破斬 勘定吟味役異聞

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破斬 勘定吟味役異聞破斬 勘定吟味役異聞

(はざん・かんじょうぎんみやくいぶん)

上田秀人

(うえだひでと)
[伝奇]
★★★★☆☆

抜群に面白いストーリーテラーの上田秀人さんの最新作。主人公の水城聡四郎は、六代将軍家宣の懐刀の新井白石によって、勘定吟味役に抜擢された。剣は富田越後守の高弟であった富田一放が創始した一放流で鍛えた遣い手。戸部新十郎さんの作品でぐらいしか登場しないマイナーな流派に着目したのが面白い。ポスト綱吉の時代ということで、柳沢吉保や勘定奉行荻原重秀などの守旧派と、白石の改革派の争いが見もの。とくに、小判改鋳をめぐる疑惑にスポットを当てているので、江戸経済の一端も垣間見ることができて興味深い。

サブタイトルの勘定吟味役とは、天和二年(1682)、幕府の緊迫した財政に頭を痛めた五代将軍綱吉が創設したもので、勘定奉行所における目付のようなもの。出納を監査し、恣意あるいは無駄な支出を見張る。老中支配で定員は決めらておらず、五百石高の旗本が命じられ、役料三百俵が支給された。

面白い時代小説は、物語が面白い、時代背景の解説が適切、主人公から脇役まで人物造形が見事など、の要素が挙げられる。この作品はチャンバラと政争だけでなく江戸の経済についてまで描かれていて、現代に通じるところもあって興味深い。

勘定奉行荻原重秀のほかに、豪商紀伊国屋文左衛門(紀文)が聡四郎の前に大きな壁として立ちはだかる。敵役が強ければ強いほど、主人公が光り輝く。この本が読了感がいいのは、そのせいかもしれない。紀文というと、みかん船の話など伝説が多い割りに、史実が少ない印象があったので伝奇小説向きのキャラクターかもしれない。

物語●水城聡四郎(みずきそうしろう)は四男坊で部屋住みで、学問や算勘よりも剣術(一放流)の稽古に明け暮れで青春時代を過ごしてきたが、長兄の病死、次男・三男が養子に出たこともあり、勘定方の筋である水城家の家督を継いだ。六代将軍家宣の懐刀である新井白石によって、勘定吟味役に抜擢される。
聡四郎は、下僚の太田彦左衛門の教示で、勘定奉行に荻原重秀が就任した元禄九年以降の普請修復に疑念を持ち、探索を始めた。江戸の町を歩き、普請工事を見て回る中で、人入れ屋(人材派遣業)の相模屋伝兵衛、紅の父娘と知り合いになった…。

目次■第一章 負の遺産/第二章 幕政の闇/第三章 黄白の戦い/第四章 閨の鎖/第五章 命の軽重/解説 縄田一男

カバーイラスト:西のぼる
カバーデザイン:多田和博
解説:縄田一男

時代:正徳二年
場所:下駒込村、江戸城、増上寺、江戸茅町二丁目、元大坂町、牛込御門内御留守居町、本郷御弓町、吉原、深川入舟町、八丁堀、水戸家石切場、小網町一丁目、本両替町ほか

(光文社文庫・629円・05/08/20第1刷・396P)
購入日:05/08/17
読破日:05/08/22

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