寺子屋の泣き虫先生をめぐるドタバタ人情劇に笑って、ほろり

手習い所 純情控帳 泣き虫先生、棒手振りになる誉田龍一(ほんだりゅういち)さんの文庫書き下ろし時代小説、『手習い所 純情控帳 泣き虫先生、棒手振りになる』が双葉文庫より刊行されました。
ちょっとしたことにすぐ感動して涙を見せることから、「泣き虫先生」と呼ばれる、手習い所の若師匠の三好小次郎が活躍する人情時代シリーズ第3作です。

手習い所「長楽堂」の先生ぶりも板についてきた三好小次郎。子どもたちからも「泣き虫先生」と呼ばれ、相変わらず慕われているが、そんなある日、小次郎はひとりの子どもの様子がおかしいのに気づく。心配になって家を訪ねてみると、棒手振りの父親が怪我をして働けなくなったという。その子のために、小次郎は父親に代わって、自ら棒手振りになって青物を売り歩くことにする……。


一話完結の連作形式で、今巻では、棒手振りになる話のほかに、手習い所で起きた小判紛失騒動や寺社奉行所をめぐる争いなど、小次郎の周囲で次々と事件が起こります。

とくに最後に収録された「小次郎、剣術試合に出場する」の章では、以前に所属していた藩の秘事に絡んで、小次郎が剣術試合に出場することになります。一刀流の免許皆伝と言われながら、剣を手に取ることがなかった小次郎の、剣の達人ぶりが初めて披露されます。ファンには楽しみな話です。

手習い所の子どもたちに加えて、貧乏寺の住職諾庵や南町奉行所同心の小山鉄五郎、動物と話ができるお蘭らとの掛け合いが楽しく、笑いあり、涙ありの人情時代シリーズは、ますます快調です。

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『手習い所 純情控帳 泣き虫先生、江戸にあらわる』(第1作)
『手習い所 純情控帳 泣き虫先生、幽霊を退治する』(第2作)
『手習い所 純情控帳 泣き虫先生、棒手振りになる』(第3作)


小藩、高岡藩を舞台に、若き藩主が活躍するシリーズ第2弾

塩の道 おれは一万石(2)千野隆司(ちのたかし)さんの『塩の道 おれは一万石(2)』が双葉文庫より刊行されました。

下総高岡藩一万石を舞台に、新しく藩主となった井上正紀の活躍を描く、文庫書き下ろし時代小説シリーズの第2弾です。

1作目の『おれは一万石』では、美濃今尾藩三万石竹腰勝起の次男、正紀が、高岡藩に婿として養子に入るところシーンが描かれています。

大名家といえども、一俵でも禄高が減れば旗本に格下げになる、ぎりぎり一万石の小藩です。領地は利根川沿いにあり、陣屋は現在の千葉県成田市高岡にありました。

高岡藩陣屋跡


武腰正紀は、高岡藩江戸上屋敷を訪ねたおり、堤普請を嘆願する名主の息子と出会い、二千本の杭を調達する約束をしてしまい、婿入り前から高岡藩のために奔走することになります。

小藩ならではの苦労が随所に描かれていて、物語を面白くしています。
正紀の父、勝起も、高岡藩の当代藩主の正国も、ともに尾張徳川家八代徳川宗勝の息子であり、勝起の武腰家は尾張徳川家の付家老を務めています。いずれにしても、高岡藩と尾張藩は縁があることがあります。

一方の高岡藩井上家の本家は、浜松藩井上家となり、常陸下妻藩井上家も分家になります。そうした家と家とのつながりと争いも物語の一つのテーマとなっています。

さて、本書はシリーズ第2作め。

凶作のため高岡藩の米収穫高も例年の七割しかなく、藩財政がさらに困窮することが予想された。
年貢を増やしてこの危機を乗り切ろうと図る江戸家老に反対した正紀は、正式に井上家に婿入りし、世継ぎとなったにもかかわらず、自ら新たな財源を探しに奔走する。
ところが、そんな正紀の行動を面白く思わぬ者もいた……。


藩財政が破綻の危機を迎え、領民のため、藩士のため、若き藩主、井上(竹腰)正紀が新たな財源を求めて奔走する、その活躍ぶりが読みどころです。

高岡藩が登場する作品には、鳴神響一さんの『私が愛したサムライの娘』があります。
ヒロインの女忍び・雪野が高岡藩の陣屋に潜入するシーンが冒頭に描かれています。
下総高岡藩の存在を知り興味を持ち始めたのもこの作品からでした。

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『おれは一万石』(千野隆司・双葉文庫)
『塩の道 おれは一万石(2)』(千野隆司・双葉文庫)
『私が愛したサムライの娘』(鳴神響一・角川春樹事務所・時代小説文庫)

高岡藩|ウィキペディア


「2017年10月の新刊 下」をアップ

幕末蒼雲録2017年10月21日から10月31日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2017年10月の新刊 下」を掲載しました。

角川文庫から、新美健(にいみけん)さんの『幕末蒼雲録』が刊行されます。

西南戦争を背景に、警視隊の藤田五郎と砲兵工廠の村田経芳が、内務卿・大久保利通の命により、西郷隆盛を助ける救出隊への参加する、その設定とストーリー展開が群を抜いて面白かった『明治剣狼伝―西郷暗殺指令』の著者の最新作で、楽しみな一冊です。

狂瀾怒涛の幕末。京都島原遊郭に育った美少年・椿は、生まれながらにして人を斬る術を心得ていた。ある日、椿は芹澤鴨という男と出会う。南朝の皇子を探す芹澤の存在が、椿の周囲を脅かし――。


沸騰する幕末、人斬りの美少年、芹澤鴨……、設定を聞いただけで食指が動きます。

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『幕末蒼雲録』(新美健・角川文庫)
『明治剣狼伝―西郷暗殺指令』(新美健・角川春樹事務所・時代小説文庫)

→2017年10月の新刊 下


『文蔵 2017.11』のブックガイドは、ありがたい「神様小説」のご利益

『文蔵 2017.11』『文蔵 2017.11』(PHP研究所・PHP文芸文庫)のブックガイドは、福の神、縁結びの神から貧乏神、死神までありがたい「神様小説」のご利益 です。

 神といえば、万物を創造した全知全能の存在と捉える向きもあれば、福の神や縁結びの神といった縁起の良い存在として謳われることもある。はたまた、死神や疫病神など、忌み嫌われる存在を示唆することだってある。
 そうした神々は、時にはエンターテインメントのモチーフとして物語を彩り、時にストーリー上の重要な役割を務めるなどして、大きな存在感を発揮してきた。
(『文蔵 2017.11』P.5 ブックガイド ありがたい「神様小説」のご利益より)


今回のブックガイドは、何らかのかたちで神の存在を用い、読み手の心に訴えかける作品にスポットを当て、ライターの友清哲さんが、おすすめ本を紹介されています。

ここで紹介されている作品が現代小説ばかりなので、当サイトおすすめの時代小説の「神様小説」を紹介しましょう。

浅田次郎さんの『憑神』。
貧乏御家人に貧乏神が憑いてしまったから、さあ大変。とことん運に見放されながら、懸命に生きる男の姿に抱腹絶倒し、やがて感動の涙がこぼれます。

西本雄治さんの『やっとうの神と新米剣客』。
17歳の剣客・瀬川俊一郎は、剣術を司る「やっとうの神」を名乗る少女・鈴に気に入られて一緒に暮らすことなります。やがて二人は、将軍暗殺を企む戦神・威風に立ち向かうことになります。
第1回・招き猫文庫時代小説新人賞・大賞受賞作品。

「話題の著者に聞く」のコーナーには、伊東潤さんが登場します。
村田新八を主人公に西南戦争を描いた『武士の碑』をはじめ、『走狗』、『西郷の首』と、明治ものを意欲的に発表している著者へのインタビューです。

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『文蔵 2017.11』(PHP文芸文庫)
『憑神』(浅田次郎・新潮文庫)
『やっとうの神と新米剣客』(西本雄治・招き猫文庫)
『武士の碑』(伊東潤・PHP文芸文庫)
『走狗』(伊東潤・中央公論新社)
『西郷の首』(KADOKAWA)

⇒『文蔵』ホームページ

少年少女の恋を描き、ドラマチックな江戸へ導く絵師、鈴木春信

「ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信―江戸の恋」(千葉市美術館)先週末に、千葉市美術館で開催されている、「ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信―江戸の恋」を見てきました。

鈴木春信は、 明和期(1764~1772)に活躍した浮世絵師です。
本展覧会では、質・量ともに世界最高の春信コレクションを誇るボストン美術館の所蔵品から、選りすぐりの作品を展観します。

千葉市中央区中央3-10-8


展示では、「プロローグ、第1章 錦絵の誕生」から始まり、古典の物語や故事、和歌を題材に、江戸の今の光景に置き換えた見立絵、やつし絵と呼ばれる作品を紹介する「第2章 隠された主題」、男女の恋を描く「第3章」、日常の幸福を描く「第4章」、笠森お仙ら「評判娘と錦絵の大衆化」をテーマにした「第5章」、そして「エピローグ 時代の寵児」で構成されています。

これだけ多くの春信の作品をまとめて展示される機会は少ないうえに、高級な奉書紙を使用されていて保存状態も良好で、春信ワールドを堪能できました。

別冊太陽 恋をいろどる浮世絵師 鈴木春信 決定版その余韻を家でも楽しみたくて、ミュージアムショップで、『別冊太陽 恋をいろどる浮世絵師 鈴木春信 決定版』もゲットしました。

鈴木春信が登場する小説としては、諸田玲子さんの平賀源内の半生を描いた『恋ぐるい』が思い出されます。
春信は神田白壁町や両国米沢町に住み、近所に住む源内と交遊をもっていました。

山内美樹子さんの『十六夜華泥棒 鍵屋お仙見立絵解き』にも登場します。笠森稲荷境内にある水茶屋鍵屋の看板娘お仙が探偵役をつとめる、キュートな捕物小説です。

また、高橋克彦さんの浮世絵殺人事件シリーズには『春信殺人事件』があります。

時代小説の表紙装画にも使用されることがあり、海野弘さんの『江戸ふしぎ草子』では、名作の「清水の舞台より飛ぶ美人」がモチーフとなっています。

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『鈴木春信 決定版: 恋をいろどる浮世絵師』(「別冊太陽 日本のこころ 253」・平凡社)
『恋ぐるい』Kindle版(諸田玲子・新潮文庫)
『十六夜華泥棒 鍵屋お仙見立絵解き』Kindle版(山内美樹子・光文社文庫)
『春信殺人事件』Kindle版(高橋克彦・角川文庫)
『江戸ふしぎ草子』(海野弘・河出書房新社)


⇒ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信