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会えない日々が孫への愛を深める。わるじいの眠れない夜

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『わるじい慈剣帖(九) ねむれない』|風野真知雄|双葉文庫

わるじい慈剣帖(九) ねむれない風野真知雄さんの文庫書き下ろし時代小説、『わるじい慈剣帖(九) ねむれない』(双葉文庫)を紹介します。

元目付で隠居の身の愛坂桃太郎は、息子が芸者・珠子に作らせた外孫の桃子の可愛さにメロメロ。孫可愛さのあまり、家を出て。孫と同じ長屋に引っ越して暮らすまでに。孫を溺愛するじいじが、孫をおんぶして悪を斬る、痛快時代小説の第九弾です。

東海屋千吉を中心に巻き起こる江戸のやくざの抗争のせいで、愛孫の桃子と遊べない日が続き、心穏やかでない愛坂桃太郎は、近ごろなんだかよく眠れない。そんなある日、桃太郎は、近所で幼い女の子を遊ばせるきれいな女と出会う。何度か顔を合わせるうちに身の上話などもするようになり、徐々に親密になる二人だが、なにやら女は別の顔を持っているようで――。孫を背負って悪を斬る、大人気時代小説シリーズ、第九弾!

(本書カバー帯の紹介文より)

江戸を二分してきたやくざの大物、日本橋の銀次郎が腹心の男に殺されました。陰で、急速に力をつけた新興のやくざの東海屋千吉が操っている模様。ところが、千吉も自分が呼んだはずの刺客の子犬の音吉に刺され臥せっていることになっていました。

桃太郎は、やくざの抗争に巻き込まれて、珠子や桃子が子犬の音吉に襲われることを恐れて、二人に自分と会うことを禁じました。

 桃子を遊ばせると、あっちに行ったりこっちにいったりする桃子を追いかけて、かなり足腰を使うのである。その疲労感が、いまではまったくない。しかも、桃子の無邪気さや愛らしさに触れると、心のわだかまりまで消えて無くなるのだが、いまはわだかまったままである。
 ――桃子はわしの薬のような存在でもあったのか。
 と、痛感した。
 結局、朝まで眠れなかった。

(『わるじい慈剣帖(九) ねむれない』 P.8より)

自身も溺愛する桃子と遊べないことに、淋しさを感じるとともに、心にわだかまりが生じて、夜、眠れなくなりました。

桃太郎の長屋の近くで、兆六という猿回しを見かけました。兆六は猿の代わりに、犬の首に紐をつけて歩いていきました。江戸では飼い犬でもふつうは放し飼いで、紐はつけていません。

兆六は猿回しをしながら、その猿を使って、盗みや万引きを繰り返していました。
ところが、なかなか尻尾を掴ませないので奉行所でも捕まえることができません。そこで、ひまを持て余している桃太郎は、兆六を探ることになりました。

兆六は、近所の山王旅所の境内で、犬の狆助に猿にさせていたように、かっぱらいを教えていました……。

兆六を見張っているときに、境内に、孫の桃子と同じ一歳ぐらいの女の子、あんずを連れたきれいな女に出会いました。女は子どもがいるのに、眉を落としておらず、鉄漿もしていません。何度か顔を合わせるうちに、言葉を交わし、徐々に親密になっていきました……。

桃子に会えなくてひまを持て余し、夜も眠れなくなった桃太郎。
猿回しの正体を探ったり、魚屋で売り出した饅頭の謎を調べたり、元やくざの親分が始めた農作業の秘密を解いたり、と東奔西走して難題を解決していきます。

一章(一話)ごとに完結する連作形式のスタイルを取りながら、それぞれの事件がつながっていき、大団円に向かっていく、ストーリー構成が見事であり、なんとも痛快です。
凄腕の元目付ながら、孫にはメロメロで、孫のためならなりふり構わない桃太郎の人物造形もユニークで秀逸。風野ワールドが堪能でき、読み終えたばかりですが、早くも続きが読みたくなりました。

わるじい慈剣帖(九) ねむれない

風野真知雄
双葉社・双葉文庫
2022年6月19日第1刷発行

カバーデザイン:國枝達也
カバーイラストレーション:室谷雅子

●目次
第一章 猿の代わりの犬
第二章 魚屋の饅頭
第三章 怪しいおもちゃ
第四章 謎の農作業

本文243ページ

文庫書き下ろし。

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『わるじい慈剣帖(一) いまいくぞ』(風野真知雄・双葉文庫)
『わるじい慈剣帖(九) ねむれない』(風野真知雄・双葉文庫)

風野真知雄|時代小説ガイド
風野真知雄|かぜのまちお|時代小説・作家 1951年、福島県生まれ。立教大学法学部卒業。 1992年に、「黒牛と妖怪」で第17回歴史文学賞を受賞しデビュー。 2015年に、「耳袋秘帖」シリーズで第4回歴史時代作家クラブ賞シリーズ賞を、『沙羅...