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百万石の留守居役(十一) 騒動

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数馬奪回に向け、福井へ向かう琴の女行列

百万石の留守居役(十一)  騒動上田秀人さんの文庫書き下ろし時代小説、『百万石の留守居役(十一) 騒動』(講談社文庫)を紹介します。

加賀藩で若くして江戸留守居役に抜擢された瀬能数馬の痛快な活躍を描く、大人気シリーズ「百万石の留守居役」の第11弾です。

留守居役とは、主君の留守中に諸事を采配する役目。幕府の意向をいち早く察知し、大名家潰しの施策から藩を守る役割が何よりも大切で、人脈をもつ世慣れた家臣がつとめることが多い。

藩主綱紀の使者として赴いた越前松平家の城内で刀を振るうことになった数馬に、追っ手がかかる。仮祝言を挙げたばかりの琴も黙っていない。京に向かう女行列を仕立て、女忍の軒猿たちと数馬奪回に向かった。
そして、数馬の舅である加賀藩国家老の本多政長には、幕府から江戸召喚の命が。綱紀を憎む将軍綱吉が、加賀藩にくさびを打ち込み揺さぶりをかけてきた……。

藩主前田綱紀のお国入りを助けて帰国した数馬は、越前松平家に出張します。そして、城内で刀を振るうことになり、追手がかかるという騒動に遭います。そして新妻の琴は、数馬を奪回すべく女駕籠を仕立てて、越前に向かいます。

「本多の義父が、もっとも色濃く本多佐渡守の血を受け継いだと言っていたのが琴だ。おとなしく吾が帰りを待つとは思えぬ」
 
(『百万石の留守居役(十一) 騒動』 位置No.164より)

一方、琴の父で、加賀藩筆頭宿老、先祖が徳川家康の側近本多佐渡守正信という、本多安房政長に、将軍綱吉より使者があり、江戸出府を命じられます。

「行って来い。まあ、止めるわけには行かぬが、爺と上様では十枚違うわ」
 綱紀が手を振った。
「お許しをいただきありがとうございまする」
「ただし、余が国元におる間に戻って来い。まだ、金沢を直作に預けるのは心許ない」
 一礼した本多政長に綱紀が命じた。
 
(『百万石の留守居役(十一) 騒動』 位置No.1725より)

綱紀の許可を得て、政長は江戸へ出ることに。

さて、琴の行列は福井城下で、次席家老・結城外記の屋敷に逃れていた数馬を奪回します。家老の座を狙う、越前松平家組頭の本多大全は、先手組を出動させて追手としますが、琴の護衛をする女軒猿と数馬の手により、一人残らず討ち取られてしまいます。

「顔を見て、気に入れば奥へ連れて帰る気でいたが、それではすまされぬな。捕まえて加賀を追及する道具にせねばならぬ」
 倒れているのは越前松平藩士ばかりなのだ。実力の差を見せつけられた綱昌が腹を立てた。
「行列を追うぞ」
 
(『百万石の留守居役(十一) 騒動』 位置No.1838より)

越前松平家の当主・綱昌は、一門の松平若狭守の家老から「越前の太守にふさわしくない」藩主として力不足なので、血筋が本流に近い松平備中守直堅へ家督を譲り隠居しろと言われて以来、常軌を逸した行動が増えていました。

越前松平家は、二代忠直が幕府に不満を持って流罪にされ、四代光通は正室に跡継ぎができないことを責め立てられて気鬱になり自害し、二度にわたって大きな断絶があり、ややこしい相続をしています。

綱昌は光通の異母弟昌親の子で、傍流で越前松平家を継げる立場ではありませんでした。

好色でバカ殿の綱昌らに街道で追いつかれて対決することになる、父政長譲りの切れ者ぶりと度胸を見せる琴が何とも痛快です。数馬に守られるだけのか弱い存在でなく、やっと出番が来たという感じで、胸のすく、じゃじゃ馬ぶりを見せてくれます。
何とも癖になる面白さです。

◎書誌データ(Amazon Kindle版)
『百万石の留守居役(十一) 騒動』
著者:上田秀人
講談社・講談社文庫

発行:2018年7月1日
ASIN: B07DD7HW7S
713円(税込)
文庫書き下ろし

●目次
第一章 将軍の手
第二章 女駕籠
第三章 姫の顔
第四章 街道の応答
第五章 城下騒乱

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『百万石の留守居役(十一) 騒動』(上田秀人・講談社文庫)
『百万石の留守居役(十一) 騒動』(上田秀人・講談社文庫・Kindle版)
『百万石の留守居役(一) 波乱』(上田秀人・講談社文庫)