日暮し同心始末帖 花ふぶき


花ふぶき―日暮し同心始末帖 (学研M文庫)
日暮し同心始末帖 花ふぶき
(ひぐらしどうしんしまつちょう はなふぶき)
辻堂魁
(つじどうかい)
[捕物]
★★★★

文庫書き下ろし。

北町奉行所平同心の日暮龍平(ひぐらしりゅうへい)が活躍する「日暮し同心始末帖」シリーズの第二作め。

龍平は、小十人組旗本の三男ながら、二十三歳のとき、親戚中が反対する中で、「部屋住みでくすぶっているよりは、ましでしょう」と両親を説き、八丁堀の町方同心の家に婿入りした変わり者。妻は、同心の組屋敷がある亀島町界隈で評判の美人、童女のころから浜町の儒者佐藤満斎の私塾に通う学問好きで、龍平と一寸ほどしか違わない長身から、娘時代は亀島小町は身分が低いのに頭が高いとからかわれていたそう。

今回は、物語の中で、女義太夫の送り連が重要な役割を果たす。

 太平の世、浄瑠璃読みは元禄のころから教養階層の侍を中心に浸透していた。
 人形浄瑠璃は廃れたものの、寛政以後に生まれた寄席の高座で、女義太夫の浄瑠璃語りが、その侍層を中心に熱烈な好き者を生み、見世物芸として新たに甦ったからである。
 文化の初め、女義太夫は禁令を申し渡された。
 だが、好き者の侍たちの女義太夫熱は冷めなかった。
 四年前、女義太夫が再び許されると、たちまち寄席の高座になくてならない演目になった。
 女義太夫に魅せられた侍たちは仲間同士で連を組み、高座の務めを終えたひいきの女義太夫を、連の名を記した提灯を連ね派手派手しく宿まで送る。

(『日暮し同心始末帖 花ふぶき』P.29)


作中で、女義太夫について解説がなされている。女義太夫と聞くと、江戸らしい華やかさを感じる。現在でいえば、AKB48のようなものかな。送り連って聞くと、今も昔も若い男子は変わらないなあと思う。

犯人らしき存在が明示されていて単純と思われた事件が、やがて昔の事件を起因とする別の事件とも絡み合い複層化していく。それにつれて物語にグングン引き込まれていく。

「証拠はありません」
 それから頭を昂然とあげた。
「けれど、わたくしは、この一件の確かな証拠をつかみ、明らかにしたいのです。無性にそうしたいのです。わたしは、やらなければならない。なぜなのでしょうか。己自身なぜなのか、己の気持ちがわかりませんが……」

(『日暮し同心始末帖 花ふぶき』P.218より)


物語に登場する公儀勘定吟味役の家に足軽として仕える高田兆次郎の言葉だが、その言葉に共感して龍平は、事件の解決に向かう。ちょっとシビれるシーン。

主な登場人物
日暮龍平:北町奉行所平同心
麻奈:龍平の妻
俊太郎:龍平の息子
菜実:龍平の娘
日暮達広:麻奈の父で、龍平の舅
鈴与:龍平の姑
松助:日暮家の下男
宮三:口入れ稼業《梅宮》の主人
寛一:宮三の息子
吉弥:京風小料理屋《桔梗》の主人
お諏訪:吉弥の娘
永田備前守:北町奉行
福澤兼弘:北町奉行所筆頭与力
柚木常朝:北町奉行所詮議役筆頭与力
鼓晋作:北町奉行所詮議役見習与力
南村種義:北町奉行所廻り方同心
阿部勘解由:公儀勘定吟味役
阿部伝一郎:勘解由の嫡男
槇原藤次:阿部家用人
高田兆次郎:阿部家の足軽
花沢虎ノ助:北町奉行所五番組支配与力
梨田冠右衛門:北町奉行所五番組組頭の年寄同心
波野黒雲:寄席の黒雲亭の主
楓染之助:江戸一番人気の女義太夫
楓参:染之介の姉
長澤類:摂津尼崎藩松平家江戸勤番藩士で、鉄砲洲連の中心
奥田淳三郎:公儀新番組頭の部屋住みで、送り連の飛龍魔連の頭格
瀬島博文:送り連の飛龍魔連の一員
遠藤肇:送り連の飛龍魔連の一員
根来理七郎:剣術道場育心館の道場主
雨吉:物乞い
岡儀八郎:小人目付
升吉:古着屋平田屋の主
豊吉:平野町の裏店に住む行商の男
熊造:物乞い
陵左衛門:物乞いの頭
伊兵衛:煮売り屋《夢楽》の亭主
吉右衛門:銀座屋敷の見張座人
茂七:銀吹き職人
梨吉:亀戸村の百姓
柿右衛門:公儀賄い方
沼吉:伊勢崎町の貸元
三宅久五郎:小石川の直心影流道場の道場主

物語●柳原堤で物乞い二人と浪人が次々に斬り殺される事件が起きた。複数の者が寄ってたかって斬殺し、金は奪われていないという。旗本の三男ながら、町方同心の家に婿養子に入った日暮龍平に、その探索が命じられる。江戸で大人気の女義太夫の楓参と染之介姉妹の送り連(追っかけファン)に、怪しい三人組を見出した…。

目次■序 春の雪/第一話 送り連/第二話 古着/第三話 娘浄瑠璃/結 花吹雪の杜

カバーイラスト:皆川幸輝
カバーデザイン:妹尾浩也
時代:文化十四年(真文二分金が鋳造)
場所:隅田川、本所竪川沿い、北町奉行所、神田豊島町藁店、神田竪大工町、鉄砲洲稲荷、亀島町、駿河台下、柳原堤、左内町、本所石原町、鐘ヶ淵、三十三間堂町、平野町、南迷い橋、鎌倉河岸、富岡町、ほか
(学研パブリッシング・学研M文庫・629円・2010/06/22第1刷・292P)
入手日:2012/05/01
読破日:2012/05/08

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