(はちねんごのたけくらべ)
(りょうけたかこ)
[明治]
★★★☆☆☆
♪樋口一葉の愛と青春を描いた明治を舞台とした時代小説。作者は東京・向島で生まれ育ち、『九郎判官』などの著作がある。
樋口一葉。貧苦の中で小商いをしながら父亡き後の家族を養い、たけくらべ、にごりえなどの珠玉のような短篇小説を残して、流れ星のように早く世を去った明治時代の女流作家。「一葉、夏の日々」とほぼ同じようなイメージしかもっておらず、この本に出会わなければ、興味をもつことはなかったかもしれない人物である。
樋口一葉の代表作「にごりえ」と「たけくらべ」の世界を再構成した2作品と、一葉(夏子)の妹・邦子の視点で、姉との別離を描いた「葬列」、その生き方を読み解いた「日記」の4篇は、時代小説の範疇に入れることができそう。作者自身を投影させたような妙を主人公に、一葉との出会い綴った「一葉、夏の日々」は現代小説にあたる。
本書を通じて、一葉への距離がぐっと縮まり、思わず新潮文庫版の『にごりえ・たけくらべ』を購入してしまった。一葉作品を読了後に、はじめて『八年後のたけくらべ』の本当の面白さ・凄味を実感できるのではないかと確信している。
物語●「お力のにごりえ」銘酒屋「菊の井」のお力は、二階の窓敷居に体をはすにして、浅く腰掛ながら、ぼんやりと往来を眺めていた…。「八年後のたけくらべ」信如は、十五歳で比叡山無動寺谷に修行に出て以来、八年ぶりに生まれ育った東京下谷区大音寺前に帰ってきた…。「葬列」明治二十九年十一月二十三日、一葉樋口夏子永眠。病名喉頭結核。妹の邦子には、大きな借金が遺された。葬儀の日の朝、喪服の邦子は、庭の池を睨みつけていた…。「日記」姉の死後十五年、妹邦子はでき上がったばかりの樋口一葉全集巻の一を胸に抱えて思い出の向島にやって来た…。「一葉、夏の日々」ニ十年の結婚生活にピリオドを打つべく、妙は祖母の家に帰ってきた…。
目次■お力のにごりえ|八年後のたけくらべ|葬列|日記|一葉、夏の日々|解説 常盤新平