『文蔵 2017.8』のブックガイドは、「医療小説」の最先端

『文蔵 2017.8』『文蔵 2017.8』(PHP研究所・PHP文芸文庫)のブックガイドは、サスペンスからヒューマンドラマ、時代小説まで 「医療小説」の最先端 です。

サスペンスからヒューマンドラマ、社会派小説まで、多岐にわたるジャンルで、今や一大潮流となった医療小説のおすすめ作品を紹介します。書評家の大矢博子さんが、その人気の秘密に迫ります。

歴史・時代小説のジャンルについては、『ふぉん・しいほるとの娘』(吉村昭著)、『赤ひげ診療譚』(山本周五郎著)など名作から、和田はつ子さんの「口中医桂助事件帖」や上田秀人さんの「表御番医師診療禄」など人気の文庫書き下ろしシリーズまで、広い視野から面白い作品を挙げられています。

葉室麟さんの「暁天の星」をはじめ、あさのあつこさん、山本一力さん、宮本昌孝さんらの連載小説も楽しみです。

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『文蔵 2017.8』(PHP文芸文庫)

⇒『文蔵』ホームページ

「2017年7月の新刊 下」をアップ

天盆2017年7月21日から7月31日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2017年7月の新刊 下」を掲載しました。

今回は中公文庫に注目しています。

数学に情熱を傾ける少年少女たちを描く青春小説『青の数学』で注目される、王城夕紀(おうじょうゆうき)さん。そのデビュー作で、第10回C★NOVELS大賞特別賞(2014年)を受賞した、時代ファンタジー小説『天盆』が刊行されます。

小国「蓋」を動かすのは、国民的盤戯「天盆」を勝ち抜いた者。貧しい13人きょうだいの末っ子・凡天は、十歳の童ながら、異様な強さで難敵を倒していく。
家族の思いを背負い、歴史に挑む少年の神手が、国の運命を大きく変えることに……。


将棋に似た盤戯「天盆」の覇者が政を司る小国「蓋」を舞台に繰り広げられる壮大なストーリーと、将棋の藤井四段を想起させる、盤戯の天才少年の出現という設定に惹かれました。

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『天盆』
『青の数学』

→2017年7月の新刊 下


八丈島から島抜け。兄を救うために、江戸を目指す

追われもの(一) 破獄金子成人(かねこなりと)さんの、『追われもの(一) 破獄』は、時代小説「付添い屋・六平太」シリーズで人気の作者の新しい時代小説書き下ろしです。

博打の罪で遠島となった丹次は八丈島で平穏に暮らしていた。だがある日、新たに島に送られたきた旧知の男が衝撃の話をもたらす。実家の乾物問屋『武蔵屋』が兄嫁お滝に潰されて、両親は首を吊り、兄・佐市郎は行方知れずだという。
優しい兄の窮状を知った丹次は焦燥にかられ、島抜けをして遥かかなたの江戸を目指そうとするが……。


主人公の丹次は、乾物問屋『武蔵屋』の次男坊だったが、兄・佐市郎に対して劣等感を抱き、十四、五のころから町のゴロツキと群れて喧嘩沙汰や恐喝まがいのことを繰り返していました。その末に、橋場の貸元、欣兵衛の子分となり、二十一の時、実家からは勘当されていた。

悲惨な暮らしをする流人たちの中、八丈島に流されて1年ばかりが経ち、丹次は読み書き算盤ができたおかげで、島役所を手伝いをし、島の娘・七恵と夫婦同然の暮らしをしていました。

 その実家の没落を、八丈島で知るとは思いもしなかった。
『武蔵屋』をそのような目に遭わせたのは、自分ではないか――ふと、そんな思いに駆られた。
『武蔵屋』で何があったのか――そのことも気にかかる。

(中略)

 事の真相を知りたい――突きあげる思いが、丹次の胸の中で弾けた。
(『追われもの(一) 破獄』P.48より)


その日から、丹次は破獄(島抜け)を考え始めます。
自分を取り立ててくれた島役人たちの恩情や、七恵との愛情を捨て、平穏な生活を投げうって、それでも江戸を目指すか、胸の裡を葛藤が渦巻きます。

江戸は、八丈島から海上百五十四里(約616Km)のかなたにあります。しかも八丈島と御蔵島の間には、西から北東へと黒潮が流れて入れ、潮流は速く、川の流れのようで、船乗りから、〈黒瀬川〉と呼ばれて恐れられています。

結局、丹次は、手製の筏で、八丈島から大海原に漕ぎ出し、遥かなる江戸を目指します。
その過酷な脱出行にハラハラドキドキさせられ、物語に引き込まれます。
破獄をして追われものとなった丹次が、兄の行方を突き止められるのか、今後の展開が気になる、新シリーズの始動です。

ところで、八丈島からの島抜けを描いた時代小説では、笹沢左保さんの『木枯し紋次郎』の第一話「赦免花は散った」をおすすめします。

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『追われもの(一) 破獄』
『この時代小説がすごい! 時代小説傑作選』(「赦免花は散った」収録)


東洋文庫ミュージアムにて、安政の大地震展

安政の大地震展と入場券先週末に、駒込・六義園近くにある、東洋文庫ミュージアムで開催されている「安政の大地震展」へ行ってきました。

東洋文庫は、東洋学の研究図書館です。
三菱第三代当主岩崎久彌氏が1924年に設立した、東洋学分野での日本最古・最大の研究図書館であり、世界5大東洋学研究図書館の一つに数えられております。
その蔵書数は国宝5点、重要文化財7点を含む約100万冊にも及びます。


岩崎久弥が、北京駐在のタイムズ記者や中華民国の総統府顧問を務めていたジョージ・アーネスト・モリソンの所蔵する、中国に関する欧文文献の膨大なコレクション(モリソン文庫)を購入したことに始まります。

記録された記憶―東洋文庫の書物からひもとく世界の歴史「妙法蓮華経」、「史記秦本紀」、「文選」、「ドチリーナ・キリシタン」など、東洋文庫の貴重な史資料は、『記録された記憶』(東洋文庫編・山川出版社)で、詳しく解説されています。
所蔵品の図録が完売していて、英語版だけだったので、代わりにミュージアムショップで入手しました。

本書で取り上げている史料:甲骨文字/魏志倭人伝/広開土王(好太王)碑文/古事記/日本書紀/枕草子と源氏物語/御成敗式目/東方見聞録/永楽大典/鄭和の航海図/東インド航海記とリンスホーテン航海記/支倉常長使節記/国姓爺御前軍団/日本誌/改撰江戸大絵図/ロビンソン・クルーソー漂流記/西洋紀聞と蝦夷志/準回両部平定得勝図/殿試策/解体新書/国富論/マリー・アントワネット旧蔵イエズス会書簡集/チベット大蔵経/風俗金魚伝/ペリー久里浜上陸図/和英通韻伊呂波便覧/ニコライ2世の東宝旅行記 など


江戸時代に計12回来日した、朝鮮通信使一行の風俗を描いた「朝鮮風俗図巻」を見て、植松三十里さんの時代小説『千両絵図さわぎ』を思い出しました。

「解体新書」(『記録された記憶』より)また、収蔵物の一つ、日本最初の西洋解剖書の本格的な翻訳書「解体新書」は、前野良沢、杉田玄白、中川淳庵らが「ターヘル・アナトミア」を訳出したもの。
吉村昭さんの『冬の鷹』は、「解体新書」成立の過程を克明に再現した長編小説です。

企画展の「安政の大地震展」では、古事記や日本書紀に記録された地震から、「鯰絵」で知られる地震諷刺絵や安政の大地震を伝える瓦版まで、歴史資料で日本の災害が概観できます。

安政の大地震を描いた時代小説では、真保裕一さんの『猫背の虎 大江戸動乱始末』がおすすめの一冊です。

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『記録された記憶』(東洋文庫・編)
『千両絵図さわぎ』(植松三十里)
『冬の鷹』(吉村昭)
『猫背の虎 大江戸動乱始末』(真保裕一)

⇒ミュージアム|公益財団法人東洋文庫


東京都文京区本駒込2-28-21

「2017年7月の新刊 中」をアップ

夜叉萬同心 もどり途2017年7月11日から7月20日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2017年7月の新刊 中」を掲載しました。

今回は光文社文庫に注目しています。

辻堂魁さんの『夜叉萬同心 もどり途』は、目的遂行のためには手段を選ばぬやり方から、「夜叉萬」と呼ばれ密かに恐れられている、北町奉行所の隠密廻り方同心、萬七蔵が活躍する、捕物シリーズです。

『冬かげろう』『冥途の別れ橋』『親子坂』『藍より出でて』と続くシリーズ第5作で、光文社に出版元を移してから初めての新作書下ろしです。
ベスト文庫から学研M文庫、そして光文社文庫と、レーベルは変わりましたが、「夜叉萬」に再会できるのがうれしいです。

犬飼六岐さんの『逢魔が山』は、戦国時代の四国を舞台に、雑兵に拉致された子供たちが、もののけが棲むという不吉な「逢魔が山」へ張り込んでいく、冒険譚。

上田秀人さんの『覚悟の紅 御広敷用人 大奥記録(十二)』は、御広敷用人の水城聡四郎が活躍するシリーズ最新作です。

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『夜叉萬同心 冬かげろう』第1作
『夜叉萬同心 冥途の別れ橋』第2作
『夜叉萬同心 親子坂』第3作
『夜叉萬同心 藍より出でて』第4作
『夜叉萬同心 もどり途』第5作
『逢魔が山』(犬飼六岐)
『覚悟の紅 御広敷用人 大奥記録(十二)』(上田秀人)

→2017年7月の新刊 中