幼馴染みの三人の男たちが連続辻斬り事件の真相を暴く!

錠前破り、銀太田牧大和(たまきやまと)さんの文庫書き下ろし時代小説、『錠前破り、銀太』が講談社文庫より刊行されました。

しがない蕎麦屋を営む銀太、秀次の兄妹と、北町奉行所吟味方与力助役の貫三郎は幼馴染み。吟味で腑に落ちないことがあると、貫三郎は身分を隠して二人に知恵を借りに来る。そんな三人が江戸中を騒がす連続辻斬り事件に巻き込まれた……。


幼馴染みの三人が力を合わせて、連続辻斬り事件の真相を暴く、時代ミステリー。ユーモアがある軽快な語り口で、ワクワクするスリリングな物語が展開していきます。

 上背は、銀太に少しだけ足りないだろうか。女にしては背が高い。年の頃は二十四、五、目鼻立ちのすっきりした、きりりと凛々しい美人だ。
 青磁鼠の、淡くくすんだ青緑と深縹の細かい縦縞の小袖に、濃鼠の帯は男結び。鯔背に腰端折りをした裾から覗くすらりとした足は留紺の股引を纏っている。
 髪は、きゅっと櫛巻に纏め、真鍮の簪は、大小の千鳥を透かした凝った細工。
(『錠前破り、銀太』P.15より)


「女錠前師謎とき帖」シリーズのヒロイン、緋名(ひな)が登場するのもファンにはうれしいところです。三人の男たちに、女錠前師の緋名がどのように絡んでいくのか、なんだか傑作の予感がします。

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『錠前破り、銀太』
『女錠前師謎とき帖 緋色からくり』(新潮文庫)


Kindle本で栗本薫さんの傑作伝奇時代小説を楽しむ

神州日月変(上)栗本薫(くりもとかおる)さんの傑作時代小説、『神州日月変(上)』を入手しました。Amazonの「夏☆電書」上下巻&合本フェアで、隆慶一郎さんの『新装版 捨て童子・松平忠輝(上)』とともに、衝動的にポチっとしました。

江戸で評判の美女が次々神隠しにあった。娘達はすべて十八歳で人気絵師清春の姿絵になったという共通点があった。事件を追う同心古河雷四郎を取巻く妖気の正体は……。


栗本薫さんは、2009年5月にすい臓がんのため亡くなられています。『ぼくらの時代』で江戸川乱歩賞を受賞し、100巻を超えるヒロイック・ファンタジー小説「グイン・サーガ」シリーズで知られる人気作家でした。SFや青春小説も書かれていますが、時代小説でも傑作を発表されています。文庫版は絶版(もしくは品切れ増刷未定)になっているようなので、電子書籍(Kindle本)で読めることはありがたいです。

女形の嵐夢之丞を主人公とする「お役者捕物帖」や本書はその代表作です。冒頭から鵺を駆使する妖術遣いの乱月斎やら日輪道人やらが登場し、驚天動地の物語が饒舌な文体とともに紡がれていき、栗本ワールドにどっぷり浸れます。

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『神州日月変(上)』Kindle本
『神州日月変(下)』Kindle本
『地獄島 お役者捕物帖』


戦いなき世を願い、天下人家康を育てた母の波瀾の生涯

家康の母お大植松三十里(うえまつみどり)さんの文庫書き下ろし小説、『家康の母お大』が集英社文庫より刊行されました。

水野忠政の娘お大は十四歳で岡崎城主松平広忠に嫁ぎ、嫡男竹千代を産む。だが、忠政の跡を継いだ、お大の兄・信元が織田方に寝返ったため、離縁され、幼い息子と生き別れた。久松俊勝と再婚後、竹千代が今川義元方へ人質に出されることを知る。我が子の無事を祈るお大は、命がけの行動に……。


徳川家康の功績の一つに、戦国時代に終止符を打ち、戦なき世をつくったことが挙げられます。なぜ、このようなことが実現できたのでしょうか。戦乱の世を生き抜いた家康の母、お大の影響があるのかもしれません。

本書は、家康の母お大の、波瀾に満ちた生涯を描いた戦国時代小説です。若き日のお大の姿が生き生きと描かれています。

植松さんは、家康の二男秀康を描く『家康の子』、秀忠の正室を描く『お江 流浪の姫』と、これまでも家康を核に波瀾に満ちた生涯を送る人物に光を当ててきました。あわせて読みたいところです。

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『家康の母お大』
『家康の子』(中公文庫)
『お江 流浪の姫』(集英社文庫)


山あり谷ありの文豪・夏目漱石一家のホームドラマ

猫と漱石と悪妻植松三十里(うえまつみどり)さんの文庫書き下ろし小説、『猫と漱石と悪妻』が中央公論新社・中公文庫より刊行されました。

裕福な家庭で三人姉妹の長女として育った中根鏡子は、はっきりした物言いで表裏のない性格。見合い相手として現れた夏目金之助(漱石)に一目ぼれした鏡子。「苦労するが大成する」という占い師の言葉を支えに結婚を決めるが、漱石の赴任先の熊本での新婚生活に四苦八苦する。しかし、それは苦難の序章に過ぎなかった……。


文豪・夏目漱石の一家の知られざる生活ぶりが、鏡子の目線で描かれていて興味深い物語になっています。鏡子と漱石の愛と葛藤に満ちた夫婦生活、二男五女に恵まれ、波瀾に富んだ子育て、名作の誕生秘話などが綴られています。

朝寝坊で、漱石に対して遠慮なしの物言いから、陰で「悪妻」と言われることが多い鏡子ですが、気難しい漱石を支える、規格外の良妻ぶりを発揮してます。物語を通じて二人の絆の深さが伝わってきて、読み味のよい作品です。

四女愛子の出産時、産婆が間に合わずに漱石が急きょ産婆役をつとめることになりドタバタする場面など、文豪の別の面が垣間みることができて、思わず頬が緩んできます。

今年(2016年)は漱石没後100周年の年。9月24日(土)より、NHK土曜ドラマ「夏目漱石の妻」が放送されます。鏡子の『漱石の思い出』(夏目鏡子述・松岡譲筆録)を原作に、尾野真千子さんが夏目鏡子を、長谷川博己さんが漱石を演じます。

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『猫と漱石と悪妻』


土曜ドラマ「夏目漱石の妻」|NHKオンライン

「2016年8月の新刊 下」をアップ

井伊直虎 女にこそあれ次郎法師2016年8月21日から8月31日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2016年8月の新刊 下」を掲載しました。

今回注目しているのは角川文庫です。梓澤要(あずさわかなめ)さんの『井伊直虎 女(おなご)にこそあれ次郎法師』が文庫化されて刊行されます。井伊直虎(いいなおとら)は、平成29年大河ドラマ「おんな城主 直虎」のモデルとして話題の人物です。

天文十三年(1544年)、井伊家の当主・直盛のひとり娘の祐の運命は、その年を境に激変した。井伊家家老の裏切りにより、今川義元に謀反の疑いを持たれた、井伊直満と弟の直義が、駿府で生害させられたのだ。井伊家は、命を狙われる直満の子・亀之丞の秘匿を決行。許婚の亀之丞と引き裂かれた祐は、出家を決意し、次郎法師を名乗るが……。


井伊直虎は勇猛な名前を持っていますが、生涯独身を通した女性です。未婚のまま仏門に入り、次郎法師という名乗りもしています。戦乱の時代、遠江・井伊谷の地を守り抜き、徳川家康の側近となる、井伊直政を育てたことで知られています。

本作は2006年1月に新人物往来社(KADOKAWA・中経出版)から『女(おなご)にこそあれ次郎法師』のタイトルで単行本として刊行されたものの文庫化です。静岡県出身の梓澤さんは、早い時期から、故郷にゆかりの井伊直虎に注目し取り上げてこられました。
同じ著者による歴史読み物(解説本)『城主になった女 井伊直虎』(NHK出版)とあわせて、井伊直虎について知識を増やして、来年の大河ドラマを楽しみに待ちたいと思います。

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『井伊直虎 女にこそあれ次郎法師』(角川文庫)
『城主になった女 井伊直虎』(NHK出版)

→2016年8月の新刊 下