神州纐纈城
(しんしゅうこうけつじょう)
(くにえだしろう)
[伝奇]
★★★★
♪年末年始のふさわしい本ということで、読み始めた、伝奇時代小説の古典といわれる本書。60年以上前の大正末期にこんな作品が書かれたことはトンデモナイことだ。奔馬性癩(ハンセン病)の描写もエグいが、纐纈城内の怪奇趣味、月子の造顔術など伝奇小説ならではの面白さが随所に。
物語●武田信玄の寵臣・土屋庄三郎は、夜桜見物の折に老人から深紅の布を売りつけられる。これぞ纐纈布! 古く中国で人血で染めたとされる妖し布だ。しかもその布には、失踪した父・庄八郎の名があった。この布が発する妖気に操られ、庄三郎がさまよう富士山麓には、奇面の城主が君臨する纐纈城や神秘的な富士教団が隠れ棲み、近づくものをあやかしの世界に誘い込む。
ところが主人公の庄三郎は、次第に脇に追いやられ、纐纈城主と教団の光明優婆塞の対立を軸に、怪童・高坂甚太郎、女敵討ちの果てに人斬りとなった三合目陶器師、美人造顔師月子、上杉謙信の元家臣の薬師・直江蔵人、塚原卜伝など絡んでストーリーは未完のまま終わる。