蒼き海狼

蒼き海狼蒼き海狼
(あおきかいろう)
火坂雅志
(ひさかまさし)
[冒険]
★★★★☆☆

小学館文庫のカバーの装幀が変わった。文庫には珍しいマットPP加工(通常はツルツルとしたPP加工)で、今までと質感が違う。鎌倉時代の元寇をテーマにしたスケールの大きな冒険時代小説。本はページ数も多く厚くて通勤読書向きではないが、じっくり味わって読めそうな予感。

主人公の朝比奈蒼二郎は、三浦一族の朝比奈三郎義秀の孫。祖父は、北条との争いに敗れ、落武者となり、高麗国耽羅島(済州島)で、一族が伝える操船術を駆使し、海商となった父と宋人の海商の娘である母の間に生まれ、耽羅島で育った。高麗を突如襲った元軍との戦乱の渦で、両親を失い天涯孤独の身になって、祖父の国・日本にやって来て、印象的な波乗りのシーンで物語は始まる。その波乗りはサーフィンと言うよりはボディボートに近いが、時代小説でかつてなかったかっこいいオープニングシーンである。

その蒼二郎が、執権北条時宗の懐刀の御内人(みうちびと)平頼綱(たいらのよりつな)の命で、蒙古軍の動向を掴むために諜者として、元の国に潜り込むことになる。ここから全アジアを舞台にした、スケールの大きな物語に発展して行く。

恋あり、友情あり、戦いありの傑作エンターテインメント冒険時代小説である。

読んでいていろいろ感心もさせられたが、中でも格闘技にも精通している火坂さんらしいと思ったのは、主人公の蒼二郎に、諸賞流(しょしょうりゅう)という素手の体術を学ばせて、得意技にしたことである。歴史小説はいろいろ縛りが多すぎてちょっとという人にぜひおすすめしたい作品だ。

物語●朝比奈蒼二郎は、鎌倉にほど近い江ノ島の海で、縦三尺横一尺四寸の杉板にしがみついて長く高い三角形に屹立した絶好の波をとらえた。三角形の峰の上から、白く崩れかかる波の壁が蒼二郎の体を心地よく滑らせた。冷たいしぶきを浴びながら、波の崩れる方向に向かって、板を抱いたまま横に一回転する。爽快感が脳天まで突き抜ける。――朝比奈氏に代々伝わる波乗りの法である。朝比奈氏は、相模の三浦半島を本貫の地とし、水軍を擁した海の武士団、三浦氏の一党である。心身鍛練法も、陸の武士とは違っていた。父からは、波乗りの法は、遊びではなく、海の神に近づく崇高なる儀式と教えられた。その父の故郷の海で波乗りをし、鎌倉海老を焼いて食べていた蒼二郎は、北条の氏神の江ノ島の神域を侵したとして北条の武者たちに捕えられ、鎌倉を擾乱させた罪で斬首に処せられることになった…。

目次■第一章 朝比奈の裔/第二章 秘命/第三章 諸賞流/第四章 扁舟/第五章 草原の民/第六章 月湖社/第七章 江篭潭/第八章 汗の都/第九章 ナーダム/第十章 脱出行/第十一章 安南/第十二章 海の道/第十三章 囮/第十四章 紅い河/第十五章 蒙古来たる/第十六章 海からの使者/第十七章 北の戦い、南の戦い/第十八章 白藤江/あとがき/解説 井家上隆幸

装画:長谷川等伯「波涛図」(総本山永観堂禅林寺所蔵)
カバーデザイン:多田和博
解説:井家上隆幸
時代:弘安五年(1282)
場所:江ノ島、鎌倉、博多、慶元、揚州、大都。東京(トンキン)、会寧府、奴児干(ヌルガン)、流鬼国、津軽十三湊、瑠求、占城、大越国ほか
(小学館文庫・848円・05/03/01第1刷・718P)
購入日:05/02/10
読破日:05/02/19

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