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江戸で一発逆転を狙う、忍者を祖先にもつ若侍を描く青春小説

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『青二才で候』|吉森大祐|中公文庫

青二才で候吉森大祐(よしもりだいすけ)さんの文庫書き下ろし時代小説、『青二才で候』(中公文庫)を紹介します。

著者は、2017年、『幕末ダウンタウン』で小説現代長編新人賞を受賞し、2020年、『ぴりりと可楽!』で第3回細谷正充賞を受賞し、注目される気鋭の時代小説家の一人。近作の『東京彰義伝』も話題を集めています。

本作は、伊勢国安濃津藩に仕える下級藩士澤村甚九郎が、江戸藩邸に出仕して引き起こす騒動を描いた連作形式の時代小説です。

大藩藤堂家に仕える澤村甚九郎は、病弱な兄に代わり江戸藩邸出仕を命じられた。伊賀十五家のひとつとはいえ、所詮は貧しい下級藩士。旧い組織の中で汲々と生きる人生にうんざりしていた若い彼は、江戸で立身出世を目論む。しかし、夢見ていた甘い思惑は外れ、じゃじゃ馬で鳴らす姫様の守役にされてしまう。困惑する甚九郎だが!?

(『青二才で候』カバー裏の説明文より)

時代は、老中首座松平定信の治世下の寛政年間。
藤堂家の貧乏侍の次男坊、澤村甚九郎は病弱の兄に代わり、安濃津から江戸藩邸にやって来たばかり。

澤村家は隣国伊賀の忍者の家の出自で、藩内では外様扱いされている上に、財政窮乏で、下級武士の『解き放ち』も始めていました。

甚九郎は在府のうちに暇を見て、次の生計のあてを見つけるという存念を抱いて江戸に出てきました。

剣術の師匠を目指し、江戸で名をあげ、どこかに道場を開き、余計なお役目など背負わずに、自由に生きていくことを考えていました。

ところが、故郷の道場の大先輩で、三年前に出奔し江戸に出てきていた、江戸での伝手、小川吉右衛門は、かつての颯爽とした青年剣客の面影はまるでなく、町人向けの貧乏長屋で傘張りの内職に励む浪人となっていました。

「十五石だろうが、御家の肩書があるのとないのとでは大違いなのだ。浪人者の先輩の俺が言うのだから間違いがない」
「何を言っておるのですか。小川吉右衛門といえば、安濃津(現 三重県津市)岩井左衛門道場において押しも押されもせぬ塾頭にして師範代。近隣に聞こえた偉丈夫だったではありませんか」
「それは昔だ。今は主家を離れ、浪人をかこっておる」

(『青二才で候』P.8より)

藩の現状に不満を持つ甚九郎に対して、藩を辞めるなと説得する小川。
しかし、当てが外れ、小川の現状にも納得しないまま、甚九郎は和泉橋の藤堂家上屋敷に戻りました。

甚九郎の江戸でのお役目は、藩主藤堂高嶷(たかさと)の脇腹の日奈姫の守役として仕えることでした。
町方から上屋敷に引き取られて勝手に屋敷を出ることを禁じられた日奈姫は、逃げ出そうとしたり、御守役をどんどん入れ替えたりと、じゃじゃ馬ぶりを発揮していました。

その日から五日後、甚九郎は、日奈姫と江戸の町中に連れ出すという任務を遂行しました……。

下級武士から抜け出す手がかりをつかみたいという甚九郎と、籠の鳥のような姫君という待遇から抜け出したい日奈姫を中心に物語は展開していきます。

そんな中で、甚九郎の相談相手となる小川の言葉に励まされます。

「ならば、いっそ、何も言うでない。苦しんでいる人間、苦境にある人間、そこから抜け出そうと必死の人間に、偉そうに安全な場所から、こうすればいい、ああすればいいなどと、もっともな言葉をかけるのではない」
「は」
「苦境の人は、土砂降りの中にいる」
 小川は手元の傘をぱっと広げた。
「――せいぜい、傘をさすぐらいしかできぬわ」

(『青二才で候』P.63より)

江戸で苦労を重ねた、小川の話す言葉の一つひとつが胸に染み入ります。

主人公の澤村甚九郎は、幕末に藤堂藩に仕え、最後の忍者として知られる、澤村甚三郎保祐にちなんでいるそう。
読み進めていくと、著者がなぜ、藤堂藩の下級武士を主人公に据えたのか、その狙いが明らかになっていきます。

本書は、甚九郎と日奈姫の成長を描く青春小説であるとともに、働く人に贈る仕事小説にもなっています。
甘く苦くもどかしい青春の日々が目の前に広がってくるとともに、主人公が日々の仕事の中で感じるイライラや不満、悩みに共感を覚えます。

そして、読み終えた後、とても爽やかな気分になり、早くも続編が読みたくなりました。
実は、本書のタイトルを最初に目にしたとき、志水辰夫さんの初めての時代小説『青に候』を思いました(こちらもおすすめです)。

青二才で候

吉森大祐
中央公論新社 中公文庫
2022年12月25日初版発行

カバーイラスト:遠藤拓人
カバーデザイン:坂野公一(welle design)

●目次
土砂降りに傘をさして
傘ろくろ
脇差一本
誰にもわからない
さむらいなこうど

本文352ページ

文庫書き下ろし

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『青二才で候』(吉森大祐・中公文庫)
『幕末ダウンタウン』(吉森大祐・講談社)
『ぴりりと可楽!』(吉森大祐・講談社)
『東京彰義伝』(吉森大祐・講談社)
『青に候』Kindle版(志水辰夫・新潮文庫)

吉森大祐|時代小説ガイド
吉森大祐|よしもりだいすけ|時代小説・作家 1968年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。 2017年、『幕末ダウンタウン』で第12回小説現代長編小説新人賞を受賞。 2020年、『ぴりりと可楽!』で第3回細谷正充賞を受賞。 時代小説SH...