伊豆の牢獄から決死の脱出劇、三部作完結巻

影の火盗犯科帳(三)伊豆国の牢獄鳴神響一(なるかみきょういち)さんの文庫書き下ろし時代小説、『影の火盗犯科帳(三)伊豆国の牢獄』がハルキ文庫・時代小説文庫より刊行されました。

宝暦七年睦月、火盗改役の山岡五郎作景之は、家臣から江戸で起こっている妙な話を耳にしていた。
山岡家の出入りの豆腐屋の職人、菓子屋の女将、うどん屋の娘が、皆「とこよの国に行く」という同じ言葉を言い残して、消息を絶っているという。
景之が配下の忍び集団「影火盗組」に調べを命じたところ、謎の僧侶が人生に絶望した者たちを言葉巧みに騙して、遠方に連れ去っていることがわかった。
一方、側用人大岡出雲守忠光に呼ばれた景之は、大名や旗本相手に破格の低利で金貸しをしている、怪しい商人の正体を探ってほしいと頼まれる……。


捕物帖と忍者小説の2つの面白さが楽しめる『七つの送り火』『忍びの覚悟』に続く、シリーズの第3弾。本作の主人公、山岡五郎作(後に豊前守)景之は実在の人物(正徳3~明和3年)で、甲賀忍者伴氏の末裔。宝暦六年(1756)霜月に火付盗賊改役に就いています。

文庫の帯に「三部作完結」の文字が踊っていて、軽いショックを受けながら読み始めました。
物語は、「とこよの国に行く」という言葉を残して失踪した者たちの行方を追うために、「影火盗組」の黒川雄四郎と渚が駆け落ち者を装って、真言僧の尚慧に案内されて、常世の国と呼ばれる地へ向かいます。

 尚慧は無頓着に街道を横切った。薄暗い道を歩いて行くと、いきなり林が切れて涸田が広がる小さな原に出た。
 涸田の向こうに奇妙な姿を見せる大きな山が裾を広げていた。
(あの山は……もしや大室山ではなかったか……とすれば、ここは伊東の湯から少し南へ下ったあたりだな)
 雄四郎は忍びの修行の際に、諸国の地誌はある程度学んでいた。
(『影の火盗犯科帳(三)伊豆国の牢獄』P.80より)


雄四郎たちが連れて行かれた「常世の国」は、伊豆半島の東側で、伊東の南に位置する大室山の近くの山、隠し金山でした。そして、正体が疑われ、そのまま囚われの身となります。
大室山の不思議な山の形を知ると、伝奇的なこの話の舞台として格好の地と思えました。

この金山を巡って、幕閣を巻き込んだ大いなる陰謀が明らかになっていきます。物語の終盤では、表紙の装画で描かれているような、「影火盗組」たちによる大活劇が堪能できます。
著者の最新単行本『天の女王』にも通じるスケールの大きなクライマックスで、胸が躍りました。

今巻から読んでも十分楽しめますが、1巻、2巻と通して読むと、「三部作完結巻」の意味が分かります。
捕物小説と伝奇小説が融合した、このシリーズの次なる展開を楽しみにしています。

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『影の火盗犯科帳(三)伊豆国の牢獄』
『天の女王』(鳴神響一・エイチアンドアイ)

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