一の富 並木拍子郎種取帳

一の富 並木拍子郎種取帳

一の富 並木拍子郎種取帳

(いちのとみ・なみきひょうしろうたねとりちょう)

松井今朝子

(まついけさこ)
[捕物]
★★★★☆☆

歌舞伎界に精通し、『仲蔵狂乱』で第8回時代小説大賞を受賞した松井さんの、初の連作捕物小説。舞台を歌舞伎界に置いているので、ディテールまで楽しめる。

この捕物小説の主人公は、歌舞伎作者並木五瓶に弟子入りした、北町の定町廻り同心筧惣一郎の弟、並木拍子郎こと、筧俵四郎。れっきとした武士ながら、狂言作者になろうと、家を飛び出し、人形町の裏通りの大塚長屋で暮らす。五瓶にいわれて芝居の種となるような町のうわさやできごとを集めてきて「種取帳」に記し、五瓶に報告する。しかし、創作の勉強のはずの「種取帳」が持ち前の好奇心と正義感から「捕物帳」に変わってしまうのがミソ。

拍子郎と料理屋の娘・おあさの江戸っ子ぶりと、五瓶とその妻の小でんの浪花者の対比、掛合いが面白く、連作形式の一話ごとに、それぞれの人間関係も深まっていくのも楽しみ。とくに、表題作の「一の富」は、上質の一幕芝居のようで泣かせる。おあさの作る料理も季節感や江戸の風情が出ていて魅力の一つ。シリーズ第2弾『二枚目 並木拍子郎種取帳』(角川春樹事務所)も刊行されていて、拍子郎とおあさの恋の進展ぶりも気になるところ。

物語●「阿吽」芝居の狂言作者並木五瓶の弟子・拍子郎は、芝居の種になるような町のうわさを集め、師匠のうちに報告に来るのが日課だった。拍子郎は、霊岸島の神社の狛犬の阿とあけている口に、少年が白い紙を隠すのを見かけた…。「出合茶屋」拍子郎は、芳町の出合茶屋に幽霊が出現するといううわさを聞きこんで、和泉屋のバラガキ娘のおあさと、その出合茶屋に入った…。「烏金」拍子郎の長屋の近くに住む、金貸し老婆の屋敷の前の木に、首括りがあり、その後五日ほどして、その木に再び首括りの縄が何者かによって掛けられるという事件が起こった…。「急用札の男」芝居の幕が開いている間に、急用で呼び出すための急用札というシステムを使って、大店の主人がかどわかされるという事件が起こった。急用札を書く仕事を割り振られた拍子郎が事件の解決に乗り出す…。「一の富」市村座の木戸をあずかる栄吉は、顔見世興行のさなかに、富突きの講中を思いついた。ひとりあたり四百文の掛け金で、富札を買う資金を集め、当っても外れても倍以上の二朱を戻すというものだった…。

目次■阿吽|出合茶屋|烏金|急用札の男|一の富|解説 細谷正充

装画:小泉英里砂
装幀:芹澤泰偉
解説:細谷正充
時代:文化元年(十年前の寛政六年に並木五瓶が大坂から江戸に迎えられる)桜の頃
場所:霊岸島、高砂町、市村座、芳町、堀江町、新場(魚市場)、人形町、両国橋、八丁堀、葺屋町、本所回向院ほか
(ハルキ文庫・660円・04/06/18第1刷・262P)
購入日:04/07/07
読破日:04/07/17

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