(ぜにがたへいじとりものひかえ)
(のむらこどう)
[捕物]
★★★★
♪以前に、若き日の銭形平次を描いた作品集(『銭形平次・青春篇』(講談社大衆文学館=絶版)を読んだことがある。こちらはベスト版といったところか。
テレビ(といってもほとんど見ていないが)とは異なる、軽妙な口説の平次に意外な感じをもった。ガラッ八、こと八五郎との会話は、ボケとツッコミの漫才めいている。この点が『半七捕物帳』との最大の違いかもしれない。文体もかなり俗っぽくなっているのも特徴か。
平次像も推察力はあるが、早飲込みすぎるところが見られ、事件がミスリードされるところがある。その一方で、事件の犯人を情を優先させてあえて見逃す場合も多い。
トレードマークの投げ銭については、『濡れた千両箱』の一編に見られるだけである。恋女房のお静やライバルの三輪の万七親分の活躍も見たい。本書は傑作選だが、もっと他の話も読みたいものだ。
物語●「小便組貞女」材木屋が迎えた妾は、周りの評判は良かったが、小便組と呼ばれる詐欺の一味らしい…。「八五郎の恋人」平次が与力筆頭笹野新三郎のおともで京都に行っている間に、事件が起こり、八五郎が活躍するが…。「濡れた千両箱」深川の材木屋が谷中の檀那寺に三千両を送ることになったが…。「刑場の花嫁」平次が先代に世話になった富島町の島吉親分が厄介な事件に直面し、面食らっていた…。「仏喜三郎」評判のよくない美人の踊りの師匠が絞め殺された…。「雪の夜」前に八五郎の下っ引をしていた田圃の勝太郎という若い男が、遊女屋の主人殺しの下手人として挙げられた…。「花見の仇討」飛鳥山の花見帰り、平次と八五郎は、敵討騒動に巻き込まれた…。「弱い浪人」元浪人で金貸しの後家に惚れられて主人になった男が、月見の晩に事件にあった…。「遺書の罪」平次のもとに美女が謎の遺書を持ちこんだ…。「尼が紅」三河町の大地主の総領息子が亡くなり、半年たって、水茶屋勤めで息子と恋仲だった女が尼となって菩提を弔うために地主の家に乗り込んだ…。
目次■小便組貞女|八五郎の恋人|濡れた千両箱|刑場の花嫁|仏喜三郎|雪の夜|花見の仇討|弱い浪人|遺書の罪|尼が紅|解説 真鍋元之