女の陥穽 御広敷用人 大奥記録(一)

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女の陥穽 御広敷用人 大奥記録(一)
女の陥穽 御広敷用人 大奥記録(一)

(おんなのかんせい おひろしきようにん おおおくきろく1)

上田秀人

(うえだひでと)
[伝奇]
★★★☆☆

「勘定吟味役異聞」シリーズの主人公・水城聡四郎(みずきそうしろう)が帰って来た。新シリーズ「御広敷用人 大奥記録」シリーズの第1作目。

「水城聡四郎」
 雰囲気を変え、吉宗が厳格な声で呼んだ。
「はっ」
 聡四郎は両手を畳についた。
「広敷用人を命ず。遅滞なきよう励め」
「……御広敷用人」
 言われた聡四郎は怪訝な顔をした。

(『女の陥穽』P.66より)

御広敷は、大奥のことをつかさどる役所。将軍の私的な居住スペースの中奥と大奥の接点にあり、出入りする人やものを統括した。また、御広敷用人は、大奥にいる御台所、若君、姫君の用人も兼ね、嫁入りや婿入り別家などのおりには、付き従った。

御広敷用人は大奥を管理する幕府の役人であり、重要な役割を持ちながらも、これまで時代小説ではほとんど描かれてこなかった。職掌を考えると、小説のヒーローにはなりにくいのもうなずける。これまで、さまざまな役目を持つ幕臣を主人公にしてきた、作者の上田さんが今回取り上げたのが、この御広敷用人である。

勘定吟味役だった聡四郎に新しく振られた役職が御広敷用人。吉宗の財政再建の手段として、大奥の費用の削減を第一に挙げて、その管理部門の聡四郎を起用したと考えるとなっとくできる人材登用といえる。

蛇足ともいうべき背景紹介はこの辺までとして、御広敷用人になっても、上田作品の魅力である濃厚なチャンバラシーンや伝奇色の強いストーリー展開は楽しめる仕上がりになっている。

主な登場人物
水城聡四郎:寄合旗本五百五十石
紅:人入れ屋相模屋伝兵衛の娘で、聡四郎の妻
大宮玄馬:水城家の家士筆頭
相模屋伝兵衛:人入れ屋の主人で、紅の父
伊之介:相模屋の元番頭で、品川の茶店の主
徳川吉宗:八代将軍
加納久通:吉宗の家臣
月光院:七代将軍家継生母喜世の方
天英院:天英院付きの六代将軍家宣の正室照姫
姉小路:大奥筆頭上臈
高山:月光院付きの年寄
松島:月光院に近い上臈
松平清武:家宣の弟で館林五万四千石の藩主
徳川綱條:水戸徳川家家臣
徳大寺公全:権大納言で勅使
高倉永福:従三位で衣紋道を稼業としている
土御門泰連:陰陽師
庭田重条:参議
山科正量:告使
青木行篤:官方副使
壬生章弘:左大史
押小路師英:大外記
大久保長門守教寛:若年寄
松平筑前守近禎:奏者番
永井信濃守:お使い番
徳川宗直(頼致):紀州藩藩主
水野大炊頭忠昭:紀州家付け家老で新宮城主
飯田彦右衛門:新宮藩家老
武藤矢兵衛:御広敷番頭
藤川義右衛門:御広敷伊賀者組頭
能勢惣八郎:御広敷用人
小出半太夫:御広敷用人
平塚市右衛門:御広敷用人
馬場四郎右衛門:お庭番
古坂吉平:お庭番
入江無手斎:一放流の道場主
竹姫:五代将軍綱吉の養女で、清閑寺権大納言煕定の娘
伊丹庫兵衛:会津藩松平家用人
高屋:御広敷伊賀者
松譽詮察:増上寺の住職
保田甚内:伊賀者元組頭
柘植一郎兵衛:伊賀者元組頭
石井源左衛門:神奈川宿本陣の主
光浦市太郎:関東郡代伊奈半左衛門の手代
坂口遠弥:伊賀者の小頭
外堂次郎:伊賀者の小頭

物語●八代将軍となった徳川吉宗は幕政改革に乗り出した。その主眼は財政の建て直しで、手始めは贅沢三昧の大奥の粛清。そのため以前に、勘定吟味役として利用した旗本水城聡四郎を御広敷用人として登用した。
吉宗の密命を実行するべく調べ始めた聡四郎の前に、大奥の警衛を預かる御広敷伊賀者が立ちふさがる。そして、大奥で権を争っていた六代将軍家宣の正室天英院と、七代将軍家継の生母月光院も手を組み、吉宗に敵対すること…。

目次■序章/第一章 将軍の座/第二章 砂の天下/第三章 蠕動の始/第四章 化粧の裏/第五章 街道の争/あとがき/解説 縄田一男

カバーイラスト:西のぼる
カバーデザイン:多田和博
解説:縄田一男
時代:享保元年(1716)八月十三日
場所:江戸城白書院・黒書院・大奥、本郷御弓町、紀州藩上屋敷、浄瑠璃坂上新宮藩上屋敷、湯島聖堂、下駒込村、源介町海手、広徳寺、六郷の渡し、神奈川、鳥羽、ほか
(光文社・光文社文庫・629円・2012/05/20第1刷・350P)
入手日:2012/08/15
読破日:2012/10/25

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