幻影の天守閣

幻影の天守閣幻影の天守閣
(げんえいのてんしゅかく)
上田秀人
(うえだひでと)
[伝奇]
★★★★☆

『竜門の衛』などが好調な新進気鋭の時代小説作家上田さんの最新文庫。将軍家綱の時代を舞台にした抗争を描くエンターテインメント時代小説。

面白い時代小説の要素の一つは、主人公がかっこいいことである。この作品では飛びきり魅力的なヒーロー・工藤小賢太が登場する。工藤家は、もともとは四百石の知行所を持つ三河以来の旗本の家だったが、父の代に役目上の不始末で、知行所を召し上げられ、俸禄百石に減じられ、お目見え以下にされ、小普請入りを命じられた。十七歳で家督を継いだ小賢太は、家禄を四百石に戻し、家格を元に戻すことを夢見て、番入りを願い続けて七年目に天守番の役目を得たのだった。小賢太はまた、無住心剣術の流祖針ヶ谷夕雲(はりがやせきうん)の最後の弟子で、夕雲の死後、一番弟子の小田切一雲に預けられ、二十二歳で免許を受けた天賦の才をもつ剣の達人でもある。一雲の一番弟子で師範代の真理谷円四郎も登場するし、無住心剣術の極意、相抜けも出てくる。無住心剣術の剣が随所に見られるのが何とも楽しい。

四代将軍家継の後継者をめぐる争いに、家継の側室で懐妊しているお満流の方を助けた工藤小賢太が巻き込まれていく。尾張・紀州・水戸の御三家のほかに、甲府宰相、館林宰相、下馬将軍酒井忠清が暗闘に加わり、物語はもつれていく。小賢太の前に立ちはだかる謎の男・藤堂など気になるキャラクターも登場し、結末まで一気に読ませる。江戸時代になかであまり手垢がついていない家継の時代を題材に選んだ作者の眼のつけどころの良さも評価したい。

物語●父の失態により無役であった工藤小賢太(くどうごげんた)がようやく得た役目は、お天守番だった。明暦の大火で天守閣を失った江戸城では、石造りの天守台しかない天守番は実態のない閑職でもあった。しかし、小賢太は初めての宿直の夜、天守台附近で5人の曲者に遭遇した。曲者三名をながら、同僚の磯田虎之助が殺されてしまった。何者が何のために、何もないはずの天守台を狙ったのか? 小賢太に探索の命が下る…。

目次■序章/第一章 楼閣の影/第二章 権力の闇/第三章 城内の攻防/第四章 大奥の刺客/第五章 継承者の乱/終章/解説 縄田一男

カバー写真:AM
カバーデザイン:多田和博
解説:縄田一男
時代:延宝七年(1679)
場所:江戸城本丸天守台、目付御用所、橘町二丁目、深川、内藤新宿、大奥、御用部屋、高輪、市ヶ谷、南茅場町、下谷お成り街道、松川町、旅籠町ほか
(光文社文庫・629円・04/12/20第1刷・378P)
購入日:05/01/17
読破日:05/01/26

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