(じだいしょうせつ・よみきりごめん2)
(しんちょうしゃ・へん)
[アンソロジー]
★★★★
♪各短篇に中江克己氏のコラムが付いていて、短篇で困る背景知識に関するフォローもあって、入門編として手頃かも。
平成九年新潮社より刊行された単行本『歴史の息吹』『白刃光る』『市井図会』の一部を再編集し、新たにコラムを加えたもの。
市井もの&捕物の「傷」(『傷 慶次郎縁側日記』新潮文庫・収録)と、関ヶ原決戦前を描く「伏見城恋歌」(『忠直卿御座船』・講談社文庫・収録)は既読だったが、他は未読だったので大いに楽しめた。
「五輪くだき」は江戸の相撲を取り上げた短篇。同じ作者の『重蔵始末』(講談社刊)のワンシーンを思い出した。「峠の剣」は仇討をテーマにした剣豪小説。「一夜の客」は、遣唐使の時代を描いた珍しい時代小説。杉本苑子さんの作品はこれからどんどん読んでいきたいと思っている。「赤城の雁」江戸後期の博徒大前田栄五郎の若き日を描いた短篇。「死に番」新選組もの。池田大次郎という隊士のことは知らなかった。(我ながら、まだまだ甘いなあ)
時代小説で扱うテーマの幅広さ、バラエティの豊かさを感じさせる企画で、時代小説の入門者ばかりでなく、新しく読む作家を開拓したい人にもおすすめの本である。
物語●「傷」京橋弓町で男が二人、怪我をし、そのうちの一人が、元同心の森口慶次郎を呼んでくれと名指しで頼んでいるという。男は蔵前の札差の番頭で知らぬなではなかった。相手の男は蛙の伝左の通り名をもつ、界隈の鼻つまみだった…。「伏見城恋歌」豊臣秀吉の元側室の松の丸(京極竜子)が伏見城留守役を務める木下勝俊のもとに入城を希望してやってきた…。「五輪くだき」山越藩御側組番頭・橋田十内は、領内で力自慢の見世物興業をしている、百姓の次郎吉とおすみの兄弟に出会った…。「峠の剣」沼田城下から三国峠にほど近い法師の湯に湯治に来ていた隠居の絹は、十に満たない男の子と枯木のように痩せこけた白髪白髯の老翁をおぶった、六十年配と見える男と出会った…。「一夜の客」腹痛に苦しむ古志老人は、唐土に渡るために難波の津に向かう医師の佐伯真束と荷持ちの国麻呂に助けられ、一夜の宿を提供することにした…。「赤城の雁」東海道・袋井宿の近くの山梨村の巳之助一家へ、上州無宿の栄五という二十六、七の育ちのいい、粋な身振りのの旅人が草鞋を脱いだ…。「死に番」元治元年十月、新選組隊長近藤勇が江戸で隊士を募ったとき、徴募に応じた壮士の中に、大村加卜(おおむらかぼく)が鍛えた大刀を腰にした者がいた。御府内浪人池田大次郎であった…。
目次■北原亞以子 傷|≪コラム≫江戸の不倫は命懸け|安部龍太郎 伏見城恋歌|≪コラム≫贅を究めた伏見城築城秘話|逢坂剛 五輪くだき|≪コラム≫江戸の相撲は女性お断り!|佐江衆一 峠の剣|≪コラム≫仇討の成功率はどれくらいだったか?|杉本苑子 一夜の客|≪コラム≫遣唐使たちの知られざるドラマ|伊藤桂一 赤城の雁|≪コラム≫江戸の刺青はやくざだけじゃなかった!|津本陽 死に番|≪コラム≫新選組はどれくらい強かったか?|著者略歴