山本一力作品の核となる料亭「江戸屋」

山本一力さんの『梅咲きぬ』を読む。『あかね空』や『損料屋喜八郎始末控え』などの、山本さんの時代小説ではおなじみの深川の料亭「江戸屋」の女将である四代目秀弥(ひでや)を主人公とした長編時代小説。

梅咲きぬ (文春文庫)

梅咲きぬ (文春文庫)

あかね空 (文春文庫)

あかね空 (文春文庫)

損料屋喜八郎始末控え (文春文庫)

損料屋喜八郎始末控え (文春文庫)

三代目秀弥の一人娘として育った玉枝、後の四代目秀弥の少女時代からさかのぼり、四十路を過ぎても若々しく凛とした美しさを見せる寛政二年の富岡八幡宮の本祭の頃までを描く。寛政二年というと、寛政の改革による棄捐令(寛政元年九月十六日発布)のほぼ一年後で、『損料屋喜八郎始末控え』と時代は重なる。

物語の中で、料理屋を舞台にした騙り事件も秀弥の人となりを語るエピソードとして配されていて、山本ワールドっぽい痛快さが味わえて楽しい。玉枝が六歳の時に入門する踊りの師匠・山村春雅とその連れ合いの福松が祖父母代わりとして、玉枝を支えていく。春雅と福松の心が通い合うシーンが終盤に描かれているが、目頭が熱くなり、涙腺が緩んでしまった。

口説や立ち振る舞いの端正な、目配りの行き届く、大人たちが出てくる物語(少し前の池波正太郎さんの作品に通じる)で、物事にルーズになりがちな昨今のわれわれの生き方に警鐘を鳴らす良書である。

コメント

  1. だいこん より:

    私が時代小説を読むきっかけになったのが梅咲きぬでした。秀弥の胆のすわった部分を描いた箇所は読んでいてスカッとします。この後山本一力さんの時代小説は全部よんでいます。小説のなかの登場人物が現代にはこういう人はいないであろうと思う男気のある人物描写は大好きです。だいこんや菜種晴れも女性が主人公ですね。これからも山本一力さんが女性を主人公にして色んな窮地をしのいで逞しく生きていく小説を書いて頂きたいと思っております。

  2. jidai-show より:

    『梅咲きぬ』を読んでいて、今井絵美子さんの『さくら舞う 立場茶屋』を思い出しました。料亭と立場茶屋の違いはありますが、こちらも凛とした女将が主人公の時代小説です。