「2018年1月の新刊 下」をアップ

維新と戦った男 大鳥圭介2018年1月21日から1月31日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2018年1月の新刊 下」を掲載しました。

今回注目しているのが、新潮文庫。

伊東潤さんの『維新と戦った男 大鳥圭介』が刊行されます。
単行本刊行時『死んでたまるか』を改題したものです。

われ、薩長の明治に恭順せず──。幕府歩兵奉行・大鳥圭介は異色の幕臣だった。全身にみなぎる反骨の気概、若き日に適塾で身に着けた合理的知性、そしてフランス式軍学の圧倒的知識。大政奉還後、右往左往する朋輩を横目に、江戸から五稜郭まで戦っていく。勝海舟や土方歳三に信頼された大鳥は、なぜ戦い続け、何を信じていたのか。


大鳥圭介は、戊辰戦争を描いた小説では脇役扱いにされることが多く、過小評価されてきました。本当にそうなのか、彼を主人公とした幕末・維新小説でその足跡を追ってみたくなります。

幕府の軍事顧問を務め、戊辰戦争に身を投じたフランス人ジュール・ブリュネを描く、佐藤賢一さんの『ラ・ミッション 軍事顧問ブリュネ』と合わせて読みたい作品です。

■Amazon.co.jp
『維新と戦った男 大鳥圭介』(伊東潤・新潮文庫)
『ラ・ミッション 軍事顧問ブリュネ』(佐藤賢一・文春文庫)

→2018年1月の新刊 下




文庫解説でおなじみ、文芸評論家の井家上隆幸さん、死去

傭兵ピエール(下)文芸評論家の井家上隆幸(いけがみたかゆき)さんが、1月15日、肺炎で死去されました。84歳でした。

井家上さんは、三一書房などの編集者を経てフリーライターとなり、文芸評論家として活躍されていました。

とくに冒険小説評論の最前線にいて、1983年の日本冒険作家クラブの発足にも参画されています。早川書房から刊行された『20世紀冒険小説読本』の(日本篇)と(海外篇)は、冒険小説ファンのバイブルで、胸をときめかせながら読んだのを思い出しました。

近年は時代小説の書評や、『蝦夷地別件』(船戸与一・新潮文庫)、『彷徨える帝』(安部龍太郎・新潮文庫)、『忠臣蔵心中』(火坂雅志・講談社文庫)、『ジャガーになった男』(佐藤賢一・集英社文庫)、『傭兵ピエール』(佐藤賢一・集英社文庫)などの文庫解説を執筆されていました。

ときにはジャーナリスティックに、ときにはセンチメンタルな、切れ味鋭い文章に惹かれていました。
十年くらい前にお会いする機会があり、当時の時代小説界のお話を伺ったことが懐かしく思い出されます。
謹んでご冥福をお祈りします。

■Amazon.co.jp
『20世紀冒険小説読本 日本篇』(早川書房)
『20世紀冒険小説読本 海外篇』(早川書房)
『ジャガーになった男』(佐藤賢一・集英社文庫)
『傭兵ピエール(下)』(佐藤賢一・集英社文庫)

→文芸評論家の井家上隆幸さん死去、84歳|朝日新聞DIGITAL


寄席を運営する若夫婦の笑いあり涙ありの、落語時代小説

寄席品川清州亭遠山景布子(とおやまきょうこ)さんの文庫書き下ろし時代小説、『寄席品川清州亭』が集英社文庫から刊行されました。

時は幕末、ペリー来航の直後の品川宿。落語好きが高じて寄席の開業を思い立った大工の棟梁・秀八。腕はいいが、けんかっ早い。駆け落ちして一緒になったおえいは団子屋を切り盛りするいい女房だ。芸人の確保に苦労するがも、寄席の建物は順調に出来上がってきた。そんな中、突然お城の公方さまが……。


物語は、浦賀にペリーが来航したばかり、お台場建造景気に沸く、品川宿を舞台にしています。待望の寄席のこけら落としのその日に事件が起こります。

「おおい、棟梁、たいへんだ」
「おや、幸兵衛さん」
――なんだよ、手ぶらか。大家のくせに。
「棟梁。だめだよ、寄席は。ほれ、そこの大神楽、やめるんだ。三味線も」
「何言ってんですか。今日こけら落としなんですから」
「だから、だめなんだよ」
「なにがだめなんです。全部そろってるってのに」
「そろってようが、抜けてようが、とにかくだめだ。御停止だよ。ご、ちょ、う、じ」
「ごちょうじ?」
「公方さま、お江戸のお城の将軍さまがお亡くなりになったんだ。お達しが来たよ。高札も立ってる。今日から五十日の間は、歌舞音曲はご禁制。芝居も寄席も開いちゃいけないんだよ」
 ――え……。
(『寄席品川清州亭』「第一話 寄席はいつ開く?」P.91より)


落語の一語りのような描写ですが、将軍家慶の死により、寄席のこけら落としは延期となり、棟梁の秀八は苦境に陥ります。災い転じて福となせるか、物語の先行きが気になります。

「ところで、この寄席の屋号は、どんなご由緒がおありですか」
「ごゆいしょ? ってぇますと」
――どうもお武家さんの言葉は難しくっていけねえ。

(中略)

「秀吉が一夜城を造った場所は、清洲ってんでしょう。そこから取りやした」
(『寄席品川清州亭』「第一話 寄席はいつ開く?」P.109より)


寺子屋の先生から、秀八は寄席の屋号の命名理由を聞かれて、講釈の「太閤記」から取ったと答えています。
秀吉が一晩で城を築いたというくだりが、大工の自分にとって妙にうきうきするということから、「清洲」と名付けました。

先生は、「秀吉が一夜城を築いたのは、墨俣というところ」と秀八の勘違いを正します。そして、「清洲はもともと織田信長の本拠地でもあり、現在の尾張徳川家の礎となったところえもある。由緒ただしいところ」と慰めています。

やり取りが落語っぽくて人情味を感じられて好きなシーンの一つです。

さて、落語の主人公のような大工の秀八としっかり者の女房おえいを中心に、物語は展開します。品川の遊女と心中未遂を起こした、噺家の名跡の息子で二つ目の、九尾亭木霊をはじめとした、曲者ぞろいの芸人たちが興趣を盛り上げていきます。

落語は全くの門外漢な私ですが十分に堪能できました。江戸落語の世界に興味が持てました。

著者の奥山景布子さんは、1966年愛知県生まれで、2007年に「平家蟹異聞」(『源平六花撰』に収録)で第87回オール讀物新人賞を受賞し、『時平の桜、菅公の梅』『太閤の能楽師』などの著作がある、新進時代小説家です。

落語をテーマにした時代小説では、三笑亭可楽ら幕末から維新にかけての落語家を描いた、杉本章子さんの『爆弾可楽』が思い出されます。

また、野口卓さんの『ご隠居さん』では、人生で大切なことは寄席で学んだという主人公が登場します。

とはいえ、落語の世界が楽しめる時代小説は少ないので、本書がシリーズ化されることを願っています。

■Amazon.co.jp
『寄席品川清州亭』(奥山景布子・集英社文庫)
『源平六花撰』Kindle版(奥山景布子・集英社文庫)
『時平の桜、菅公の梅』(奥山景布子・中公文庫)
『太閤の能楽師』(奥山景布子・中央公論新社)

『爆弾可楽』(杉本章子・文春文庫)
『ご隠居さん』(野口卓・集英社文庫)


「2018年1月の新刊 中」をアップ

天下 家康伝 上2018年1月11日から1月20日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2018年1月の新刊 中」を掲載しました。

今回注目しているのが、光文社文庫。
上田秀人さんの『旅発 聡四郎巡検譚』が楽しみです。著者の新シリーズがスタートします。

将軍徳川吉宗の大奥改革もとりあえず一幕が終わり、竹姫付きの御広敷用人の任を解かれた旗本・水城聡四郎。寄合となり、静かな毎日を送っていたが、主要街道を見て回る「道中奉行副役」に命じられ、まずは東海道へ…。


主人公は、これまでの「勘定吟味役異聞」「御広敷用人大奥記録」シリーズと同じ水城聡四郎です。

前シリーズで、吉宗の想い人である竹姫付きの用人を解かれた聡四郎が、今度は、主要街道を見て回る「道中奉行副役」を命じられます。自らの剣の修行を兼ねて全国を行脚する聡四郎の前に、あらたな敵が登場します。

江戸を離れて東海道を旅して活躍し、しかもチャンバラシーンも多くなりそうで、ワクワクします。

■Amazon.co.jp
『旅発 聡四郎巡検譚』(上田秀人・光文社文庫)
『女の陥穽 御広敷用人大奥記録』(上田秀人・光文社文庫)
『破斬 勘定吟味役異聞』(上田秀人・光文社文庫)

→2018年1月の新刊 中



2017年の文庫書き下ろし時代小説ベスト10を発表

「時代小説SHOW」の2017年時代小説ベスト10の【文庫書き下ろし部門】を発表しました。

火喰鳥 羽州ぼろ鳶組【文庫書き下ろし部門】のベスト10の第1位は、今村翔吾さんの「羽州ぼろ鳶組」シリーズです。

臨場感豊かで迫力満点の火消シーン、羽州ぼろ鳶組の頭の松永源吾をはじめとする個性派ぞろいの火消組の面々が繰り広げる人情劇、スリリングなストーリー展開、いずれも新人離れした一級品です。火消小説という手垢が付いていない時代小説のジャンルを開拓しました。

7位から10位は、以下の通りです。

7位 「風の市兵衛」シリーズ 辻堂魁 祥伝社・祥伝社文庫
8位 「影の火盗犯科帳」シリーズ 鳴神響一 角川春樹事務所・ハルキ文庫
9位 『もののふ戦記―小者・半助の戦い』 長谷川卓 角川春樹事務所・ハルキ文庫
10位 『見破り同心 天霧三之助』 誉田龍一 徳間書店・徳間文庫

です。

2位~6位が気になる方は→こちらをどうぞ。