伊勢奉行八人衆
(いせぶぎょうはちにんしゅう)
佐江衆一
(さえしゅういち)
[武家]
★★★☆☆
♪かつて、八代将軍吉宗の懐刀の大岡越前守忠相のプロフィールを見ていたら、山田奉行と言う記述があり、不審に思ったことがあった。まず、山田というのが伊勢神宮のある伊勢・山田のことを指すのがわからず、その後は、なぜ伊勢神宮を奉行を配して監督しなければならないのかがまたわからなかった。
その後、いろいろ本を読んでいくうちに、伊勢まいりというのが、当時もっともポピュラーな旅行形態であり、年間五百万人(当時の日本の人口から考えると大変な数だ)の参拝者があったこともあると聞き、これは軽視できないぞ、という感じになった。しかし、その割に、伊勢奉行を主人公とした作品にとんと出会わなかった。長崎奉行とかに比べると、異国人や抜けに、薩摩藩の暗躍などといった、ダイナミックな要素に乏しいせいだろうか。
もともと、ここに収録された作品は、伊勢志摩のタウン誌の連載用に書かれたらしい。そんな事情でもないと題材として注目されにくかったのかもしれない。宮部みゆきさんの「平成お徒歩日記」にも書かれているが、若い人には志摩スペイン村の方が有名かもしれない。いずれにしろ、佐江さんに作品の執筆を依頼したタウン誌の編集者は偉い。
表紙の堂さんの絵を見ていたら、どうしても、大岡越前役者の加藤剛さんを思い出してしまう。各話に登場する伊勢奉行たちは、以下のとおりだ。
「家光上洛」(寛永十一年)七代奉行・花房志摩守幸次
「遷宮の太刀」(寛文九年)十代奉行・桑山丹後守貞政
「間の山心中」(正徳三年)十八代奉行・大岡能登守忠相
「悪奉行貞居」(安永元年)二十七代奉行・松田河内守貞居
「真説油屋騒動」(寛政八年)三十代奉行・堀田土佐守正貴
「悪風を切る」(文化三年)三十二代奉行・小林筑後守正秘
「犬の抜けまいり」(文政十三年)三十六代奉行・牧野長門守成文
「最後の奉行」(文久三年)四十八代奉行・本多伊予守忠貫
物語●伊勢山田奉行は、伊勢奉行または山田奉行ともいうが、慶長八年に徳川家康によって創設されて以来、慶応四年(明治元年)に廃止されるまで、四十八代四十八名が奉行職についた。遠国奉行としてなぜ、徳川幕府は、伊勢奉行を置いたのか? その意図は、本書の8つの話から窺い知ることができる。
目次■家光上洛|遷宮の太刀|間の山心中|悪奉行貞居|真説油屋騒動|悪風を切る|犬の抜けまいり|最後の奉行|あとがき