あきんど 絹屋半兵衛 上・下

あきんど 絹屋半兵衛あきんど 絹屋半兵衛 上・下

(あきんど・きぬやはんべえ)

幸田真音

(こうだまいん)
[経済]
★★★★☆☆

『藍色のベンチャー』改題。単行本刊行時から気になっていた作品。幸田さんは、『小説ヘッジファンド』『偽造証券』『日本国債』『代行返上』『傷―邦銀崩壊―』など、多くの経済小説で活躍されている。この作品は、著者初の歴史小説だが、あとがきで三十年近く前に湖東焼の染付の皿と出会って以来、ずっと温めてきた題材だという。

その湖東焼の窯を起こした人物はどんな思いで始めたのか、彦根藩でどのようにしてそれが発展し、幕末の激動の中で数奇な運命をたどっていくのか、著者が長年集めてきた豊富な歴史資料を駆使しながら、リアリティーがありながら、ロマンあふれる物語が展開されていく。

物語の序章で桜田門外の変を伝える江戸からの第一報が紹介されている。それは近江の豪商「丁吟」による仕立便(臨時速達便)で、丁吟江戸店から京店へ、わずか三日半で送って伝えられ、京店から近江本店へ同日中に転送された。彦根藩が江戸藩邸から国元へ報じたものよりも半日も先んじていたという。大老井伊直弼の駕籠への襲撃の様子や、死傷者の人数、名前に至るまで実況描写されたうえで、この異変後の店の対策も忘れずに記されていた。

最初から時代経済小説の面白さを味わいつつ、「近江商人」と呼ばれる人たちの情報伝達力の見事さ、凄味を感じ、物語に引き込まれていく。物語の前半は、彦根に有田や瀬戸や京に負けない新たなやきものを作ろうとする絹屋半兵衛とそれを支える妻・留津のベンチャースピリッツを描いていく。最初の窯での失敗や販売ルート開拓の困難、共同出資者の脱落という問題を抱える中で、何とか良質なやきものを作り出すことに成功するが……。

そうした苦闘の日々の中で、半兵衛は、「埋木舎(うもれぎのや)」と呼ぶ屋敷に住み、鬱屈した生活を送る部屋住みの鉄三郎(後の井伊直弼)と出会う。激動期の幕末、湖東焼は品質を大きく高める。そして、それは半兵衛の手中を離れ、彦根藩自体の命運を握るものに重大なものに変わっていく。後半では、半兵衛と留津とともに、井伊直弼の生き様にもスポットが当たっていき、物語はダイナミズムを加えてますます面白さを増していく。

井伊直弼の幕末における言動について、現代的な視点から肯定的にとらえ再評価していたのが印象的だった。

幸田真音さんHP http://www.kt.rim.or.jp/~maink/

ブログ◆
2006-05-05 井伊直弼と近江商人
2006-04-11 焼きものと時代小説
2006-04-10 幸田真音さんと近江商人

物語●買い付けの旅から戻った彦根の呉服古着商の絹屋半兵衛は、新妻の留津にきれいな染付の皿を見せた。「きれい……」と留津は思わず声を漏らした。これまで見たこともないようなきめ細かな白。その白の地が皿の周囲をぐるりと取り囲み、中央には太い松の幹に降り立った精悍な鷹の姿が描かれている。この見事な皿のような石物と呼ばれる茶碗類が京で流行っているという。半兵衛は、自身もこの石物の茶碗作り、やきものを始めてみたいと言った…。

目次■序章/第一章 起業/第二章 絹屋窯/第三章 出会い/第四章 藩窯(以上上巻)|第五章 移管/第六章 絵師/第七章 近江の商人/第八章 湖東焼/終章/あとがき/参考文献・取材協力/解説 縄田一男

カバー:平凡社『きもの文様図鑑』より
デザイン:新潮社装幀室
解説:縄田一男

時代:文政十一年(1828)夏
場所:彦根、江戸、京ほか

(新潮文庫・上667円・2006/04/01第1刷・497P、下667円・2006/04/01第1刷・496P)
購入日:2006/04/03
読破日:2006/05/04

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