蜩 慶次郎縁側日記

蜩 慶次郎縁側日記 慶次郎縁側日記
(ひぐらし・けいじろうえんがわにっき)
北原亞以子
(きたはらあいこ)
[市井]
★★★★☆

NHK金曜時代劇『慶次郎縁側日記』(高橋英樹主演)での放送も始まり、注目のシリーズ第五弾。現代もので海外を舞台にした作品も多い作家・藤田宜永さんが解説を書かれているのでビックリ。 『慶次郎縁側日記』の原作は、しみじみとした味わいがある。その味わいも複雑でかつ玄妙なものである。読んでいる途中よりも、読後にじわじわとその面白さが湧いてくる。

主人公の森口慶次郎は、もと定町廻り同心で“仏の旦那”と呼ばれるように、かつては人情味あふれる裁きぶりだったらしいが、このシリーズでは、さらに一歩下がった目線で観察者として登場することが多い。だから、「日記」とタイトル付けされているのかもしれない。

したがって本当の主人公は、一話ごとに異なる市井の人々である。料理屋の下働きの男であったり、米屋の女中であったり、美人局をはたらく男女であったり、父と恋人の間で板挟みになる娘であったり、再婚に悩む女であったり。気鬱や老後、ホームレスなど、現代に通じるテーマもあり、考えさせられることも多いが、それぞれの話に救いがある決着の付け方がされているせいか、読了感はいい。とくに、「綴じ蓋」「意地」が好きだ。

物語●「綴じ蓋」花ごろもで働く矢作は、潰れ百姓で一家がばらばらになり、江戸へ出てきた。花ごろもの女将のお登世は、正直者で気がやさしい二十七歳の矢作の嫁のなり手を探すが…。「権三回想記」助けてくれ。殺されると言って、権三が元鳥越町の番屋に飛び込んできた。たまたま、定町廻り同心・森口晃之助がそこに居合わせた…。「おこまの道楽」米屋の女中のおこまの唯一のたのしみはおしゃべりだったが…。「意地」森口晃之助の妻・皐月のもとに、芝宇田川町の指物師の娘おちせが出来上がったばかりの硯箱を届けにきた…。「蜩」大根河岸の吉次親分が所帯を持ったという。その女というのが…。「天知る地知る」上野不忍池中島の出合茶屋で、『さかさ美人局』が起こった。晃之助は警戒していたが取り逃がしてしまった…。「夕陽」日本橋通二丁目の料理屋の焼方の料理人である弥平次は修業をかねて京の料理屋に行くことになったが…。「箱入り娘」夕刻、留守番をしていた煙草屋の箱入り娘が何者かに殺された…。「逢魔ヶ時」花ごろもに、神田の甚吉を訪ねて品のよい女がやってきたが、甚吉というお客は店にはいなかった…。「不老長寿」還暦を迎えるというのに、おわかは腰が曲るどころか、頬も艶やかに光り、死ぬことを忘れたように若さがみなぎっていた…。「殺したい奴」堀江六軒町の居酒屋で、森口慶次郎は、妙に頬を寄せ合って話している二人の男の話が気になった…。「雨の寺」深川猿江町の廃寺に雨宿りした慶次郎は、その寺に住み込んでいる五郎太と知り合った…。

目次■綴じ蓋|権三回想記|おこまの道楽|意地|蜩|天知る地知る|夕陽|箱入り娘|逢魔ヶ時|不老長寿|殺したい奴|雨の寺|解説 藤田宜永

カバー装画:蓬田やすひろ
解説:藤田宜永
時代:明示されず(慶次郎の父が定町廻り同心のころが寛政のころ)
場所:仁王門前町、車坂町、元鳥越町、神田鎌倉町ねこや新道、芝宇田川町、木挽町三丁目、三十間堀六丁目、上野不忍池中島、箔屋町、瓦町、堀江六軒町、深川猿江町ほか
(新潮文庫・590円・04/10/01第1刷・431P)
購入日:04/10/05
読破日:04/11/05

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