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吉宗の密命を帯び、将軍名代の巡見使新九郎、信濃路を行く

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無双の拝領剣 巡見使新九郎山田剛(やまだたけし)さんの文庫書き下ろし時代小説、『無双の拝領剣 巡見使新九郎』がコスミック・時代文庫より刊行されました。

著者の山田さんは、2011年に第17回歴史群像大賞佳作を受賞して、デビュー。受賞作「刺客――用心棒日和」は、『大江戸旅の用心棒 雪見の刺客』と改題して、学研M文庫から刊行されました。
ほかに、『中町奉行所内与力 かみそり右近』『御花畑役秘帖 返り咲き三左』(いずれも学研M文庫)などの作品があります。

学研M文庫がなくなってから新作の刊行がありませんでした。
江戸の市井を舞台に、空前の旅ブームに沸く天保期のお江戸見物の案内人や江戸時代に一時期だけ存在した中町奉行所などを題材に取り入れながら、人情味豊かな主人公が事件を解決したり、悪を懲らしめたりする、良質な文庫書き下ろし時代小説の書き手として動向が気になっていた作家の一人です。

「新九郎、余の名代になってくれ」――八代将軍吉宗に突如呼び出され、こう告げられたのは、日本橋は浮世小路の風来坊であった。だがこの新九郎、実は旗本寄合席で、北町奉行稲生正武の次男坊という身。家を飛び出し、御用人加納久通の屋敷へ出入りする内、将軍家と昵懇になっていた。吉宗は、人を見る目が長けていると評する新九郎に、「巡見使として諸国を巡り、改革の成果を見て来てくれ」と、懇願したのである。
一命を懸けて上様の力となる、決意した新九郎は江戸を出立。お庭番の川村源右衛門、その娘・篝、三浦左平次の三人の供と中山道の旅人となる。腰に差すは、吉宗から拝領した名刀・小龍景光……。

本書の主人公新九郎の父は、北町奉行稲生正武(いのうまさたけ)。正武は、江島生島事件と天一坊事件の追及に寄与した人物です。天一坊事件というと、同時代に南町奉行を務めた大岡越前守忠相の手柄とされていますが……。

巡見使には、大名を監察する諸国巡見使と、天領および旗本知行地を監察する御料巡見使があります。

「巡見使と申せば、これまでは将軍家代替わりの折に遣わされておられたかと。しかみ、諸国には前以てご通達遊ばれていたのではございませぬか」
「いや、今じゃ。今でなければならぬ、事前の通達も一切せぬ」
 吉宗はきっぱりと言った。
「つまり、隠密の巡見使じゃ」
(『無双の拝領剣 巡見使新九郎』P.31より)

新九郎は、吉宗より、新たに「葵新九郎」の名と「諸国何処なりとも通行勝手」の将軍お墨付きの書付を下されて、中山道の山間部の国々の人々の暮らしぶりを巡見することを命じられます。

その後、新九郎は、第一話では追分宿で中山道に別れを告げ、北国街道に入り、小諸城下に入ります。そこで、病に罹った旅の母子の面倒を看る下級藩士の家族が登場します。
藩士は、見張り番をしていた城の宝蔵のが破られて、桂昌院様から下賜された宝刀を盗まれるという失態を犯して、家禄を三分の一に削られて普請役に回されていました。

新九郎は、人情に厚い藩士の汚名返上と家族を助けるために、宝刀の盗難事件の謎を追います。

新九郎ら一行は、第一話の小諸の後、第二話では上田、第三話では松代と、信濃路の城下町を行きます。
旅情が楽しめて、痛快で読み味の良い正統派の文庫書き下ろし時代小説の誕生です。

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『無双の拝領剣 巡見使新九郎』(山田剛・コスミック・時代文庫)
『大江戸旅の用心棒 雪見の刺客』(山田剛・学研M文庫・Kindle版)
『中町奉行所内与力 かみそり右近』(山田剛・学研M文庫・Kindle版)
『御花畑役秘帖 返り咲き三左』(山田剛・学研M文庫・Kindle版)