『女人太平記』|羽生飛鳥|PHP研究所
2025年8月1日から8月末日の間に、単行本(ソフトカバー含む)で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2025年8月の新刊(単行本)」を公開しました。
今月の注目作は、羽生飛鳥さんによる歴史長編小説『女人太平記』(PHP研究所)です。天下が麻のごとく乱れた南北朝時代を生きた女人が、足利尊氏の弟・足利直義の死の真相に迫る歴史ミステリーです。
著者について
羽生飛鳥さんは、2018年「屍実盛」で第15回ミステリーズ!新人賞を受賞し、2021年には同作を収めた『蝶として死す 平家物語推理抄』で第4回細谷正充賞を受賞されました。平安後期から室町前期を舞台に、知られざる歴史を掘り起こし、史実の新解釈を織り込んだミステリー作品を得意とする気鋭の小説家です。児童文学作家としては、斉藤飛鳥名義で活動されています。
あらすじ
後の北朝初代・光厳帝の典侍を務めた日野名子は、関東申次として権勢を誇った西園寺家の若き当主・公宗の正室となります。けれども、彼女の栄光の日々は、後醍醐院の謀略と足利尊氏の裏切りによって、あっけなく終わりを迎えます。そしてそれは、数多の武家や公家、皇族たちが互いに争う、混沌とした時代の幕開けでもありました――。
度重なる戦乱に人生を翻弄され続けた名子が、最後に見抜いた尊氏の「秘密」とは。名子が記した、宮廷女流日記文学の掉尾を飾る作品として知られる『竹むきが記』を下敷きに、激動の室町幕府黎明期を描き出す歴史長編です。
(『女人太平記』Amazon内容紹介より抜粋・編集)
ここに注目!
本書は、関東申次(朝廷と幕府の交渉役)を務めた西園寺公宗の妻・日野名子の視点から、南北朝の動乱を描いています。名子は、北朝初代・光厳帝の乳母役であり、内侍司の実質的な長にあたる典侍に抜擢された人物です。
また、彼女は宮廷女流日記文学の掉尾を飾る作品『竹むきが記』の著者としても知られています。ちなみに、北朝初代・光厳帝を描いた荒山徹さんの『風と雅の帝』(PHP研究所)にも、光厳帝(量仁)の友人で側近として、西園寺公宗とその叔父・公重が登場していたのを思い出しました。
物語は、観応3年(1352年)閏2月、中流貴族である日野家の邸宅に、名子と一人息子の実俊が暮らしている場面から始まります。そこへ、征夷大将軍・足利尊氏の弟で、鎌倉にて隠居していた直義が毒殺されたらしいという報せが届きます。直義は、前年に起こった「観応の擾乱」で尊氏に敗れ、鎌倉に退いていたのです。
兄弟と浅からぬ縁があり、二人が非常に仲の良い兄弟であったことを知っていた名子は、尊氏が最愛の弟を手にかけたとは、どうしても信じることができませんでした……。
名子の心は、現在と過去のあいだを行き来し、さまよい始めます。北朝方の光厳帝に仕え、激動の時代を生きた女官が最後にたどり着いた真実とは――。
歴史とミステリーと古典文学が融合した本作は、知的好奇心を刺激し、読書欲を掻き立てる一冊です。

今回取り上げた本
