送っていました。ときには、火急の事態と偽って市中で馬を暴走させて順位を競う危険な遊びもしました。不祥事を起こしては、親の力でもみ消すという、放埓な生活ぶりです。

やがて、婿入り先が決まり、半年後には祝言の話があり、そうした無頼な生活を清算して、養子先の家督を相続する道を選びます。

 蘭次郎は身を起こして布団の上に座ると、これまでの経緯を漏らすことなく詳らかに語った。くらまし屋は相槌を打つ訳でもなく、静かに聞いている。
「と、いう次第で。ここまで他人に恨みを買った己のこれまでの人生が嫌になり、晦まされたいと……」
「解った。話を進める前に、こちらの掟も伝えておく」
 そう言うと、くらまし屋は依頼を受ける上での七つの掟を語った。その最後の一つを聞いて、蘭次郎は顔に出さぬように努めたものの、まずいと内心では焦っている。

(『花唄の頃へ くらまし屋稼業 6』P.83より)

蘭次郎は、林右衛門が裏稼業の者を使って、仲間の三郎太らを殺した下手人を始末しようとしていると考えていました。そしてその片が付くまでの間、己が下手人から狙われるの避けるためにくらまし屋に依頼しようとしていたので、「捨てた一生を取り戻そうとせぬこと」の掟にまずいと思いました。

「しかし彼らを討っても同じです……」
 平九郎はそう言いながら、綺麗ごとだと重々解っていた。不条理に大切な者を奪われたのだ。人はそれほど割り切れるものではない。
「解っている……解っているが、せめてこやつらに己のしたことを後悔させねばならぬ」 とっくに解っていた。この人を止めるには斬るしかない。平九郎は改めて悟って、細かく息を吐いた。

(『花唄の頃へ くらまし屋稼業 6』P.207より)

蘭次郎を晦ませるために、ともに甲州に向かった平九郎は、その道中で下手人と対峙します。平九郎は下手人との戦いを通して、表と裏を隔てる「掟」を再認識することになります。

本書では、平九郎の好敵手、万木迅十郎(ゆるぎじんじゅうろう)の出番も多く、“炙り屋”の仕事ぶりが明らかになります。二階堂平法の剣術の凄技に加えて、仕事人として矜持も発揮し、ますます惹かれました。

●目次
序章
第一章 不行状の輩
第二章 五十両の男
第三章 炙り屋と振
第四章 暗黒街の暗殺者
第五章 迅十郎の掟
終章

●書誌データ
花唄の頃へ くらまし屋稼業
著者:今村翔吾

発行:角川春樹事務所 ハルキ文庫・時代小説文庫
2020年2月8日第一刷発行
文庫書き下ろし
266ページ

装画:おおさわゆう
装幀:芦澤泰偉

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『花唄の頃へ くらまし屋稼業 6』(今村翔吾・ハルキ文庫・時代小説文庫)(第6巻)
『くらまし屋稼業』(今村翔吾・ハルキ文庫・時代小説文庫)(第1巻)

今村翔吾|時代小説ガイド
今村翔吾|いまむらしょうご|時代小説・作家 1984年京都府生まれ。ダンスインストラクター、作曲家、埋蔵文化財調査員を経て、作家に。 2016年、「蹴れ、彦五郎」で第19回伊豆文学賞最優秀賞受賞。 2016年、「狐の城」で第23回九...