『日本海軍 失敗の本質』|戸高一成|PHP新書
歴史研究家の戸高一成(とだか・かずしげ)さんの歴史研究読み物、『日本海軍 失敗の本質』(PHP新書)を紹介します。
2025年は、太平洋戦争の終戦から80年、そして昭和100年という節目の年にあたります。
時代の移り変わりとともに、太平洋戦争を実体験した方々は少なくなり、記憶も徐々に風化しつつあります。一方、海外に目を向けると、ウクライナとロシア、ガザ、イランとイスラエルといった地域では、いまなお戦火が絶えません。そして日本の周辺でも、軍事的な緊張が高まっています。
私事ながら、神保町のシェア型書店「ほんまる」の棚で開催している「戦争小説特集」の企画に携わり、「かわら版」(無料配布)にも寄稿いたしました。

これまで、戦争をテーマにした本は感情が入りすぎて冷静に読むことができず、つい敬遠してしまいがちでした。しかし、今こそ、80年前に終結した戦争について、客観的に学び直すべき時期ではないかと感じ始めています。
多くの犠牲を経て得た平和と教訓を、次の世代へと伝えていく使命が、私たちにはあるのではないでしょうか。
あらすじ
太平洋戦争で日本海軍が敗れた「本当の理由」とは──。
昭和十六年(1941年)十二月の真珠湾攻撃を皮切りに始まった太平洋戦争。緒戦では大きな成果を挙げたものの、セイロン沖海戦以降、日本海軍は重大な判断ミスを繰り返していきました。やがて劣勢となった終戦間際には、不都合な事実を隠蔽するような動きも……。
大和ミュージアム館長であり、海軍史研究の第一人者でもある著者が、戦後八十年の節目に世に問う、渾身の総決算です。
(カバー裏の説明文より抜粋・編集)
ここに注目!
『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(中央公論新社)という名著があります。太平洋戦争で日本軍がなぜ敗北したのかを、ノモンハン事件、ミッドウェー作戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ海戦、沖縄戦の6つの失敗事例から、社会科学的なアプローチで分析・検証した本であり、戦史研究としてはもちろん、組織論としてビジネスの世界でも高く評価され、多くのビジネスパーソンに読まれています。
本書は、日本海軍史の第一人者であり、数多くの元海軍将校や下士官兵の証言を収集してきた著者による、いわば海軍版の「失敗の本質」といえる一冊です。
序章では、明治時代から続く日本海軍の歴史や軍人論、さらに海軍と陸軍の評価の違いなど、総論的な視点から語られています。第1章の真珠湾奇襲による日米開戦から、第10章のレイテ沖海戦まで、主要な海軍の戦いを時系列に沿って取り上げ、各戦いに潜む「失敗の本質」を明らかにしていきます。
第11章では、終戦の年に起きた、海軍にとって「最後の汚点」ともいえる歴史的事件についても触れられています。さらに補論では、「海」の象徴である戦艦大和と、「空」の象徴である零戦との関係性にも言及されており、興味深い論考となっています。
実体験者の証言も盛り込まれており、俯瞰的な視点から海軍の戦いを捉えることができます。なぜ日本海軍は緒戦で勝利しながら、その後敗北を重ねていったのか──その過程を多面的に理解するうえで、大きな手がかりとなる一冊です。
「失敗から学ぶ」──それは簡単なようでいて、実際には心理的な壁もあり、なかなか実行に移せないものです。本書は、その大切さを私たちに教えてくれ、大きな気づきを与えてくれるでしょう。
※戸高一成さんの正しい表記は「戸髙一成」ですが、「髙」は環境依存文字のため、本文では「高」を使用しています。
今回取り上げた本
書誌情報
日本海軍 失敗の本質
戸高一成
PHP研究所・PHP新書
2025年7月29日第一版第一刷
装幀:芦澤泰偉+明石すみれ
目次
はじめに
序章 昭和海軍と太平洋戦争
――日本には何が足りなかったか
1章 昭和海軍の誤算
――なぜ開戦を止められなかったか
真珠湾奇襲(昭和十六年十二月)の舞台裏
2章 敗北の序章
――英国艦隊に完勝の陰で看過された「失敗」
セイロン沖海戦(昭和十七年四月)
3章 見落とされた海戦
――この「失敗」を戦訓にできなかった昭和海軍
珊瑚海海戦(昭和十七年五月)
4章 隠され続けた事実
――日本海軍大敗の要因は何か
ミッドウェー海戦(昭和十七年六月)
5章 山口多聞と日本海軍
――なぜその進言は「ノイズ」となったか
蒼海に眠った異質の司令官
6章 山本五十六と昭和海軍
――活かされなかった軍政家としての能力
連合艦隊司令長官の光と影
7章 日本海軍の体質
――完勝の裏側に見てとれる負の側面
ルンガ沖夜戦(昭和十七年十一月)
8章 打ち消された「絶対国防圏の死守」
――問われるべき三つの敗因
マリアナ沖海戦(昭和十九年六月)
9章 小沢治三郎と昭和海軍
――マリアナ沖海戦の指揮をどう評価すべきか
敗北の司令官の実像
10章 史上最大にして最後の海戦
――「負け方」を知らなかった日本の敗北
レイテ沖海戦(昭和十九年十月)
11章 昭和海軍「最後の汚点」
――戦艦大和はどう使われるべきだったか
沖縄特攻(昭和二十年四月)
終章 昭和海軍「失敗の教訓」
――なぜ太平洋戦争で敗れたのか
補論 歴史の悲劇
――「史上最大の戦艦」と「万能の戦闘機」が語るもの
初出一覧
本文198ページ
初出:「歴史街道」(PHP研究所)2017年8月号から2025年4月号の間に14回掲載
