波のり舟の 佃島渡波風秘帖
(つくだのわたしいざこざひかえ)
出久根達郎
(でくねたつろう)
[捕物]
★★★★
♪文藝春秋が7月頃にやっていた、「江戸時代が面白い」フェアで見つけた一冊。「ページを吹き抜ける 粋でいなせな江戸の風」というキャッチコピーが付いていた。おそらく、このフェアがなかったら目に留まらなかっただろう。
副題や目次のタイトルを見るとわかるが、洒落っ気のある、江戸風の粋にあふれる作品だ。江戸情緒を味わうのにいい。登場人物たちが、のんびりしていて落語の話みたいでゆったりできる。
正太のおさななじみで漁師のむすめみつや隣家の老婆ヨシ、佃島住吉明神の宮司など、脇役も個性的に描かれている。
作者は、『佃島ふたり書房』で直木賞を受賞している、佃島の達人。時代小説も書いているとは思わなかった。
物語●佃島と、対岸の舩松町の間、およそ一町(約109メートル)を往復する渡し守の正太は、職掌柄、乗客たちや佃島の島民たちに関わるいろいろな事件に巻き込まれる…。江戸情緒あふれる、連作形式の異色捕物帳。
目次■徒恋初空音佃島(たにんのはじまりねつからうそをつくだじま)/恋慕寒鯉抱佃島(このすちょうかんのまごいにだきつくだじま)/恋闇沖漁炎佃島(こいはやみおきのいさりびもえつくだじま)/納札焼杙火佃島(おさめふだはがれてまたもつくだじま)/三途銭狂言佃島(わたしちんさんもんしばいのたねつくだじま)/新玉年猫戯佃島(あらたまのとしまのねこがじゃれつくだじま)/春宵相乗舟佃島(みじかよにふたりはむすびつくだじま)/切口上