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鯖猫長屋ふしぎ草紙

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鯖猫長屋ふしぎ草紙鯖猫長屋ふしぎ草紙
(さばねこながやふしぎぞうし)
田牧大和
(たまきやまと)
[捕物]
★★★★☆☆

猫好きでなくてもつい手にとりたくなる、ちょっと風変わりなタイトル。装画どおりに、猫とその飼い主が大活躍する時代小説である。そういえば、著者の田牧さんの『緋色からくり 女錠前師謎とき帖』でも、主人公の愛猫が重要な役割を果たしている。

 人は見かけによらぬ。
 よく言われる文句だが、「見かけによらぬ猫」というのもいる。そいつは、縞三毛と呼ばれる、白、茶、鯖縞柄の雄猫でで、三毛の雄はごく珍しい。大人の猫にしてはほんの少し小柄だが、すらりとした身体にしゅっと凛々しい顔立ち、毛並みもつややかで、青味掛かった鯖縞模様は飛び切り鮮やか、殿様姫様の飼い猫もかくやというほどの美猫である
(『鯖猫長屋ふしぎ草紙』P.7より)

鯖猫長屋に若い女・お智が越してきたところから、物語は始まる。

 斜め向かいに越してきた女は、名をお智と言った。二十歳を二つ、三つ過ぎたくらいとは、おてるの見立てだ。目尻に気の強さが出ているものの人当たりは丁寧で、育ちも良さそう、身持ちも固そう。なのに、何を生業にしているかはっきりしない。手伝いに来ていた三次という愛想のよい小男は、お智を「お嬢様」と呼んでいた。そんな女が、なぜおんぼろ長屋へ家移りしてきたのか。
(『鯖猫長屋ふしぎ草紙』P.10より)

お智は、サバの飼い主で、猫ばかりを描いている売れない絵師の拾楽に、自分を絵に描いてくれと仕事を依頼されることから、長屋は大騒ぎに。しかし、お智の狙いは、美人画ではなくて、両親の仇を探し出すことで、「三毛猫ばかり描く絵師」が鍵を握っているらしい……。

 だしぬけに、以吉よりも軽く、確かな温もりが膝の上に乗ってきた。はっとする間もなく、湿ったものが、拾楽の手を舐めた。
「サバや」
 現に戻った心地で、愛猫を呼ぶ。
 主に応えて見上げた瞳は、間近で見ると確かにいつもと同じ、青味を帯びた榛色をしていた。
 ようやく、妙な具合に力が入っていた自分の肩に、気づく。
 ざり、ざり。
 お世辞にも滑らかとは言えない肌触りの舌が、こそばゆい。
(『鯖猫長屋ふしぎ草紙』P.190より)

この時代小説の魅力は、何といっても磯兵衛長屋を鯖猫長屋に変えさせて、長屋で一番偉いサバが放つ圧倒的な存在感。謎解きが楽しめる捕物小説でありながらも、ちょっとファンタジーめいていて、猫好きでなくても心がほっこりする一冊。

もっと早くアップしたかったが、作品の世界でいろいろ妄想しているうちに、読了後3週間も過ぎてしまった。

主な登場人物
青井亭拾楽:「鯖猫長屋」に暮らす、三十半ばの売れない絵師
サバ:拾楽の飼い猫
おてる:拾楽の隣の部屋の住人で、長屋のまとめ役
与六:おてるの亭主で、大工
蓑吉:おてるの部屋の奥隣に住む、野菜の振り売り
磯兵衛:鯖猫長屋の差配
お智:鯖猫長屋に越してきた若い女
三次:お智の引越しの手伝いに来た男
おきぬ:長屋の住人
貫八:長屋の住人で、魚屋
おはま:貫八の妹
利助:長屋の住人で、居酒屋の雇われ料理人
佐助:左官職人
九平次:神田下白壁町の左官で、佐助の親方
おてい:九平次の娘
徳右衛門:京橋の小間物問屋の主
長谷川豊山:読本作家
白糸:吉原の花魁
山吹:吉原の新造
品川町の笠屋真砂屋の手代
木島主水介:長屋に新しく越してきた浪人者
掛井十四郎:北町奉行所定廻り同心
加藤木:浪人者
神谷修五郎:御家人次男坊
以吉:盗人
黒ひょっとこ:義賊

物語●
根津権現に近い宮永町に、青味掛かった鯖縞模様が飛び切り鮮やかな美猫がいちばんいばっている長屋があった。人呼んで「鯖猫長屋」。猫の名はサバで、飼い主は、三十半ばの売れない絵師青井亭拾楽。

永代橋の崩落を予見して、長屋の面々を救ったことから、長屋で一番偉い地位を確かにした。そんなサバが仕切る長屋で次々と不思議な事件が起こっていく…。

目次■其の一 猫描き拾楽/其の二 開運うちわ/其の三 いたずら幽霊/其の四 猫を欲しがる客/其の五 アジの人探し/其の六 俄か差配/其の七 その男の正体

装画:丹地陽子
装幀:泉沢光雄
時代:文化五年(1808)。永代橋が落下した翌年
場所:宮永町、根津門前町、寛永寺西の寺前町、感應寺中門前町、神田明神、根津権現、ほか
(PHP研究所・1600円・2013/06/24第1刷・285P)
入手日:2013/06/07
読破日:2013/06/09

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『鯖猫長屋ふしぎ草紙』(田牧大和・PHP研究所)