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新旧・徒目付の親子が活躍する痛快もの

小林力(こばやしりき)さんの『父子目付勝手成敗(おやこめつけかってせいばい)』を読んだ。小林さんは、前作『旋風喜平次捕物捌き(つむじきへいじとりものさばき)』で文庫書き下ろしデビューした、新進作家。カバーのプロフィールによると、1926年、栃木県足利市生まれ、旧制松本高校を経て東京大学経済学部卒業。新聞社を定年退職後、大学講師、番組制作編集会社に勤務するかたわらエッセイなど執筆活動に入ったそうだ。

本書の主人公・海津軍兵衛は、二カ月前に徒目付の職を息子の俊介に譲り、隠居生活に入ったばかり。五十三歳で、五尺七寸、色赤黒く、痩せ型でごつごつした体型、手足が異様に長く眉と飛び出た目玉がはね上がり、薄い口はへの字であごが張っている悪相で平家蟹ににていることから「平家殿」とあだ名される。直情径行型の頑固者で、おまけに林崎夢想流居合術の遣い手である。

父の跡を継いだ新参の徒目付の俊介は、就任早々の十二月半ばに、深川・木場で御家人が斬殺される事件の場に出張っていた。御家人は両首筋を断ち切られ、下腹にも深い刺し傷があった。抜いた太刀を握り締めて事切れていたが、刀身には血の跡はまったくなかった。俊介は、死体の斬り口から、父の軍兵衛に疑心を抱き始めた…。

 次の日の午後。

 俊介は居間で書見をしていた。書見といっても、実は『唐宋八家文』の下に広げた恋川春町の黄表紙『金々先生栄花夢』をむさぼるように眺めていたのである。

 きょうは役所は夜詰だから、五ツ(夜八時)までに行けばよい。

(『父子目付勝手成敗』第一話 無礼討 P.47より)

謹厳実直なところのある父親に似ない、息子の俊介の描かれ方が好ましい。この親子を軸に事件は展開していく。徒目付は目付の配下で、百俵五人扶持の御目見以下の御家人である。