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徳川家臣団の重臣・牧野一族と戦国三河がわかる、波瀾の物語

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『渦巻いて 三河牧野一族の波瀾(上)』|岩瀬崇典|文芸社

渦巻いて 三河牧野一族の波瀾(上)岩瀬崇典(いわせたかのり)さんの歴史小説、『渦巻いて 三河牧野一族の波瀾(上)』(文芸社)をご紹介します。

2023年のNHK大河ドラマでは徳川家康が主人公となり、井原忠政さんの「三河雑兵心得」シリーズの大ヒットの影響もあって、自分の中で、三河武士・徳川家臣団への関心が高まっています。

そんな折に、本書をご恵贈いただきました。

著者は、愛知県豊川市の野球用木製バットのOEM製造会社の役員で、世界各国で自社ブランド「HAKUSOH」の木製バットを販売する米国法人のCEOでもある、若きビジネスパーソンです。

あとがきによれば、十五年前の大学生の時に書き上げた作品が元で、未完のまま出版社に送り、早期の完成を期待されながら、十三年間封印していたそうです。
新型コロナウイルスで、眠っていたこの作品に向き合う時間と心構えができて見直しを進めて上下巻の二冊構成で刊行されることになったとのこと。

今川氏、松平氏(後の徳川氏)のはざまにあって、戦国の世を生き抜き、その後5つの近代大名・牧野氏の流れを輩出した「三河牧野氏」の100年に及ぶ壮大なる物語。一族はどのようにして勢力を広げ、城を築き、戦ってきたか、上巻・下巻に分けてお届けします。織田、豊臣のように誰もが知る人物ではありませんが、地元民でなくても、きっと興味深く読めること間違いなしです。

(Amazonの紹介文より)

物語は、室町時代、四代将軍足利義持の治世(在任期間は応永年間の1394年~1423年)に三河国宝飯郡中条郷(現在の愛知県豊川市牛久保)から始まります。

将軍から牧野村一帯の地頭に命じられて、田口成方は息子の成富とともに讃岐からこの地に足を踏み入れました。

 田畑を通るたびに、農民たちの声が聞こえる。
「牧野殿だ。牧野殿がお見えなすったぞ。ご無事であった」
 あっちでも、こっちでも、牧野殿! と丁寧に田口成方に向かって挨拶をしてくる。頭が土へ埋まるほど深くお辞儀をしてくるのであった。
 
(『渦巻いて 三河牧野一族の波瀾(上)』 P.10より)

牧野村には、領主で三河国の一之宮である砥鹿神社の神官の補佐をしている牧野成興がいました。

成興と成富は、まるで鏡を見るかのように容貌も声も酷似していて、しかも、成興の父は戦で亡くなっていましたが、その父と成富の父成方も瓜二つでした。

両家の祖を遡ると、平清盛の家臣で阿波の城主である田口成良にたどり着くという血のめぐり合わせもあり、運命的なものを感じた成方は、成興を成富と同様、息子とみなして、三人は寝食をともに生活を始めることとなりました。

それから二十数年後、永享十年(1438年)、永享の乱で、伯父の一色直兼とともに戦い敗れた武将一色時家は、三河守護の一色義貫を頼って、三河国に落ち延びました。

「全慶や、他に家臣となる者が欲しくないか? 近くに牧野という農民から信頼されている者がおる。その者を家臣にしたいのだが、何とかならぬか?」
 この地に住み始め、土地に馴染んでくると、必ずといっていいほど「牧野」という人物の名を聞くことになる。そのほど名の知れた者だったのだ。その名が時家の耳に入らぬわけがない。
「時家様、わたくしにお任せください。必ずや家臣に取り込みましょう」
 
(『渦巻いて 三河牧野一族の波瀾(上)』 P.23より)

時家の家臣波多野全慶の説得と、懇意にしている大塚城主の岩瀬忠家のすすめもあって、牧野成興と田口成富はそろって時家の家臣となりました。

牧野の地に暮らし、名を大切にしてきた成富は、その後、時家の命で牧野を名乗ることとなりました……。

 一色城から牛久保城へ皆が移り、その生活に慣れ始めた頃、吉田城に異変が起こった。異変は常に平穏な生活を突き破ってやってくる。こちらの状態を待たずしてやってくるのである。
「松平がここへ攻め入ると? その報せは確かであるか?」
 
(『渦巻いて 三河牧野一族の波瀾(上)』 P.207より)

上巻では、室町から戦国時代前期(家康の誕生の頃)までの、牧野直系(成興)と田口系(成方・成富)の2つの家の波瀾に富んだ百年に及ぶ歴史を描いています。

領地を接する碧海郡の代官で田原城城主戸田家との抗争も興味深く、戦国の東三河を実感できました。
牧野家ばかりでなく、城主一色家の行方や、家康の祖父松平清康や父松平広忠などの躍動ぶりも描かれていて、三河国の歴史が少しわかりかけた気がします。

個人的には、知略に長けた男・全慶が、六、七歳の牧野成時(成富の子)に、ゲーム理論の「囚人のジレンマ」のような話をして、知略の技術を教え込んでいるシーンが好きです。全慶の人となりがよく出ていて印象に残りました。

下巻がますます楽しみになりました。

渦巻いて 三河牧野一族の波瀾(上)

岩瀬崇典
文芸社
2021年11月15日初版第一刷発行

題字、カバー作品:夏目珠翠(書道家)
カバーデザイン:横塚英雄

●目次
出会い
動乱の幕開け
仇討ち
築城と城包囲網
時を待つ
一族の行方

あとがき

本文247ページ

書き下ろし。

■Amazon.co.jp

『渦巻いて 三河牧野一族の波瀾(上)』(岩瀬崇典・文芸社)
『三河雑兵心得(一) 足軽仁義』(井原忠政・双葉文庫)

岩瀬崇典|時代小説ガイド
岩瀬崇典|いわせたかのり|作家 1984年、愛知県豊川市生まれ。東京理科大学理工学部工業化学科卒業。 野球用木製バット製造会社「白惣」の役員。 『渦巻いて 三河牧野一族の波瀾』で歴史小説デビュー。 時代小説SHOW 投稿記事 amzn_as...