『文蔵 2016.8』のブックガイドは、小説で感じる旅気分!

『文蔵 2016.8』『文蔵 2016.8』(PHP研究所・PHP文芸文庫)のブックガイドは、新たな世界との出会いがそこにある 小説で感じる旅気分! です。

夏になると、暑くて疲労が溜まりやすく、日常から離れてリフレッシュしたくなるせいか、旅行に行きたくなります。夏休みやお盆もあって(今年からは山の日の祝日も)、休みを取るには格好のシーズンです。とはいえ、仕事があったり家の事情で誰もが旅に出られるわけではないですね。読書なら、想像力があればどこへでも旅ができます。

今月号のブックガイドは、All Aboutの「書籍・雑誌」のガイドで、書評家、ライターとして活躍されている石井千湖(いしいちこ)さんが、「記憶に刻み込まれる旅」「自分のルーツをさかのぼる旅」「未知の世界に遭遇する旅」という3つのテーマから9つの小説を紹介しています。

時代小説で旅気分を楽しむなら、伊勢参りの旅を描いた、朝井まかてさんの『ぬけまいる』や平岩弓枝さんの『新・御宿かわせみ お伊勢まいり』、親分衆を駿河国久能山を連れていく「ツアーコンダクター」を描く、山本一力さんの『峠越え』は、いかがでしょうか。なんだか、本当に旅に出たくなりました。

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『文蔵 2016.8』(PHP文芸文庫)

『ぬけまいる』(朝井まかて・講談社文庫)
『新・御宿かわせみ お伊勢まいり』(平岩弓枝・文藝春秋)
『峠越え』(山本一力・PHP文庫)

⇒『文蔵』ホームページ

謎の人喰い城vs戦国最強の武田軍!圧巻の新感覚戦国小説

翳りの城三吉眞一郎(みよししんいちろう)さんの戦国時代小説、『翳りの城(かげりのしろ)』が竹書房文庫より刊行されました。

元亀三年(1572)、武田信玄が上洛を目指し軍を進める。主力軍の側面攻略の命を受けた猛将・剣崎弦馬率いる別動隊は、天龍峡の丘に奇妙な小城を発見する。その城は無表情な壁面を持つ四角形で、堀も櫓もない異様なものだった。さらには人影も見当たらない。
弦馬は徳川軍の城と判断し、力攻めでの突撃の命を下すが、仕掛けられた数々の罠によって兵たちは次々と血の海に沈んでいく。二十数年にわたる戦の経験をもち、城攻めを得手とする弦馬は死力を尽くして謎の城を攻略せんとするが……。


作者の三吉さんは、1951年静岡県静岡市生まれ。定年退職後の2013年12月に竹書房より単行本で刊行された本書がデビュー作。武将でも、兵士でもなく、「人を喰らう城」を主人公とした、新感覚の戦国時代小説です。血に染まった凄絶な戦闘シーンの連続、最後まで一気に読ませる奇想天外の展開に、熱くなります。

戦国時代を舞台にした時代小説を書かれることが多い作家の鈴木輝一郎さんが文庫巻末の解説を書かれています。

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『翳りの城』


「2016年7月の新刊 下」をアップ

手蹟指南所「薫風堂」2016年7月21日から7月31日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2016年7月の新刊 下」を掲載しました。

今回の新刊情報で注目しているのは、角川文庫。野口卓さん『手蹟指南所「薫風堂」』です。

人助けをしたことから手蹟指南所(寺子屋)の若師匠を引き受けた雁野直春。だが彼には複雑な家庭の事情があった……。「軍鶏侍」「ご隠居さん」シリーズが好評で、注目の時代小説家野口さんの待望の新シリーズ。

代表作の「軍鶏侍」シリーズは、藩内の権力抗争劇や剣客ものにとどまらず、弟子たちを育てる青春小説、教養小説(ビルドゥングスロマン)のような面白さも兼ね備えています。手蹟指南所を舞台にした新シリーズには、大いに期待しています。

→2016年7月の新刊 下

一話完結のテレビ時代劇を見るように楽しめる時代小説

付添い屋・六平太 麒麟の巻 評判娘金子成人(かねこなりと)さんの書き下ろし時代小説シリーズ第八弾、『付添い屋・六平太 麒麟の巻 評判娘』が小学館文庫より刊行されました。

付添い稼業を営む秋月六平太は、日本橋南鍛冶町の青物問屋「加島屋」の主人・幸之助から下赤塚にある富士塚までの付添いを頼まれる。ここ三、四年、幸之助は道中で体調を崩してしまうということで、片道四里半を同行することになった……。(第一話 大根河岸)


主人公の六平太の生業、付添い屋とは、裕福な商家の子女が花見や芝居見物に出かける際、案内と警護を担うボディーガードのようなもの。そのため、いろいろな事件に巻き込まれることも多く、チャンバラシーンあり、人間ドラマありの物語が展開していきます。

本書には、六平太が稽古に通う四谷の相良道場に、隣接する常陸国笠松藩石川對馬守下屋敷の使い方、横田邦士郎が刃傷沙汰を起こして助けを求めて駆け込んだきた「第二話 木戸送り」など、全四話を収録。

一話完結なので、本書から読み始めても十分楽しめますが、シリーズを通して、六平太とその妹・佐和の暮らしにも変化が起こっていくので、1巻から読み始めると面白さが倍加します。「真田太平記」や「鬼平犯科帳」「御家人斬九郎」など、テレビ時代劇の名脚本家の著者らしく、一話の中に起承転結が緻密に構成されていて、しかも視覚的なイメージとともに伝わってくるので、時代劇を見ているような感じで読み進められます。

このシリーズの帯には、毎回時代劇スターの推薦の言葉が載っていて、ファンの楽しみの一つ。今回は俳優の古谷一行さんです。古谷さんというと、藤沢周平さんの原作の「神谷玄次郎捕物控」(1990年、フジテレビ)やNHK大河ドラマ「秀吉」(1996年)の竹中半兵衛役が思い出されます。

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『付添い屋・六平太 麒麟の巻 評判娘』(第八巻)
『付添い屋・六平太 龍の巻 留め女』(第一巻)
『霧の果て 神谷玄次郎捕物控』(藤沢周平著・文春文庫)


短編小説の名手、北原亞以子さんの単行本未収録作品集

こはだの鮓北原亞以子さんの短編小説集、『こはだの鮓(すし)』がPHP文芸文庫より刊行されました。収録作品は、下記の通りです。

楽したい
こはだの鮓
姉妹
十一月の花火
たき火――本所界隈(一)
泥鰌――本所界隈(二)
〈特別収録1〉ママは知らなかったのよ
〈特別収録2〉新選組、流山へ


北原さんは、『恋忘れ草』で第109回直木賞(1993年)を受賞し、『深川澪通り木戸番小屋』や『慶次郎縁側日記』のシリーズもので人気が高い作家です。しかしながら、短編の名手でもあります。そのうちのいくつかは時代小説アンソロジー(傑作選)に収録され、またほとんどは短編集に収録されています。

本書は、2016年6月に刊行された『初しぐれ』(文春文庫)と並んで、北原さんの未収録短編を収録した作品集です。「楽したい」と「こはだの鮓」には、人生に躓いた男が登場します。しかしながら、躓いたままの暗い話でなく、読み終えると明日を生きる活力が出てくるから不思議です。

「姉妹」は作者には珍しい平安時代を取り上げています。「十一月の花火」は第二次世界大戦のころの話。「たき火」と「泥鰌」は大正時代の本所が舞台になっています。

「ママは知らなかったのよ」は、昭和40年代の東京が舞台にした現代小説で、第1回新潮新人賞(当時の名称は新潮文学新人賞)受賞作。「新選組、流山へ」は、作者のライフワークともいうべき、土方歳三ものの原点となった作品です。

本書は、作者の短編小説の名手ぶりを堪能するうえで貴重な作品集であり、長編やシリーズものだけではない、作者の新しい面に出会うこともできます。

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『こはだの鮓』
『初しぐれ』