黒衣の宰相

黒衣の宰相黒衣の宰相
(こくいのさいしょう)
火坂雅志
(ひさかまさし)
[戦国]
★★★★☆☆

金地院崇伝というと、徳川幕府の成立に貢献した、陰の実力者だが、メインに描かれることが少ない人物だ。同じような立場の天海僧正の場合は、もっと伝奇的なキャラクターとして描かれることが多くなじみ深いが…。

この物語は崇伝の青年時代から始まる。海外で学問をという夢に向かい、寺を飛び出した野心満々の若者として登場する。倭寇の船に乗って密航を企てたり、宇久島の島主の娘・紀香と恋に落ちたりと、後年、豊臣家との交渉でみせた老獪さはみられない。著者の火坂さんがあとがきで、南禅寺の金地院を訪ねた際に、「黒衣の宰相こと、金地院崇伝の木像であった。うす暗がりのなかに端座する木像を見て、私はその男の若さにおどろいた」と書かれ、この小説の構想を思ったという。そんな訳で、作中の崇伝は若く、野心的で、魅力的だ。

前々から、歴史的に悪役と色づけされる人に惹かれていたが、まさに、視点を変え、描き方を変えるだけで、こんなにも生き生きと面白くかつ、共感を持てるのだと再確認できた。

火坂さんは、以前に秀吉の筆頭侍医で政治顧問をつとめた施薬院全宗(やくいんぜんそう)を描いた作品があったが、本書はその系譜にあるものといえる。また、崇伝と同時代人で、好対照な生き方をする、大徳寺の沢庵が登場し、その描き方も含めて興味深い。歴史の見方が少し変わる、傑作歴史時代小説である。

物語●二十四歳になる京の名刹・南禅寺の禅僧・崇伝(すうでん)は、幼なじみで南禅寺で下働きをしている雑色の六弥太(ろくやた)と、寺を勝手に抜け出して、肥前国東松浦半島の呼子の磯にやってきた。崇伝は、室町幕府の”四職(ししき)”と呼ばれた名門の一色氏の血を引いていたが、室町幕府の衰退とともに一色家は力を失い、崇伝も五歳にして、父母と分かれて禅寺に入れられることになった。その彼が、明国に渡りたいと願ったのは、明国で学問を究め、学をもって世に出ることを望んだからである。時は、天下統一を成し遂げた太閤豊臣秀吉が、朝鮮・明国への出兵を企てて、兵を東松浦半島の名護屋城に集結させていた時期であった…。

目次■海鳴り/京の雨/雌伏/恋の闇/家康/昇る月/再会/女忍者/駿府の風/異国日記/風雲二条城/貴船菊/国家安康/駆け引き/大坂の陣/紅蓮の炎/たまゆら/新しき世/修羅の道/あとがき/解説 島内景二

カバー:西のぼる
解説:島内景二
時代:文禄元年(1592)三月
場所:肥前国呼子、五島列島宇久島、京・南禅寺、岡屋の里、木津川のほとりの澄光寺、伏見城、天ヶ瀬の山夜荘、牟婁ノ湯、北野の地蔵院、一条戻橋、大坂城、豊後国臼杵ほか
(文春文庫・933円・04/08/10第1刷・767P)
購入日:04/08/11
読破日:04/09/19

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