恋形見

恋形見

(こいがたみ)

中村彰彦

(なかむらあきひこ)
[短編]
★★★★

『眉山は哭く』(文藝春秋・1995年1月刊)を改題したもの。

幕末から明治維新を舞台にした、4つの短篇を収めた作品集。中村さんの描く、この時代に興味があり、読みたいと思っていた作品。 解説の杉本章子さんが、この一冊で中村彰彦という作家の四つの顔を楽しむことができると評していた。幕末から明治初頭を舞台に、4つのタイプの違う短篇を収録している。

「恋形見」は会津藩の照姫と松平容保のかなわぬ愛を描いた恋愛小説。照姫の侍女の回想録をもとにして綴られている。

「間諜 許すまじ」は会津鶴ヶ城に入場した郡上藩脱藩者による凌霜隊をめぐるミステリー。郡上藩の家紋が葉菊であり、菊はよく霜に耐えるという特性があり、この隊名には、会津松平家に合力して艱難を克服しよう、という郡上藩佐幕派の思いがこめられているという。澤田ふじ子さんの作品に『葉菊の露』(中公文庫)という長編があったが、この凌霜隊を描いたものだろうか。

「眉山は哭く」は明治三年の稲田騒動をテーマにした歴史小説。単行本刊行時には、こちらが表題になっていたが、敗者に向けた作者の温かい眼差しが味わえる好編。長編で読んでみたい題材である。

「明治四年黒谷の私闘」は元新選組隊士という水野八郎(橋本皆助)を主人公にした異色エンターテインメント小説。

最近、『江戸三○○藩 最後の藩主』(八幡和郎著・光文社新書)がベストセラーになっているが、歴史のターニングポイントで、各藩がいかに対処したかということを取り上げたのは面白い視点だ。中村さんの作品は、学校の歴史(日本史)の時間では教えてくれない敗者側の視点で描かれているものが多く興味深い。

物語●「恋形見」上総飯野藩藩主保科弾正忠正丕の娘照姫は、会津藩松平家に養女に入ったが、世子容保との結婚がかなわず、他家に嫁入ることになった…。「間諜 許すまじ」郡上藩の城下町・郡上郡八幡に向けて《朝敵之首謀者朝比奈茂吉》と墨書された札を貼られた唐丸駕籠一つと町駕籠二十五が郡上みちを下った。郡上藩は、新政府の東征軍と佐幕軍の二またをかけるために、茂吉らを凌霜隊として会津軍に密かに派遣したが、凌霜隊が朝敵になってしまったのである…。「眉山は哭く」阿波徳島藩の儒学者繭山先生こと、柴秋村は、徳島藩領淡路島の洲本城代を兼ね、石高一万四千五百石の稲田家の独立分藩活動に大きく関与することになる…。「明治四年黒谷の私闘」水野八郎は、幕末に京都見廻組に出仕し、現在は奈良県少監察兼剣術師範を務める渡辺鱗三郎に、竹刀で三本勝負を挑んだ…。

目次■恋形見|間諜 許すまじ|眉山は哭く|明治四年黒谷の私闘|四つの物語 杉本章子|参考資料

写真:白川湧
カバー:菊地信義
解説:杉本章子
時代:「恋形見」天保三年。「間諜 許すまじ」明治元年十一月。「眉山は哭く」明治二年元旦。「明治四年黒谷の私闘」明治四年三月。
場所:「恋形見」上総周准郡飯野村、会津藩江戸上屋敷、中津藩江戸上屋敷。「間諜 許すまじ」郡上八幡。「眉山は哭く」徳島・佐古秋田丁。「明治四年黒谷の私闘」大和郡山、高台寺ほか
(角川文庫・552円・02/10/25第1刷・223P)
購入日:04/04/29
読破日:04/05/05

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