阿修羅のごとく、後藤又兵衛の「大坂の陣」、戦闘シーンに刮目せよ

生きる故 「大坂の陣」異聞矢野隆(やのたかし)さんの戦国時代小説、『生きる故(ゆえ) 「大坂の陣」異聞』がPHP研究所より刊行されました。

慶長十九年(1614)十月、豊臣秀頼を戴く西軍と、徳川家康率いる東軍の間で戦「大坂冬の陣」が始まった。西軍の実働部隊は、後藤又兵衛、真田信繁(幸村)らの浪人衆。豊臣家に恩義を感じている又兵衛は、死に場所を求めて大坂城へやってきた。
そんな又兵衛の前に、「生きるために戦う」と豪語する若者・飢(かつ)が現れる。衝撃を受けた又兵衛は……。徳川の大軍に押され、刻々と迫る豊臣家最期のとき。


華々しく散りたいと願う後藤又兵衛。生き延びることに執念を燃やす若者・飢。対照的な二人が「大坂の陣」でともに戦います。又兵衛のほかにも、真田信繁、毛利勝永、木村重成ら、一騎当千の男たちが阿修羅のごとく戦い、最期の火を燃やします。

著者の矢野さんは、室町末期の傭兵集団を描いた『蛇衆』で、小説すばる新人賞を受賞し、2009年に単行本デビュー。『慶長風雲録』や『将門』『清正を破った男』など、圧倒的な迫力で戦いを描いた時代小説作品を次々に発表されています。今後、さらなるブレークが期待される実力派の作家の一人です。

大河ドラマ「真田丸」で注目される「大坂の陣」を、後藤又兵衛と若者・飢(架空の人物)を中心とした独自の視点でとらえています。戦国時代小説の華、圧巻の戦闘シーンを堪能できる一冊です。

■Amazon.co.jp
『生きる故 「大坂の陣」異聞』


新宿歴史博物館で、信州高遠藩の歴史と文化を学ぶ

新宿区立新宿歴史博物館(最寄り駅:四谷三丁目駅または曙橋駅)で開催されている特別展示「信州高遠藩 歴史と文化」に行ってきました。新宿区が長野県高遠町と友好提携して30年、高遠町が合併した伊那市と友好提携を結んで10周年を記念しての展示です。

●新宿区・伊那市友好提携10周年記念特別展「信州高遠藩 歴史と文化」
期間:平成28年9月18日(日)~11月20日(日)
休館日:9月26日(月)、10月11日(火)、10月24日(月)、11月14日(月)
開館時間:9時30分から17時30分
会場:新宿区立新宿歴史博物館
観覧料:一般300円

東京都新宿区三栄町22


新宿という地名の由来である「内藤新宿」は、甲州道中にできた宿場で、江戸時代に信州高遠藩内藤家の江戸屋敷から来ています。内藤家は三万石の小藩ながら、藩祖の内藤清成が家康から、現在の新宿御苑にあたる広大な土地を拝領し、幕末まで保有していました。

信州高遠藩は、保科家(二代)に始まり、鳥居家二代を間に挟み、内藤家八代(幕末まで)が藩主をつとめてきました。特別展では、歴代藩主「保科家」「鳥居家」「内藤家」を中心に、歴史と文化を紹介しています。養子による継承が続いた内藤家の藩主たちがそろって画才に恵まれていて、高い技量が伝わる作品も展示されていて興味深かったです。

高遠藩というと、絵島の配流先として歴史に登場するほか、徳川家光の異母弟の保科正之が二代藩主をつとめたことでも知られています。正之の生涯を描いた、『名君の碑 保科正之の生涯』(中村彰彦著・文春文庫)を読み返してみたくなりました。伊那市観光協会には、「名君 保科正之公の大河ドラマをつくる会」があって、新宿歴史博物館でも署名運動を行っていました。

■Amazon.co.jp
『名君の碑 保科正之の生涯』(中村彰彦著・文春文庫)
平岩弓枝作「絵島の恋」~『大奥華伝 歴史・時代アンソロジー』(縄田一男編・角川文庫)


新宿区立新宿歴史博物館
名君 保科正之公の大河ドラマをつくる会


『文蔵 2016.10』のブックガイドは、「探偵小説」の新潮流

『文蔵 2016.10』『文蔵 2016.10』(PHP研究所・PHP文芸文庫)のブックガイドは、本格派から日常の謎、魔法使いや政治家まで 「探偵小説」の新潮流 です。

文芸評論家の末國善己さんが、2010年以降に発表された探偵小説の中から、新しい潮流とも呼ぶべき革新的な作品を紹介しています。時代小説ファンとしては、江戸・文政年間と現代を行き来するヒロインおゆうが事件の真相を追う、山本巧次(やまもとこうじ)さんの『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう』をチェックしておきたいところです。

「本所おけら長屋」シリーズ100万部プロジェクトのレポートも面白い企画です。面白い小説の目利きである、書店員たちが東京と京都に集まって行われた緊急会議の模様を実況中継しています。100万部まで売り伸ばすための熱い議論が交わされていて、本好きにはたまらないです。

澤田瞳子さんの連載「火定(かじょう)」が最終回を迎えます。田牧大和さんの「鯖猫長屋ふしぎ草紙」の「色男、来たる」(後編)とともに、見逃せません。

■Amazon.co.jp
『文蔵 2016.10』(PHP文芸文庫)

『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう』(山本巧次・宝島社文庫)
『本所おけら長屋(七)』(田牧大和・PHP文芸文庫)

⇒『文蔵』ホームページ

「2016年9月の新刊 下」をアップ

芽吹長屋仕合せ帖 ご縁の糸2016年9月21日から9月30日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2016年9月の新刊 下」を掲載しました。

今回注目しているのは新潮文庫です。気鋭の時代小説家、志川節子(しがわせつこ)さんの『芽吹長屋仕合せ帖 ご縁の糸』が文庫化されて刊行されます。『結び屋おえん 糸を手繰れば』(単行本)を改題したものです。

不貞を疑われて妻の座を追われ、独り住むことになった日本橋の芽吹長屋で、おえんはふとしたことから男女の縁を取り持つことになる。嫁き遅れた一人娘と絵の道をあきらめた男、ひどく毛深い侍と若い娘、老いらくの恋。遠慮のない長屋のつきあいにもなじむ頃、おえんの耳に息子の心配な噂が入ってくる……。


志川さんは、人情市井小説『春はそこまで 風待ち小路の人々』で第148回(2013年)直木三十五賞候補になり注目される書き手の一人です。ほかには、吉原に生きる人たちを情感豊かに描く『手のひら、ひらひら 江戸吉原七色彩』があります。

男女の縁を取り持つことをおえんと長屋の住人たちとの付き合い、様々な男女の恋模様、市井に人々のこまやかな情愛が胸に染み入る連作形式の時代小説を賞味したいと思います。

■Amazon.co.jp
『芽吹長屋仕合せ帖 ご縁の糸』
『春はそこまで 風待ち小路の人々』
『手のひら、ひらひら 江戸吉原七色彩』

→2016年9月の新刊 下


戦国を生き抜いた姫君たちを描く傑作アンソロジー

女城主 戦国時代小説傑作選文芸評論家の細谷正充さんの編集による時代小説アンソロジー、『女城主 戦国時代小説傑作選』がPHP文芸文庫より刊行されました。

戦国時代、井伊家滅亡の危機に、男の名で家督を継ぎ、徳川四天王の一人、井伊直政を育てた女城主・井伊直虎(次郎法師)をはじめ、民を愛し、城を守った姫君たちの凛として美しい姿を描いた傑作短篇集。


収録作品は以下の通り。

「本多忠勝の娘」井上靖
義父真田昌幸と実父本多忠勝の二人の父に愛されて育てられた月姫(小松姫の名で知られる)。夫信之の出兵により、沼田城を守る女城主はある決断をする……。

「母の覚悟」岩井三四二
上州金山城を本拠とする小大名の由良氏は、ある事件を契機に北条氏に屈し、その配下に組み込まれていた。由良氏には当主国繁よりも頼りにされる女性がいた。先代藩主の妻で、国繁の母・妙印尼であった。秀吉の北条征伐の軍勢が迫る中で、妙印尼は、ある決断をする……。

「虎目の女城主」植松三十里
井伊直虎を描いた新作書き下ろし短篇。限られた字数の中で、直虎の波瀾に富んだ半生をストレートに描いています。NHK大河ドラマ放送前の予習に最適な一篇です。

「立花誾千代(たちばなぎんちよ)」滝口康彦
豊後の大友家の重臣・立花道雪(戸次鑑連)の娘で立花城の城督(城主)をつとめ、名将立花宗茂を婿養子に迎えた、誾千代(「誾」は門構えに言の字)の後半生を描いた短篇。本編で彼女に関心を持った方には、山本兼一の『まりしてん誾千代姫』がおすすめです。
「笄堀(こうがいぼり)」山本周五郎
作者の中では珍しい戦国時代を舞台にした作品。テーマは、和田竜さんの『のぼうの城』で有名になった忍城の籠城戦です。「笄堀」で面白いのは、籠城戦を率いたと言われる城主成田氏長の娘・甲斐姫ではなく、母親の真名女(まなじょ)に、主人公を据えている点。

「夫婦の城」池波正太郎
上州国峰城主小幡信定は関東管領上杉憲政の命で、箕輪城主長野業政(ながのなりまさ)の娘正子(せいこ)を娶った。上杉の勢力下にある小幡家にとって、城を、国を守るために、正子との間に男子を出生させることは欠くことのできない条件だった……。男女の機微と、正子が変貌していくさま、作者の巧みな描写で堪能できます。

収録されている六編には、それぞれに個性的な女城主が登場し、動乱の時代に一瞬の光を放っています。女性を通して戦国の世を俯瞰してみるのも一興です。

■Amazon.co.jp
『女城主 戦国時代小説傑作選』
『まりしてん誾千代姫』(山本兼一・PHP文芸文庫
『のぼうの城・上』(和田竜・小学館文庫)