はむ・はたる


はむ・はたる (光文社時代小説文庫)
はむ・はたる
(はむ・はたる)
西條奈加
(さいじょうなか)
[市井]
★★★★

因業な金貸し婆さんのお吟のもとへ押しかけ金貸し業の手伝いをする浅吉が現れて、貧乏人たちを助けていく、市井小説の傑作『烏金』の続編。前作から二カ月後が舞台。今回は勝平たち十五人の孤児たちを中心に物語が展開していく。

『はむ・はたる』という妙なタイトルが気になって読み始める。

「『はむ・はたる』?」
「ファム・ファタルだ。長崎に行ったとき、知り合うた通詞の男が教えてくれた」
 何遍かくり返してもらったが、どうしても『はむ・はたる』ときこえる。
「男を惑わす女のことだ。遠い異国にも同じような女がいるものかと、なにやら不思議に思えた」

(『はむ・はたる』P.207より)


Femme fatale(ファム・ファタール)はフランス語で、男にとっての「運命の女」(運命的な恋愛の相手、もしくは赤い糸で結ばれた相手)の意味。また、男を破滅させる魔性の女(悪女)のことだそうだ。ブライアン・デ・パルマ監督の映画で同名のものがある。

さて、西條さんの作品に戻ると、はむ・はたる(ファム・ファタル)に関わる人物として、長谷部の婆さまの次男・柾が登場する。歳は二十六で、二十歳になる前から旅暮らしで、時折江戸へ舞い戻ってくる風来坊である。

勝平たち孤児の周りで起こるさまざまな事件に、柾も積極的に関わり、解決への手助けをしていく。そんな中で、柾も孤児たちの力を借りて、はむ・はたる(ファム・ファタル)と再会を果たすが…。

「はむ・はたる」がフランス語のせいかもしれないが、昔のフランス映画のシーンを思い出させる、ユーモアとちょっと切ない感じをもった雰囲気のある作品に仕上がっている。

主な登場人物
勝平:十五人の孤児たちのリーダーで、稲荷売り。十二歳
玄太:孤児。十二歳、大柄でやさしい
天平:孤児で、金貸しお吟を手伝う。通称「テン」、十一歳
三治:孤児で、稲荷売り。身軽で口が達者。十二歳
登美:孤児。皆の母親代わり。常陸出身で十一歳
シゲ:孤児で歳は六つ
ハチ:孤児で、役者みたいな美形
伊根:孤児で歳は九つ
花:孤児でハチの妹。口が利けない
ツネ:孤児で五つの男の子
ロク:孤児、五つ
タヨ:孤児で三つ
惣介:孤児
長谷部義正:百俵扶持の御家人
長谷部の婆さま:義正の母。勝平たち孤児の身元引受人
長谷部柾:義正の弟
佐一郎:義正の長男
汀:佐一郎の妹
安蔵:岡っ引きの親分
お吟:金貸しの婆さん
高安:町方同心
長治:あやめ長屋のいじめっ子
石沢末乃:備中一万石大貫藩下屋敷につとめる女中
山室清十郎:末乃の許婚
おのぶ:日本橋岩倉町の繭玉問屋の安曇屋に奉公する娘
七之助:安曇屋の主人の倅
永代寺門前町の鰻屋『あさ乃』の主人
永田信成:勘定組頭をつとめる五十過ぎの旗本
村瀬:金貸し
山野屋:本所深川界隈の小金貸しの元締め
渋谷兵助:柾と同じ道場の弟弟子
由次郎:仕出し屋蓬莱屋の倅
お倉:由次郎の継母
笠七:博打打ち
お蘭:柾の通っていた剣術の師匠矢内重之進の後妻
相良隼人:柾の通っていた剣術道場の師範代
浅草福富町の町医者のかみさん

物語●
「あやめ長屋の長治」
掏摸やかっぱらいで食いつなぐ暮らしをあらためて、稲荷鮨売りなどまっとうな商売を始めた、勝平をはじめとする十五人の孤児たち。勝平らが暮らす深川六間堀町のあやめ長屋のいじめっ子長治が行方不明となった。日ごろ長治に意地悪をされていて、疑いをかけられた勝平は消えた長治を探すことに…。

「猫神さま」
三治と長谷部柾は、大川沿いの御舟蔵近くの小さな稲荷社で、雨に濡れてがたがた震えていたおのぶと名乗る娘と会った。おのぶは、盗みの疑いをかけられて、奉公先の繭玉問屋をとび出してきたという…。

「百両の壺」
長谷部家の跡取り息子の佐一郎が、武士をやめて商人になると言い出した。勝平は、試しに金貸しのお吟婆さんの手伝いをするように提案した。テンと一緒に借り方を廻るうちに、鰻屋『あさ乃』で浪人の高利貸しと鉢合わせになり、喧嘩をふっかけた…。

「子持稲荷」
登美は、その日の商いを無事に終えた帰り道で、川べりでぼんやりと腹を抱えるようにして縮こまっている仕出し屋蓬莱屋の倅、由次郎の姿を見かけて声をかけた。由次郎は継母お倉から継子いじめをされていて、お倉は妙な男と組んで、蓬莱屋に仇をなそうとしているという…。

「花童」
伊根はハチと花と始終一緒にいて三人で組んで稲荷商いをしていた。その伊根の夢はハチの嫁さんになること。しかし、ハチは妹の花を一番大事にしていて、言葉がしゃべれない花の面倒ばかりをみていた…。

「はむ・はたる」
勝平は、柾が追っている男女の行方を求めて、牛込原町の古びた長屋までやってきた。そこで、『はむ・はたる』の存在を確認するが…。

「登美の花婿」
長谷部家では、勝平以下、年嵩の者が集って、月に二、三度の割合で商いのあれこれを相談する大事な寄合が開かれる。この寄合からつまはじきにされた年少の六人の孤児の間で、もうひとつの大事な寄合が開かれた…。

目次■あやめ長屋の長治|猫神さま|百両の壺|子持稲荷|花童|はむ・はたる|登美の花婿(特別収録)|解説 小路幸也

カバーイラスト:フジモトマサル
カバーデザイン:片岡忠彦
解説:小路幸也
時代:前作から二ヵ月後(天保の改革直後)
場所:深川六間堀町、三軒町、霊岸寺門前町、海辺大工町、田原町、浅草広小路、御舟蔵、永代寺門前町、南森下町、本所南割下水、回向院傍、白鬚神社、向島、寺島村、市ヶ谷柳町、牛込原町、ほか
(光文社・光文社時代小説文庫・495円・2012/03/20第1刷・251P)
入手日:2012/03/22
読破日:2012/03/29

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