南北朝に光彩を放つ、佐々木道誉と楠木正成の戦いを描く

婆沙羅太平記 道誉と正成安部龍太郎さんの長編歴史時代小説、『婆沙羅太平記 道誉と正成』(集英社文庫)を入手しました。

歴史への鋭い洞察力で紡ぎ出された、魅力あふれる人物描写と物語性豊かな作品で定評のある著者による、安部版「太平記」の第一弾です。

時は鎌倉末期。後醍醐天皇率いる軍勢が挙兵し、倒幕の機運が高まっている。強い者につく変節漢としてののしられても己の道を貫いた「バサラ大名」佐々木道誉。そして、天皇への忠節を貫いて華々しく散り、愛国の士としててももてはやされる「悪党」楠木正成。この国の未来を案じ、乱世を治めるべく闘った両雄の行く末は――。この国の礎が築かれた南北朝史に熱き一石を投じる大シリーズ、堂々開幕!!
(文庫カバー裏の紹介文より)

本書は、元弘元年(1331)に起こった元弘の乱の翌年から始まります。乱は、後醍醐天皇が笠置山で倒幕の兵を挙げた事件です。

佐々木道誉は、乱に加わっていた楠木正成が挙兵を企てているという報を受けて、奈良の御所(ごせ)に向かいます。名刹・九品寺に立てこもった正成を気づかれないように包囲して討ち取る作戦を取りました。

ところが、正成に作戦を読まれていて、身方は現れなかったり、早々に落城させられたりして、鮮やかに敗れます。

「敵に情をかけられますか」
「戦は六分の勝ちがよい。勝ちすぎれば敵の恨みを買い、身方の油断をさそうことになる」
「戦でござるぞ。敵の恨みを買うのはいたし方ありますまい」
「見事に勝てば、敵の心さえ動かすことができるものだ。そうして身方をつのっていかねば、回天の志をとげることはできぬ」

(『婆沙羅太平記 道誉と正成』P.28より)

敗走する道誉軍に追撃をかけようとする家臣に、正成は勝ち過ぎをいさめてやめさせました。正成の戦上手ぶりが発揮される場面から始まり、物語の世界に引き込まれます。

「太平記」の世界、すなわち鎌倉末期から室町初期までの南北朝時代を描いた歴史時代小説は少ないので、本書の刊行は待望のものです。

この時代を描いた傑作としては、『武王の門』から始まる北方謙三さんの南北朝歴史時代小説シリーズがあります。読み比べて、南北朝のヒーローたちに興奮したいと思います。

目次
第一章 正成挙兵
第二章 両雄会談
第三章 護良追放
第四章 尊氏謀叛
第五章 王城奪回
第六章 院宣工作
第七章 渦中の玉
第八章 永訣湊川
付記
解説 島内景二

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『婆沙羅太平記 道誉と正成』(安部龍太郎・集英社文庫)
『武王の門(上)』(北方謙三・新潮文庫)