湯屋のお助け人は、家出した旗本の次男坊で直心影流の剣豪

『湯屋のお助け人 菖蒲の若侍<新装版>』|千野隆司|双葉文庫

湯屋のお助け人 菖蒲の若侍千野隆司(ちのたかし)さんの痛快時代小説、『湯屋のお助け人 菖蒲の若侍』(双葉文庫)をご恵贈いただきました。

本書は、「おれは一万石」シリーズなどで大人気の著者が、2011年に発表した「湯屋のお助け人」シリーズの第1作の新装版です。

七百石取りの旗本の次男、大曽根三樹之助は小笠原正親の横暴で許嫁を亡くし、剣の修行に励む日々を送っていた。しかし再び持ち込まれた縁談が小笠原家の策謀だったと判明し、すべてを捨て出奔したその夜、斬殺事件に巻き込まれてしまう。行く当てのない三樹之助は、そこで出会った「夢の湯」主人で岡っ引きの源兵衛に連れられ湯屋に居候することに。湯屋の仕事を手伝いながら、事件の探索を始める三樹之助だが――。若侍三樹之助の活躍と成長を描く「湯屋のお助け人」シリーズ新装版第一弾!
(カバー裏の内容紹介より)

大曽根三樹之助は、家禄七百石の旗本家の部屋住みの次男坊。
大曽根家は当主の左近、嫡子の一学、母親かつと四人家族で、屋敷は、大川の東御舟蔵と深川六間堀町に挟まれたあたりにあります。

本所亀沢町にある直心影流の団野源之進道場に通い、二十二歳ながら免許皆伝を得て、師範代に次ぐ腕前で『団野の四天王』の一人に数えられています。

半年前に、五千石の大身旗本小笠原監物の嫡男正親の横暴により、三樹之助の許嫁美乃里が自裁する事件が起きたが、目付に届けられることなく関係者間で内々に決着がつけられてしまいました。

三樹之助は、部屋住みの身ではどうすることもできずに、正親への恨みと憎しみを胸の奥に潜めて剣の修行に打ち込んでいました。

「そうか。ならば重畳だ。そこでだ、その方もいろいろと無念なことがあったであろうが、どうだここで気持ちを変えて、婿入り話を進めてみては。あれからもう、半年になるからな」
「…………」
「またとない縁談だ。相手はな、二千石のご大身だぞ」
 
(『湯屋のお助け人 菖蒲の若侍』P.24より)

叔父で、二十数年前に大曽根家から九百石の旗本家へ婿入りした長谷川藤内が、三樹之助に縁談を持ってきました。

相手は、御小普請支配を務める酒井織部の長女・志保で、歳は三樹之助よりも一つ年上の二十三歳。

周囲に説得され渋々ながら見合いをし、志保からはお忍びでの町歩きを誘われ、縁談はとんとん拍子に進みました。

ところが、この縁談の裏に、小笠原正親がいることを知った三樹之助は、美乃里の無念を思い、すべてを捨てる覚悟をして、屋敷を出ることにしました。

約11年ぶりに再読をし、物語の細部は忘れていましたが、純情で颯爽とした三樹之助の若侍ぶりはすぐに思い出しました。

行く当てのないまま、屋敷を出たその夜、不忍池のほとり近くで、血のべったり付いた抜き身の刀を握った黒頭巾を被った賊に出会い立ち会いました。
賊に逃げられた後、岡っ引きの源兵衛に出会い、源兵衛の家で湯屋の「夢の湯」に連れて行かれました。

源兵衛と共に、事件の解決に協力する三樹之助の活躍ぶりもさることながら、居候として湯屋の仕事を手伝い、源兵衛の家族や客たちと闊達に交流して「湯屋のお助け人」と呼ばれるようになっていくところが魅力的です。

志保と、「夢の湯」を切り盛りする源兵衛の娘、お久の二人の女性がしっかりと描かれていて、今後の物語の展開が楽しみになります。

湯屋のお助け人 菖蒲の若侍<新装版>

千野隆司

双葉社 双葉文庫
2021年9月12日第1刷発行

カバーデザイン:bookwall
カバーイラストレーション:田尻真弓

●目次
第一章 道場破り
第二章 夢の湯
第三章 両国花火
第四章 肘の刀傷

本文299ページ

2011年1月、双葉文庫から刊行された作品に加筆修正を加えた新装版

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『湯屋のお助け人 菖蒲の若侍<新装版>』(千野隆司・双葉文庫)

千野隆司|時代小説ガイド
千野隆司|ちのたかし|時代小説・作家 1951年、東京生まれ。國學院大學文学部文学科卒、出版社勤務を経て作家デビュー。 1990年、「夜の道行」で第12回小説推理新人賞受賞。 2018年、「おれは一万石」シリーズと「長谷川平蔵人足寄場...