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さらば愛しき人。上杉と織田が10年前の事故死の真相を追う

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『脳科学捜査官 真田夏希 エピソード・ブラック』|鳴神響一|角川文庫

脳科学捜査官 真田夏希 エピソード・ブラック鳴神響一(なるかみきょういち)さんの文庫書き下ろし現代ミステリー、『脳科学捜査官 真田夏希 エピソード・ブラック』(角川文庫)をご恵贈いただきました。

本書は、神奈川県警で心理職特別捜査官の真田夏希が、専門知識を生かして難解な事件に遭遇して活躍する警察小説「脳科学捜査官 真田夏希」シリーズの第10弾です。

警察庁の同期である上杉輝久と織田信和は、五条香里奈の30歳の誕生日を横浜で祝っていた。だが、警察キャリアとして順調に歩んでいた香里奈に突然の不幸が襲い掛かる。彼らと別れた後に香里奈は、暴走してきた車に轢かれ、帰らぬ人となってしまった。それから10年後、神奈川県内の背乗り事件を切っ掛けに、香里奈の事故死に疑問を抱き始めた上杉と織田は、2人だけで香里奈が当時追っていた事件を調べ始めるが――。

(本書カバー裏紹介より)

前作『ストレンジ・ピンク』で遭遇した、「背乗り(はいのり)」と行為にヒントを受けた、神奈川県警刑事部根岸分室長の上杉輝久と警察庁警備局理事官の織田信和。

二人は、警察庁の同期仲間で、10年前のひき逃げ事故で帰らぬ人となった五条香里奈の死に不審を抱き、当時香里奈が追っていた事件を調べ始めることにしました。

「やはりおかしなことが出てきた」
「ひき逃げ犯の荒木重之のことか」
「そうだ……背乗りではないかという、わたしたちの考えはあながち間違いとは言えないかもしれない」
「本当か」

(『脳科学捜査官 真田夏希 エピソード・ブラック』P.25より)

背乗りとは、工作員や犯罪者などが正体を隠すために、実在する赤の他人の身分・戸籍を乗っ取って、その人物に成りすますことを指す警察用語です。

ひき逃げ犯の荒木は、事故の翌々日の早朝、津久井郡水沢村の山奥で縊死しているのが発見されました。
神奈川県警の交通捜査課は、香里奈の死を報道などで知った荒木が事故を苦に自殺したものと判断し、単なるひき逃げ事案として被疑者死亡のまま送検して事件を処理しました。
もう一度、加害者荒木の経歴を洗い直すと、不審な点が次々と出てきました。

「ところで、香里奈の死の謎を解くためにはもうひとつの軸があると考えている」
「ひとつの軸は荒木重之の正体だな。もうひとつの軸というのは彼女が扱っていた事件か?」
「香里奈はあのとき神奈川県警刑事部の捜査二課管理官だった。もし、我々が考えているように、彼女の死が単なる事故でないとしたら……」
 織田は言葉を呑み込んだ。

(『脳科学捜査官 真田夏希 エピソード・ブラック』P.37より)

二人は、香里奈が30歳の誕生祝いで呟いた「県内の罪のない子どもたちのためにも、わたしは頑張らなきゃ」の言葉を手がかりに、当時彼女が扱っていた事件を追うことに……。

警察庁のエリート官僚の織田と、出世コースから外れ窓際となった上杉。
香里奈を愛し、その死を未だに引きずる二人が、失われた時を埋めるべく過去の事件に向き合っていく姿に、男気とセンチメンタリズムを感じます。

二人にとって、香里奈を想起させる真田夏希の存在。
恋愛未満の三人の関係が今後どのようになっていくのかも、ファンとして目が離せません。

脳科学捜査官 真田夏希 エピソード・ブラック

鳴神響一
KADOKAWA 角川文庫
2021年8月25日初版発行

文庫書き下ろし

カバー写真:NuttKomo/ Getty Images、RunPhoto/ Getty Images、
カバーデザイン:舘山一大

●目次
序章 悔恨
第一章 韜晦
第二章 威迫
第三章 展望
第四章 策略

本文253ページ

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『脳科学捜査官 真田夏希』(鳴神響一・角川文庫)(第1弾)
『脳科学捜査官 真田夏希 ストレンジ・ピンク』(鳴神響一・角川文庫)(第9弾)
『脳科学捜査官 真田夏希 エピソード・ブラック』(鳴神響一・角川文庫)(第10弾)

鳴神響一|作品ガイド
鳴神響一|なるかみきょういち|時代小説・作家 1962年、東京都生まれ。中央大学法学部卒。 2014年、『私が愛したサムライの娘』で第6回角川春樹小説賞を受賞してデビュー。 2015年、同作品で第3回野村胡堂文学賞を受賞。 ■時代小説SHO...