『太平洋戦争』|大木毅|PHP新書
ナチス・ドイツの政治外交史を専門とする軍事史研究者、大木毅(おおき・たけし)さんの歴史読み物、『太平洋戦争』(PHP新書)を紹介します。
今年2025年は、太平洋戦争の終戦から80年、そして昭和100年という節目の年にあたり、太平洋戦争をテーマにした出版物が数多く刊行されています。
戦争を知らない世代の日本人が大多数を占める中で、戦争の記憶をいかに次代に継承していくかが、大きな課題となっています。
私は、あの戦争について書かれた本を読み、作家たちがそれをどのようにとらえ、作品に描いたのかを知ることから始めようと思いました。
一方で、これまで太平洋戦争について全く無関心で、周囲にも戦争の記憶を語る人がほとんどいなかったため、戦争に関する知識が大きく欠如していることに愕然としました。遅ればせながら、少しずつでもあの戦争に関する書物を読み始めています。
私事ながら、神保町のシェア型書店「ほんまる」の棚で開催している「戦争小説特集」の企画に携わり、「かわら版」(無料配布)にも寄稿いたしました。

あらすじ
戦争と失敗を分けたものとは?
日本陸海軍の明断と誤断とは?太平洋戦争の緒戦役を、主として戦略・作戦の次元に注目しつつ検討してきた。
そこでの彼我の成功と失敗、明断と誤断を見れば、ありふれてはいるが、今日なお深刻な問題である結論が導かれるように思う。
それは、あの戦争において、日本には最初から最後まで統一された戦略が存在していなかった、という事実である。(本書「結びにかえて」より抜粋・編集)
ここに注目!
著者は、防衛省防衛研究所講師、陸上自衛隊幹部学校講師などを経て、現在は軍事史研究に関する著作を発表しています。2020年には『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』で新書大賞2020を受賞しました。
本書は、真珠湾攻撃から、シンガポール、マレー半島、フィリピン、ジャワ島、ボルネオ島などの南方攻略、ニューギニア、ミッドウェイなどの太平洋での海戦、インパール作戦、そして沖縄本土決戦まで、日本軍の戦いを編年体で通観しながら、緒戦役での日本軍の戦略と作戦を検討し、その成功と失敗、明断と誤断を明らかにしていきます。
著者は「結びにかえて」で、「日本は、戦略なきままに大戦に突入し、戦略なきままに惨戦を遂行し、戦略なきままに敗北したのである」と結論付けています。
Wikipediaによれば、著者は本名の「大木毅」でノンフィクションを発表し、「赤城毅(あかぎ・つよし)」のペンネームで、2015年頃までに『帝都探偵物語』『書物狩人』などの冒険ミステリー小説を多数執筆していました。
目次を見ると、「海原と密林の戦場へ」や「南溟に疾風走る」など、小説の題名のように印象的なタイトルが並んでおり、そうした経験が生きているのかもしれません。
世界各地で戦火が絶えない今こそ、太平洋戦争で日本はなぜ開戦し、どのように戦い、なぜ敗北したのかを知り、その教訓を生かして負の歴史を繰り返さないことが重要だと思います。
今回取り上げた本
書誌情報
太平洋戦争
大木毅
PHP研究所・PHP新書
2025年8月22日第一版第一刷
装幀:芦澤泰偉+明石すみれ
目次
はじめに
第一章 海原と密林の戦場へ
――陸海軍の攻勢戦略
昭和陸軍の栄光と悲劇――南方後略の絶頂からインパールの奈落へ
連合艦隊司令官山本五十六――その戦略
「戦略戦闘機」――零戦の真価はどこにあったか
第二章 南溟に疾風走る
――南方後略の戦略と作戦
「戦略」の要求に応えるために――シンガポールへの突進
点で面を制す――三次元からの蘭印攻略
歯車に入り込んだ砂――フィリピン作戦の「重点」誤認
第三章 過信と暗転の太平洋
――勝機を逸した攻勢
ポート・モレスビー遥かなり――なぜニューギニア戦線は地獄と化したか
昭和海軍の宿痾――二兎を追ったミッドウェイ作戦
ソロモン海の転回点――ガタルカナルで露呈した昭和陸海軍の欠陥
敗勢に抗する――山本五十六最後の戦略
第四章 勝者と敗者を分かつもの
――日米両軍の戦略と戦術
一九四三年の知られざる敗戦――戦略次元で王手をかけたアメリカ
戦術的努力で戦略的劣勢を覆すことはできない――マリアナ沖海戦の致命的誤断
より錯誤の少ない側が勝つ――レイテ沖海戦の逆説
ターゲット東京――アメリカの日本本土空襲における戦略と戦術
「天一号作戦」――沖縄「決戦」の蹉跌を招いた政戦略の不一致
結びにかえて――戦略なき大戦
初出一覧
本文236ページ
初出:「歴史街道」(PHP研究所)2021年4月号から2025年4月号の間に15回掲載した原稿を本書収録にあたり、大幅に加筆・修正したもの。
