湯屋のお助け人 神無の恋風


神無の恋風邪-湯屋のお助け人(5) (双葉文庫)
湯屋のお助け人 神無の恋風
(ゆやのおたすけにん かんなのこいかぜ)
千野隆司
(ちのたかし)
[捕物]
★★★★

文庫書き下ろし。

旗本の次男坊で、直心影流の団野道場で四天王の一人といわれた大曽根三樹之助が活躍する痛快捕物小説の第5弾。三樹之助は、訳あって七百石の取りの家を出て、夢の湯に居候してお助け人と呼ばれて周囲の者に親しまれていた。

巻を重ねるごとに、三樹之助と志保の距離が近くなっていくのが、このシリーズの見所のひとつ。表紙装画の二人もいい感じである。そして、今回、ついに三樹之助が屋敷を出た理由を志保に知られることになる。

 三樹之助が縁談を蹴って、屋敷を飛び出した理由を知りたいのだ。
 縁談をそのままにして、自分は屋敷を抜け出してしまった。きちんと返事をしてはいないのである。
 志保はこのことについて、今日まで何も言わなかった。けれども立場を替えれば、ずいぶん無礼な話ではないかという気がした。
 話そうと腹を決めた。どう受け取るかは、向こうの問題である。
 
(『神無の恋風』P.135より)


三樹之助は部屋住みという境遇だが、本書を読んでいると、武家の次三男のつらさがよく伝わってくる。武家の次三男に生まれた者は、家督を継ぐことはできない。武士として世に出るためには、男子のいない家に婿に行き、そこの当主になる以外に道はなかった。婿になれなければ、部屋住みのまま一生実家で、厄介者として世話になるしか生きる道がなかった。跡取りの兄がなくなっても、その倅の世話になって生家で生きていく。

当主の甥から見た立場が「厄介叔父」になる。男子に生まれながら、一度として世に立つことなく、日陰のままに生涯を終えるのである。江戸時代に生まれていたら、自分もそんな境遇に置かれるのかと思うと、江戸に生きるのもなかなか大変だなあ。


主な登場人物
大曽根三樹之助:七百石の旗本で御納戸頭を務める、大曽根左近の次男坊。本所亀沢町の直心影流団野道場で免許皆伝を許された腕前
大曽根一学:三樹之助の兄
大曽根左近:三樹之助の父
大曽根かつ:三樹之助の母
源兵衛:岡っ引きで、湯島切通町の湯屋「夢の湯」の主人
お久:源兵衛の一人娘
おナツ:お久の娘
冬太郎:おナツの弟
五平:夢の湯の番頭
米吉:夢の湯の男衆
為造:夢の湯の釜焚き
志保:二千石の旗本酒井織部の娘
お半:志保付きの侍女
光達:白い狩衣の祈祷師
長吉:荒物屋の子どもで、冬太郎の遊び友達
芹沢多重郎:団野道場の師範代
山本宗洪:奥御医師
信濃屋善右衛門:深川西平野町の材木屋問屋
讃岐屋宗五郎:本所林町の材木商
加治川屋六左衛門:深川島田町の材木問屋
但馬屋欽兵衛:深川吉永町の材木問屋
お沢:欽兵衛の妾
吉助:日雇い大工
麓詮:寛永寺の高僧
お久実:麓詮の女房
銀太:ゴロツキの若者
兼松彦次郎:家禄八百石の旗本の次男坊
兼松与一郎:彦次郎の兄で跡取り
日啓:乗満寺の住職
浅見桐五郎:寺社奉行所吟味物調役
櫻井元太夫:当番目付

物語●夢の湯の冬太郎は、雨の中、不忍池で小魚獲り遊びをして高熱を出して生死をさまよっていた。夢の湯を訪れて冬太郎の見舞いをした志保は、奥医師の山本宗洪に往診を依頼した。志保とお半を屋敷に送っていった夜、三樹之助は深川の材木問屋信濃屋善右衛門が頭巾の賊に襲われ、供の小僧が袈裟に斬られる現場に出くわした。三樹之助と源兵衛は探索を開始する。すると、不審な祈祷師が浮かび上がった…。

目次■序章 祈祷師/第一章 御殿医/第二章 遊び人/第三章 次男坊/第四章 寺社方

カバーイラストレーション:田地川じゅん
カバーデザイン:重原隆
時代:明記されず
場所:馬喰町二丁目、不忍池、湯島切通町、湯島天神、牛込若宮町、湯島聖堂裏手、神田平永町、池之端、寛永寺、王子、新大橋、南六間堀町、浅草下平右衛門町、下谷二丁目、深川西平野町、神田お玉ヶ池、ほか
(双葉社・双葉文庫・600円・2012/01/15第1刷・299P)
入手日:2012/05/08
読破日:2012/05/11

Amazon.co.jpで購入

コメント

コメント