(うたせやきへい・ひけんかげろう)
(なかざとゆうじ)
[痛快]
★★★☆☆
♪奥州の小藩・三善藩で、専売吟味方改め役についていた鈴鳴喜兵衛は、藩士久宝治右衛門を斬り、次席家老柿沢掃部を斬殺した嫌疑をかけられ逐電した敵持ち。今はその経験と鹿島神流の剣術の遣い手という腕を生かして、「討たせ屋」稼業についていた。「討たせ屋」とは、仇を討たせるか、思いとどまらせるか、仇討を差配する例のない稼業。
今回の仇討ちは、松代藩士の妻が五十七年にわたって仇を追い求めるというもの。敵役は、微塵流の達人ながら、八十を超えて健在かどうかも不明なところ。一方、江戸では、稽古ごとに通う娘のかどわかしが続いているという。「討たせ屋」稼業をつとめる喜兵衛自身は、相変わらず久宝伊織、彦一郎の姉弟に敵として追われている中で、老婦人の仇討ちを助けることができるのか? 敵役の田鎖甚三の怪人ぶりに凄味があって痛快な一編。
物語●正保二年、信州松代藩で御膳奉行を務める鷹取忠資は、配下で微塵流の田鎖甚三という若侍に斬り殺された。甚三はすぐに逐電したが、忠資の息子の嫁のひなは生まれたばかりの一子・忠吾と仇討ちのための暇乞いを藩に願い出た。それから十四年、忠吾は日向で甚三と思われる男を見かけたが、その男が披露した恐るべき剣技を前に、忠吾は仇討ちを止めることにした。
それからさらに四十三年が経過した元禄十五年、吉良上野介義央の家臣、清水一学は、太刀を遣った際に、武家の髷をした老婦人に声をかけられた。一学と同じ流儀の微塵流の田鎖甚三についてであった。老婦人は、義父の敵として、甚三を五十七年にわたって追っている鷹取ひなであった。ひなは、一学の紹介で、吉原の討たせ屋を訪れることになった…。
目次■序章 魔剣/第一章 宿下がり/第二章 意地/第三章 微塵流/第四章 修羅/第五章 家族/第六章 秘剣陽炎/終章 太夫来訪